起きた瞬間に異変に気付いた。
っ!?
起きた瞬間に異変に気付いた。
窓から陽射しと共に煙が目についた。
しかも、そこら中から上がっている。
何より、あちこちから人の悲鳴が聞こえてくる。
それも、この洋館の中からも。
何が起こってるんだ……?
外から何かが爆発する音が聞こえた。
ほぼ同時に悲鳴が再び響く。
……っ
俺は震える体を鼓舞しながら、ガウンを羽織り、ベッドから出る。
怖いけど、そんなことも言ってられない。
館の中からも喧騒が起こっているということは、姉妹も巻き込まれている可能性が非常に高い。
ここのただ一人の男として、寝ているわけにはいかなかった。
勇気を振り絞ってドアのノブを回す。
部屋の外は、まるで地獄絵図だった。
館中から血の臭いがする。
周りを見てみると、全く知らない人が何人も倒れている。
全員頭や腹から沢山の血が流れている。
駆け寄って触れた瞬間に、思いとどまった。
血の量から、無知な俺でも手遅れだということに気付く。
あ…………
怖くて震えが止まらない。
涙と共に、胃の中の物が逆流しようと鎌首をもたげる。
必死に押し込めてフラフラと姉妹の部屋へ歩いていく。
死体のそばを通り過ぎる途中で、おちていた銃を拾う。
手にずっしりとした感触がのしかかってくる。
力の入らない両手で構えながら、俺は歩いていく。
絶望が全身を襲った。
やっとの思いでたどり着いた妹の部屋。
そこには、変わり果てた妹の姿があった。
前から撃たれたのだろうか、妹の躰は機織機の傍に横たわっており、頭から血が流れている。
機織機も、妹の血を浴びていて、明るい陽射しが指す中、赤い色がにぶく光っていた。
あまりの光景に俺はその場にへたり込んでしまう。
あ…………
酷い。
世界は何故こんなに残酷なのだろうか。
昨日までずっと俺に微笑んでくれていた妹が
俺のくだらない質問に一生懸命答えてくれた妹が
もう、この世にいないなんて。
哀しみと怒りと恐怖から、俺は幾筋も涙を流した。
……起きてたの
後ろから声がして、ハッと後ろを振り返る。
姉が、肩や頭から血を流しながら立っていた。
手には大きな銃を持っており、服もところどころ黒くなっていた。
姉の目が、妹から俺の手へ移る。
俺は銃を持っていたことに気付き、怖くて姉の足元に放り投げた。
ち違う……!おお俺じゃ……俺じゃな……!!
大丈夫よ、分かってるから
姉はそう言うと、俺を優しく抱きしめた。
だけど、安心するどころか姉からかぎ慣れない血の臭いがして更にパニックになる。
そんな顔しないで。あの人を殺めたのは私じゃないわ
あの人……?
今この国はね、反乱が起きているの。この国は犯罪を犯した者やその親族、国にとって何か都合が悪いことをしてしまった、もしくは知ってしまった者の名前を没収する制度があったの。それはもうあなたが生まれてくるずっと前から
そうして親に捨てられて名前が無い人たちが大きくなっていって、気付いたら1000人を超える人が名前を持っていなかった。名前がないと仕事に就くことも結婚することもできず、奴隷として働かされるか兵隊の斥候として体よく死んでいくだけ。だから、彼らは遂にクーデターを起こした。それが今起こっていることよ
姉が話してくれたことは納得できる。
なら何故、名前がない妹は殺されたのか。
暴走した反乱軍の凶弾に当たったにしては、不自然すぎる。
……ねぇ、どうして死んじゃったの?名前がない妹が、どうして…………!
姉は俺の顔をじっと見て聞いていた。
そして、姉は哀しげに微笑んで涙を流した。
そうね……あの人が死んだのは、私が原因なの
え……?
どういうこと?
そう聞く前に、下から大きな音が聞こえた。
まるで、鍵のかかったドアを蹴破ろうとしているかのような。
姉は一瞬耳を澄ませると、すぐに俺に向き直った。
もう時間が無さそうだから、教えてあげる。どうして私があなたを家族として迎えたかったのか、どうしてあなたを産んであげるって言ったのか
……!!
それは、ずっと気になっていた。
どうして俺を引き取ったのか。
産んであげるって、どういう意味なのか。
だけど、知ったらこの関係が崩壊する気がした。だから、聞けなかった。
それが、ようやく聞ける。
何かが突き破られる音がしたが、それがとても遠くからに感じられた。
まず最初に、私とあの人は血は繋がってないの
えっ……?
そして、あなたは……私の……
違うな
姉の後ろから、乱暴な声が聞こえた。
俺の子だ
大柄な男が、姉の頭に銃口を突き付けていた。