ザッ……ザザッ……
ザザッ……ザー……

目の前の景色が、テレビのノイズのように何度も歪む。
まるで、何かにチャンネルを合わせるように……。

ザー……ザザー……
ザー……ザザッ……
ザッ…………ま……
い……で……………ザーッ

激しいノイズに紛れるように、何かが聞こえたような気がして、僕はそれを聞き取ろうと耳を澄ませる。

弱弱しく、とても悲しそうな、聞き覚えの無いその声は、けれどどうしようもなく心を、魂を揺さぶるような、そんな響きを持って僕へと届けられる。

あなた……ザッ……ていま……ザザッ……
いつまでも……ザー……

ノイズが徐々に晴れ、聞こえてくる声が明確になるにつれて、僕の胸に哀切の感情が沸きあがってくる。

その声が悲しい。
その声が寂しい。
その声が懐かしい。
その声が愛おしい。

僕の心で様々な感情が溶け、交じり合う。
そしてその感情に後押しされるように、僕は声をかけた。

キミは……誰……?

私は……
ザッ……ザザー……ザー……

突然ノイズが激しくなり、声が僕から遠ざかっていく。

待って!
君は……………!

遠ざかっていく声を追いかけようと、懸命に足を動かすけど、声は近づくところかさらに遠くへと離れていく。

待っ……ザッ……ます……
や……ザー……そ……
ザッ……ザザッ……
ザザッ……ザー……

一際ノイズが大きくなる。
そしてやがて、ぶつり、と電源が落ちたような音がして、目の前が闇に包まれた。

寝起き特有の軽い酩酊感を覚えながら、ゆっくりと目をあける。

その途端飛び込んでくるのは、見慣れた自分の部屋。
同年代に比べてものは少なく、幼いころから親に厳しくしつけられてきたため、綺麗に片づけられている。

そんな、思春期の男らしくない部屋をぼんやり眺めていた僕は、目の端に涙が乾いた後があることに気づき、乱暴に拭う。

またあの夢か……

ここ最近になって、毎晩のように見る夢。

聞き覚えなんてないはずなのにひどく懐かしい声と、ノイズの向こうに見え隠れするぼんやりとした姿に寂寥感が沸き起こって、その夢を見ると決まって、僕はいつも涙を流している。

特に悪夢というわけでもないのだから今のところ問題ないのだけれど、だからといってこのまま放置しておくのも気が進まない。

といってもなぁ……
こんなもん、誰に相談したらいいんだよ……

学校に行くために制服に腕を通しながら、ぼんやりと相談相手をシミュレートしてみる。

――両親の場合

父さん、母さん……
最近、毎日同じような夢を見るんだけど……

何!?
それはどんな夢だ!?
エッチな奴か!?
そうなんだな!?
その夢を見る方法を今すぐ教えろ!

あなた……?
何を言ってるのかしら?
たとえ夢でも浮気は許さないわよ?

か……母さん!?
待ってくれ!これは違うんだ!
話を聞いて……
ぎゃ~~~~す!!

…………駄目だな、うん。
次!

――妹の場合

最近さ、毎日おんなじ夢を見るんだよね……

へぇ?
どういう夢なの?

よくわかんないんだけど……人の影?みたいなのが出てきてさ……

その人の影って女の人?

はっきりとは分からないけど声を聞く限りはそう……かな?

っ!?
お兄ちゃんに女!? 彼女!?
お父さん! お母さん!
お兄ちゃんが彼女できたって!

なに!?
それはマジか!?

あらあら……
それじゃ今夜はお赤飯ね!

話を聞いて!?

……駄目だ、結局家族そろってからかわれる未来しか浮かばない。

というか、うちの家族にまともに相談できる相手がいない現状に泣けてきた……

小さくため息をつきながら膝を地面に着き、「orz」と項垂れる僕。

けれどすぐに、ぶるんぶるんと頭を振って妄想を振り払った僕は、きちんと制服を着こなしていることを確認してから自分の部屋を出た。

はぁ……

友人

どうしたよ?
朝からため息なんてついて……

教室について早々、僕が今朝のことを思い出してため息をついていると、近くにやってきた友人が声をかけてきた。

いや……
改めて僕の家には真面目に話ができる人がいないと思い知って絶望してるだけだよ……

友人

なんだそりゃ!

僕の思いため息を、友人は呵呵と笑い飛ばす。

友人

それよかさ……
もうすぐテスト休みじゃん?
旅行いこうぜ、旅行!
この間雑誌でいい温泉宿見つけたんだぜ!

僕の悩みには興味ないとばかりに、あっさりと話題を切り替えてくる友人。

他人に親身になれるけど、人の内面に土足で踏み込むようなまねをしないのは、この友人の数少ない美点だと思う。

それにしても年頃の男子高校生がテスト休みの旅行先に温泉宿を選択するって、どんだけ趣味が爺臭いんだよ……。

友人

そこの露天風呂がさ、なんと混浴らしいんだ!

ふひひ、と顔つきが途端にゲスくなる友人。

……前言撤回。
こいつは紛れも無く年頃の男子高校生だ。

何はともあれ、この友人の薦めもあって、僕らはテスト休みを利用して、友人が見つけたという温泉宿に旅行することになった。

そして僕は、そこで彼女と出会うことになる。

いつまでもキミを 前編

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