遠くからジリリリとベルのような音が聞こえる。
遠くからジリリリとベルのような音が聞こえる。
んん……
その音はだんだんと大きくなっていく。やがて頭の中に直接響きだし――
だあっ!!
俺は掛けてあった毛布を跳ね除け、勢いよく飛び起きた。
そして、枕元にあった元気よく鳴り続ける目覚まし時計をやや乱暴に止める。
あーあ。もう出勤か……
重い体を無理矢理起こし、ベッドから立ち上がる。俺はそこで大きく伸びをして、『ある事』に気付く。
なんだかいつもより視点が低い気が……。それに俺ん家ってベッドだったけ…?
それどころではない。そもそもここは俺の部屋ですらない。
その部屋はピンク色のかわいい家具で統一されていて、全体的にきれいに整頓されている。本棚には全く知らない少女雑誌や少女漫画。さらに俺の部屋には絶対に置いてない勉強机まである。その横にはー―赤いランドセルがあった。
一言で言えば、女子小学生の部屋といったところだ。
なんで俺はこんななところに……。そもそも俺は昨日まで普通に仕事して帰って……。
そこまで言って、俺は思い出した。
……違う、帰ったんじゃない。俺は……。
仕事を終えた俺は、いつもの道を歩いていた。
そしていつものように横断歩道を渡ったその時――
!!!
俺は走っていたトラックに気付かず――
――死んだんだ。
――そのまま轢かれて死んだ。
俺は急に怖くなり、その場にしゃがみ込む。
――あの後の記憶はない。しかし、『死んだ』という感覚ははっきり残っている。
……なのに、なぜ俺は今こうして生きてるんだ?
ふと、部屋の隅にある全身鏡が目に入った。
そこには、うずくまり小さくなっている女の子の姿があった。
――ん?ちょっと待て。女の子?
鏡なんだから、本来は二十歳後半のおっさんが映ってないとおかしいのだが……。
俺は鏡に近づいて、全身を眺める。そして体をぽんぽんと軽く叩いたり、ほっぺをつねったりした。
もちろん、鏡の中の少女は俺の動作と鏡写しに全く同じように動く。
さらに、自分の両手を見たり髪の毛をいじったりもした。今更だが、すごく可愛らしいピンクのチェックのパジャマを着ていた。
そこでやっと俺は確信した。
――俺は……、俺は……!
女子小学生になっている……!?
口に出してみるとなんて変態チックでアホな言葉なんだろう。
なぜ女子小学生に……。もしや!
俺は、以前生きている時に知った『輪廻転生』という言葉を思い出した。
転生輪廻とも言うが、死んであの世へ逝っても、この世に何度も生まれ変わるというものだ。
俺は女子小学生に転生したというわけか
……!
なぜ女子小学生に生まれ変わったのかは置いといて、これでなんとなく筋は通る。
つまり俺は、女子小学生として新たな人生をスタートさせるのだ!
俺はある意味、死んでラッキーだったのかもしれない!
さくらこー!早く降りて朝ごはん食べちゃいなさい!学校遅刻するわよ!
階下で女の人の呼ぶ声が聞こえた。おそらく転生後の俺の母親だろう。
俺はとりあえず「はーい」と返事だけをした。『さくらこ』とは俺の新しい名前か……。名前まで可愛らしい。
机の上に名札が置いてあり、そこで自分のこれからの名前が『大内桜子』だと知る。
ま、さっさと着替えて飯でも食うか
――しかし女子小学生として生きるのがどれだけ大変か、俺は次の瞬間から知ることとなるのだった。