ライト・リブルス聖大国。
王城内・とある応接間にて。
ライト・リブルス聖大国。
王城内・とある応接間にて。
一体どう言う事なの!? 定時報告に遅れたばかりか西地区の一部が爆砕されたなんて!
俺の所為じゃねェよ! 定時報告に遅れたのは悪かったが、その他の件はさっき話した通りだっつの!
結局、俺が城に戻った時には太陽は西に傾いていた。
事後処理は後から駆け付けて来た兵士達に一任し、俺は俺で人外二人を伴って来たのだが……
案の定、額に青筋浮かべたミディアにとっ捕まり、現在に至る。
まぁまぁカルスさん落ち着いて。
そちらのお嬢さんも、あまり彼を責めないであげて下さい。
よりにもよってアンタが言うのか、それを……
彼は己の務めを果たしたに過ぎません。
寧ろ、犠牲者が一人もも出なかった事をまずは評価するべきかと。
それは……まぁ、その通りなのだけど。
……犠牲者に“なりかかった”のが若干一名いるんだが、この調子だとエレクトラは完全に対象外なんだろう。
この男、爽やかな面して中々に容赦ない性格をしている。
どの口がほざきおるか、このドS天使が。
お、噂をすれば文字通りの影だな。
て言うかお前、せめてその焦げ痕は拭ってから来いよ。
おやエレクトラ。ご無事で何より。
無事なワケなかろうが! 危うくこんがり焼かれるところであったわ!
仕方ありません。全ては弱き者達を護らんが為です。
ぐぬぬぬ……まぁ良いわ。今はそんな事を議論している場合でもないからの。
意外とあっさりしてるんだよなァ、この死神様も。
コンコン。
不意に、扉をノックする音が聞こえた。
俺だ。中に入っても大丈夫か?
って、陛下ァ!?
慌てて駆け寄ったミディアが手早く扉を開く。
へ、陛下! ご用命とあれば此方から伺いましたのに……
構わん。それに、手当の途中で抜け出した娘の安否も気になっていたのでな。
陛下は苦笑を浮かべながらチラ、とエレクトラの方に目を向ける。
当の本人は何食わぬ顔をして口笛を吹いているが。
カルス。定時報告の内容についてだが……
あ、はい。既に報告した通りです。
何とか事無きを得ましたが、現在も騎士団総出で城下町の巡回を行っています。
では、お前の後方に控えているのが……
陛下の鋭い眼差しが俺の背後にいるラディエルを捉える。
ラディエルは反対に興味津々に陛下を見ているのだが。
なるほど、貴方がライト・リブルスの聖王ですか。
私の名はラディエル・クロウ。素性に関しては省いても問題なさそうですね。
あぁ、カルスから聞いている。
城下町に出没した不死者を倒したと言うのも。
そこまで言って、陛下は横にいるエレクトラの頭を軽く撫で回す。
だが、エレクトラを巻き添えにした事は感心出来んな。
そうでのそうでの。フラウス、もっと言ってやれ。
すみません。何分、手加減が苦手でして。
だっから、アンタは照れるところが著し間違えてるからな!
とまぁ、冗談はこの辺にしておきましょう。
冗談の一言でバッサリ切り捨てたよこの男。
わかっている。懸念すべきは、不死者が攻めて来たと言う事実。
その通りです。そして、これは奴隷都市が活動を再開した事を意味しています。
そうね……一年前の奴隷狩りを境に奴等は不気味な静観を保っていたのだけど。
何を言う、此方から攻め入るには丁度良いではないか。
あのなエレクトラ。
そんな簡単にはいかねェんだよ、こちとら。
ワシ的には逆に一年も何をしとったのか疑問だの。
勿論、動向は探っていたつもりだが、そこだけはどうにも謎だの。
えぇ、そうですね。彼等の真意などわかるハズもありませんが……
ですが、一年と言う歳月そのものに大きな意味は無いものと思われます。
ピ、とラディエルは人差し指を立てる。
結論から言えば、彼等の“目的”は、一年前この国で起こった奴隷狩りの際に達成されていたのでしょう。
何ですって!?
