ルイ・ヴェロニカは高台に立って彼方を見つめていた。
偵察をしているわけではない。彼の中でのルール、いわゆるルーティーンというやつである。
今日はよく晴れてる。
いい天気だ
ルイ・ヴェロニカは高台に立って彼方を見つめていた。
偵察をしているわけではない。彼の中でのルール、いわゆるルーティーンというやつである。
ヴェロニカ隊長。もうすぐブリーフィングですよ。
アリアか。
二人きりの時くらい名前で呼んでくれてもいいんじゃないか?
背を向けたままルイは答える。空から目を離すそぶりはない
何言ってるんですか。ここは戦場です。戦場であればあなたは上司です。
相変わらずお堅いなアリアは。
ルイはかたくなに遠い空から目を離そうとしない。
アリアはルイの前に回りこむと、ハッと息をのんだ。穏やかな口調とは裏腹に、きつい目線で空の奥を眺め続けていた。
アリア。君はここを戦場だと呼んだね。
アリアが言葉を発する前に、ルイは先回りした質問をした。
アリアは無言でうなずく。
僕はね、この場所を戦場だと呼びたくはないんだ。
ここは戦をするための場所ではなく、取り返すべき場所だと思っている。
アリアは黙ったままルイの言葉に耳を傾ける。
ただのエゴだといえばそれまでなんだがね。
ただ、僕がもっとも戦争をする場所にこの身を置いている理由はただ一つ。ここだけじゃない美しい場所を、自分たちの元に取り返すためだ。
アリアはルイの言葉に耳を傾けながら遠く地平線を見る。
そこに広がる景色は確かに美しかった。
これがこの人の守りたいものなのか。
自分の愛する人の守りたい景色なのか。
この景色を国の人たちがいつでも安心して笑ってみられるようにしたい。
君と並んで笑ってみられるようにしたいんだ。
隊長……私は……
なんてね。
柄にもなくまじめなこと言っちゃったかな。
早くしないとブリーフィングに遅れちゃうし、そろそろ行くとしようか
アリアのほうを向いたルイの顔はいつも通りやわらかい表情に戻っていた。
自陣に戻るルイの背中をアリアは眺めたままぼーっとしていた。
隊長……私は……
のど元まで来ていた言葉を飲み込み、アリアはルイの後ろに駆け寄る。
後ろからでは彼の表情は読み取れないが、気持ちは少し通じているような気がしていた。
ここ数日、敵方に不穏な動きがあるとの連絡がある。
皆には十分注意してほしい。
山場はもうすぐかもしれないが、私が責任をもって君たちを生きて生きて返そう。
ルイ力強い演説に兵士たちの士気が上がっているのが容易に見て取れる。
勝利はサルビアの名のもとにあり!!
雄たけびが一気に上がる。
アリアはその様子をルイの隣で眺めていた。
この国のために命を懸ける。
さすが……ルイ・ヴェロニカ……
時はさかのぼること5年前。
後に大戦争の引き金となるサルビアのスパイによる殺人事件の起きた日である。