これは昔のお話。

過去に一度、ヘルヘイムが滅びたことがありました。

ヘルヘイムは隣国に裏切られ、民は殺され、略奪の限りにあいました。

そのヘルヘイムにある騎士がいました。
彼は人々を守れなかった自分の無力と隣国を憎み、禁忌に手を染めました。

その禁忌は運命の魔女に力を請うたのです。
魔女は不死の力を与えました。
その力により騎士は不死の魔人となりました。

そして魔人は隣国の王たちを殺し尽くしました。

そのおかげでヘルヘイムは隣国からの支配を脱し復活したのです。

しかし、死ねない魔人は今もこの世を彷徨い歩いています。

そんな彼を親愛と畏怖を込めて私たちは、
ヘルヘイムの魔人、と呼ぶのです。

うぅ…

目を覚ますとそこは木の天井が広がっていた。

ベットから起き上がり周りを
見渡すとそこはどうやら小屋であるようだ。

だが、そこに私の前に現れた騎士の姿はなかった。

ベットから降りようとすると足が痛んだ。
火傷や森の中で切ったのだろう。
しかし足を見てみると足には包帯が巻かれていた。
まさか、ヘルヘイムの魔人が?
まず、本当にあの騎士はヘルヘイムの魔人なのか。
生き残りの我が国の兵士ではなかったのではないのだろうか。

そんな疑問が頭の中で反響していると、ドアが開いた。
そしてあの白くて黒い騎士が現れた。
ベッドの上にいた私は彼が現れたことにより気を失う前の出来事が頭を過ぎった。
ぎゅっと私にかけられていたシーツを掴む。

……


私と騎士の間に無言と緊張が走る。
いや、私一人が緊張していた。

騎士は一歩二歩と歩き出した。
心臓の音がドクドク、と鼓動する。
その音は私の緊張を加速させる。

そして騎士は私の目の前にまでやってきた。

すると、私に騎士はこうべを垂れた。

え…?

ヘルヘイムの姫君とお見受けする。どうかこのような姿で御前に立つことをお赦し願いたい。

…どうして私がヘルヘイムの姫だと?

透き通った青の髪と瞳。
それは千年たっても変わらなかった。


ヘルヘイムの王族は代々、青の髪と瞳を受け継いでいる。例外的に、受け継がれないものがいるがその者は継承権を失う。そしてこの騎士はそのことを知っていた。しかも千年の時を語っている。
ここまで状況証拠がそろえば疑惑は確信へ変わる。

あなたがヘルヘイムの魔人…?

……いかにも。千年経とうが死ねない魔人。


騎士は自嘲するように魔人であることを認めた。

そして伝説は私の目の前だけに現れた。

何故私を。

何故私だけしか。

魔人でなら全員救えたのではないか、そんな気持ちが拡がったときには口は動いていた。

なら答えて!なぜ私だけを助けたの?あなたの力があれば城のみんなだって…!


おこがましいことはわかってる。

みんなを助けて欲しかったなんて。

けれど聞かずにはいられなかった。
なぜ私だけなのか。
何故みんなは助けなかったのか。

私は過去の人物だ。本来ならば存在してはいけない。過去が未来に滞在してはならない。私はそう考えています。

魔人の言いたいことは昔の人間が未来の人間に口出し、介入することはしない、ということだろうか。

じゃあ何故私を助けたの!!

特に意味もありません。目の前に居たから助けた、それだけです。

嘘、ね

……


魔人はまるで矛盾を見透せられるのをわかっていたように表情は変わらなかった。

あなたが意味もなく自分の信条を曲げるような人物には見えない。


彼がいなければ私はあそこで死んでいただろう。死んでいたはずの私は生き残った。

私はベッドから降りて魔人を通り過ぎ、ドア前にかけてあったローブを手に取った。

助けてくれてありがとう。

この言葉に偽りはない。
身をていして自分を守ってくれた命の恩人である。しかし彼の目的と心がわからない。
 だから……いえきっと私は許していない。救える力を持ちながら行使しなかった魔人を。この思いが私が自分勝手でいかに不条理であることはわかっている。救うも救わないも魔人の自由。
だから、

彼方が救えない者を救うわ


ローブを被り、ドアを開け歩き出す。
せめて私だけを救った意味を教えて欲しかった。そんなことを思い浮かべながら。

そして部屋の中で一人残った騎士は自嘲気味に笑う。

救える物も救えない、か

あてもなく歩き出した私は城下町の様子を見ることにした。果てしなく自殺行為に近いかもしれない。だが、ここで暮らしていたのだ、気になってしまう。どうか果物屋さんのおばさんは無事ですように。どうか教会の子供達は逃げ出せていますように。
こんな願いを繰り返した。

城下町、サイサリス
1000年前、最初に復興した始まりの町。幼い頃から私はここで育った。当時はとても活気があって商いも盛んだった。
そんな賑やかな町は遠い世界へ行ってしまったようだ。ゴーストタウン。その名前が浮かび上がるほどだった。

帝国の兵士を除いて誰一人大通りにはいない。フードを深く被り、大通りの端を歩き始める。すると帝国兵は私に気がつくと

そこのお前!

私に向って駆け寄ってて来た。

住民は広場に集まれ、との命令が出ている!知らないのか!

…すみません、すぐ向かいます。


そそくさに返事をして、広場の方へかける。

早く行け。この呪われし民が。

呪われし民、兵士はそう言った。


大昔、我々の祖先は元の土地を追われこのヘルヘイムまでやってきたと言う。
しかし、ヘルヘイムは魔女の住む土地だと恐れられていた。そう、そこには運命の魔女アルストロメリアが住処にしていた。祖先は仕方なく魔女と交渉を持ちかけた、どうか我々にここを貸して欲しい、と。



魔女は意外なことにもそれをすんなり受け入れた。
だが条件があった。
王の娘を1人、私の後継者として捧げること。
祖先たちはしぶしぶ受け入れた。
そして翌年に産まれた姫は魔女に捧げれた。
そして契約は結ばれた。





こうして我々は魔女と契約した
「呪われし民」
と呼ばれるようになった。

そして私は彼らで言う

呪われし姫

この愚民ども!!お前たちの呪われし姫はここだ!!

びくっと肩を震わせる、その怒声はどうやら広場から聞こえてきたようだ。どうやら私のことを指してはいないらしい。
しかし嫌な予感がする、その思いが私を広場へ急がせた。

広場には多くの人々が集まっていた。その多くの人から不安や恐怖が感じられた。そして彼らの視線が広場の一部に集中していた。


断頭台ーーそこには軍服を着込んだ傲慢そうな男と、手を後ろで縛られた彼女の姿だった。

ナリルッ!


咄嗟に出た声は民衆のどよめきにかき消された。

第2話 呪われし、民と姫

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