格好付けた発言だが、息切れのせいでまるで決まらない。
明彦と一緒に来た少年も同時に足を止め、結月に向かってウインクする。
はぁ……はぁ……待たせたな、我が救世主よ
格好付けた発言だが、息切れのせいでまるで決まらない。
明彦と一緒に来た少年も同時に足を止め、結月に向かってウインクする。
こんにちは、君に会えて俺は嬉しいよ
確かに彼も走っていた筈だが、明彦とは対照的に一切呼吸は乱れてなかった。
乙女ゲームで言う所のチャラ男系かな?
でも何でも出来そうな点を取ったら王子様系?
結月はそんな事を考えたが、慣れた様子の彼の対応に疑問を覚える。
チャラ男なら確かに誰彼構わずこういった事言いそうだけど……前からわたしを知っていたみたい
しかし考えに沈む事は無かった。
隣の美咲が声を掛けてきた彼から引き攣った表情で距離を取っていたからだ。
…………っ!
ミサちゃんどうしたんだろ?
心配になって声を掛けようとするが、その前に例のチャラ男の方が口を開いた。
君、俺の事苦手なタイプだって判断したでしょ。酷いなぁ
肩を竦めておどけたようにしながらの発言だ。
その彼の姿に更に美咲の表情が曇る。
……わかったら寄って来ないで下さい
そうしてあげたいのは山々なんだけど、ユズちゃんの友達ならそういう訳にもいかないんだよなぁ。
彼女との距離感的に完全にそうでしょ?
更に攻防の続く2人を見ながら結月の中で旧友の姿と彼が一致する。
呼吸を整えている明彦に小声で思わず尋ねた。
ねぇアキ、彼もしかして……ケイ君じゃない?
はぁ……はぁ……さ、流石俺の認めた救世主。鋭いな
最初はわからなかったんだけど、言わなくても感情を読み取る事が出来るような天才って他に知らないから。
……良く聞いてみれば声質も似てるしね。流石に声変わりしたみたいだけど
結月は乙女ゲーマーで声優ファンでもあるので声質には敏感な方である。
やはり間違いでは無かったと納得した。
でもケイ君一体どうしたの?
昔はあんなんじゃなかったよね
俺の慧眼を持ってしても未だ解き明かせてない謎だ
【訳:考えてみたけど、まだわからない】
思わず尋ねた結月に漸く息を整え終わった明彦はそう答えた。
そっか。そのうち話してくれると良いね。
ケイ君には仲良くして貰ってたし、何かあったなら知りたいよね
ユズもそう思うか
しかしそう言いながら明彦の表情は曇る。
ユズもそう言ってるなら教えて貰いたい所だけど、簡単に踏み込める事じゃ無さそうなんだよな。さっきの過去の女子との付き合いについて語ってた様子とか思い出すと……。
ケイが考えを読んでくれれば聞けるかも知れないけど……何かそれもズルみたいで嫌だし
そんな風に考えていた為、次の結月の発言に驚く。
でも簡単に聞き出せる事じゃ無さそうだよね。
ケイ君って昔から秘密主義っぽい所もあるし楽しかった思い出であそこまで変わる筈無いから……
……考えている事は一緒か
そう思うと驚きは嬉しさに変わった。
まぁでもそれは後かな……あのままだとケイ君には悪いけど……ミサちゃんも可哀想だし
美咲は迫ってくる敬一にもう涙目になっている。
俺の力を持ってすればあんなのはどうにでも出来る。救世主はそこで見ていると良い
【訳:俺が止めてくるからちょっと待ってて】
うん、わかった。宜しくね
結月がそう言えば明彦は少し離れた位置で未だにやり合っている敬一と美咲の許へ向かった。
ケイ、余りユズの友達を困らせるな
そう言えば敬一はすぐに動きを止めた。
あーあ。迎えが来ちゃったからここまでだね。
今度又ゆっくり話そうか
嫌ですっ!
敬一の軽薄に見える発言に完全に嫌悪感を示した美咲は即返す。
ははっこれは随分嫌われたなぁ
私は貴方のような軽薄な人間は嫌いです
言うねぇ
美咲に肩を竦めて敬一は返す。言葉とは裏腹にその姿は楽しそうでもあった。
ケイってあんな楽しそうにする事もあるんだなぁ
明彦は思わずそう考えた。
ごめんね、俺他人に嫌われるって事が珍しいから君の事気になっちゃって……思ってたよりも絡んじゃった
意外にも敬一は続けて美咲に謝った。
本気で嫌だったみたいだから今後はもっと気をつけるよ
そう言われると美咲も彼の事を突き放すような対応をした事に少し罪悪感を覚える。
い、いえ……今後気をつけてくれれば良いです。
私もちょっと言い過ぎました
ふぅん……嫌がった相手だっていうのに……ちゃんと謝れるんだね、君
……馬鹿にしてるんですか?
あーごめん。そんな本気で怒らないでよ。
言い方悪くて伝わらなかったみたいだけど……俺は凄いなって思っただけだからさ
言いながら敬一は待っている明彦を振り返る。
じゃあそろそろ先に進まないとだよね、ユズちゃん待たせてるし
ああ、戻るぞ
それに明彦が応じ、待っている結月の方に歩き出した2人を追うように美咲も後を着いて行った。