件の不死者が現れたのはエレクトラの存在を察知したからに他なりません。ここからは完全に私の憶測となりますが……
彼等の目的は一年前に達成し、しかし何らかの理由で時を費やす必要があった。
ラディエルの台詞を遮り、エレクトラがパチン、と軽快に指を鳴らす。
なるほどのォ。となると奴等、よほどワシに来てほしく無いワケかの。
お主の言う“目的”とやら、この調子だと未だ本当の意味での達成は成されていないと見ていいの。
……目的、なんて正直考えた事もなかった。
ラディエルは一年前の奴隷狩りで目的を達成したと言っていたが、厳密に言えば奴隷狩りそのものが段階の一つだったのかもしれない。
その通りですエレクトラ。
だからこそ、奴隷都市を攻略するなら今を置いて他にありません。
うむ。
エレクトラは両腕を組みながら陛下の方に目を向けた。
フラウス、聞いての通りだ。
ラディエルの仮説が真であるならば、お主の弟はまだ生きているやもしれぬでの。
……ッ!
お主はワシの契約主。その契がある限り、ワシはお主が望む為に力を振おう。
……フラウス。
そうだ、エレクトラの言う通りだ。
ぶつければいい、心の奥底に押し込んだ本音を。
陛下……
あぁ、わかっている。だが……
それも、理解している。
おいそれと個人を優先する事が許されない立場だってのも。
フラウス、何を惑う必要がある?
っ!
先日交わしたワシとの会話を忘れたのか?
会話だって? しかし、エレクトラの言葉に陛下は唇を噛み締めながらグ、と拳を握りしめる。
忘れてなどいない。だが、国が今一度不死者の脅威に晒された以上――
フラウスッ!!
俺も、大概な大馬鹿野郎かもしれない。
状況を顧みず、フラウスの両肩を掴み、強引に目線を合わせる。
何故言わない!? 何故俺に命令しない!?
確かにお前には立場がある。迂闊には動けないだろう。
それでも! 殿下の身を一番に案じていたのはお前自身だろうがっ!
カルスッ……
カルス、やめなさい! 陛下の御前よっ!
いいですよカルスさん。もっと言っておあげなさい。
普通に煽らないで下さいっ!
いいえ、彼は何も間違ってはいませんよ。
ポン、とラディエルが俺の肩を叩く。我に返った俺は慌てて手を放し、フラウスと距離を取った。
間に割り入る様にラディエルはやんわりと口を開いた。
若き王よ、貴方が恥ずべき事は何もない様に見受けます。
……。
貴方は本当に心優しい方なのですね。
バンッ!!
突然、扉が荒々しく開かれた。
何事かと慌てて振り返ってみれば、そこにいたのは普段滅多に見せない焦りの表情を浮かべたエミリオだった。
ち、ちょっとエミリオ! もう少し穏やかに開けられないのっ?
馬鹿言うな! それどころじゃ無いんだよ!
エミリオは陛下の姿を確認し、頭を下げる。
城下町に駐留している騎士団より火急の報せです。
シルフェリア森林地帯より不死者の大群が押し寄せてきているとの事。
何だと!?
馬鹿な、早すぎる!
奴隷都市は大陸中央部に存在しているかつての城塞都市、その成れの果てだ。
つまり、ライト・リブルスとの距離は相当以上に離れている――と言うのに、一体どうやってこんな短時間に!?
フン。昼間のアレそのものがこの為の布石であったか。
ですが、裏を返せば私の仮説に大きな信憑性が増したのも事実。
彼等は間違いなく、貴女の訪問を恐れている。ここで殲滅する腹積もりなのでしょうね。
やれやれ、仕事熱心な事よの。
エミリオ、奴等はどの位まで迫って来ておるでの。
あぁ、数は大群だが進行速度はかなり緩やかだ。
住人を避難させる時間は十分に確保出来るだろう。
よし。ミディアとエミリオは各機関と連携を取り、城の護りを固めろ。住人の安全を最優先に行動せよ。
了解しました。すぐに手配いたします。
騎士団は城下町に駐留していると言っていたな。まぁ、指示したのは俺なんだが。
ならば、俺がやるべきは一つしかない。
陛下、俺は――
聖騎士団は城下町の防衛を命ずる。
だがカルス、お前は俺と共に来てくれ。
な、何だって?
これ以上、奴等の好きにはさせん。
何としてでも護り抜く!