ーー逃げよう…無理だ…あんなの、俺にどうしろっていうんだ…!!

アルト

ルナ、ワープ使って

ルナ

あ、アルト…?

アルト

ラムゴに戻ろう…だって、無理だよ、こんなの…無理だ…!

ルナ

……でも、アルト…今逃げたら、願いは…

アルト

そんなのもういい!!だって死にたくない…!!誰も殺したくないし、死にたくない!!生きていたい!!!

シルフ

…………

俺が叫ぶと、シルフは剣を納めて俺の方へ歩み寄る。そして、俺に手を差し伸べて言った。

シルフ

もういいの?なら、スコアを渡して。そうすれば、見逃してやる

アルト

………わかった

ルナ

アルト!!

アルト

いいんだ…もう…いい…

俺はスコアをシルフに手渡した。すると、ボッと音を立て、それは瞬時に消し炭になった。

シルフ

ああ、これでいい

にっこり笑ってそれだけ言うと、シルフは俺を追い越して希望神殿に入っていった…

ルナ

アルト……

アルト

…………………

そう。これでいい…圭は死ぬ運命だった。俺のせいじゃない…死ぬべきだった圭の運命を変えようとしたのは俺で…だから、俺のせいじゃない…俺のせいじゃない、俺のせいじゃ…

アルト

……………俺の、せいじゃない…

こうして、俺のスコアゲームは幕を閉じたーー。

ーー希望神殿内部

希望神殿の中はほとんど直線コースだ。奥に行くと部屋がひとつあって、そこでスコアゲームの査定が行われる…どうしてそんなことを知っているのかは分からない。番人として覚醒した時、ごく自然な形で知識としてインプットされたのだろうか。まあ、今はそんなことどうでもいい。とにかく早く、アルマのもとに…あいつらが希望神殿に入ってからどれだけ時間が経ったのかは分からない。でも、今ならまだ間にあうかもしれない…まだ、アルマを助けることが、出来るかもしれない…いや、かもしれないじゃない。助けるんだ…!
奏者と番人とは不思議な関係のようで、自ずと守るべき奏者の位置が近ければ近いほど、鮮明にわかるようになっている。感覚からして、まだ近くにアルマはいる。大丈夫、まだ感じられる…生きている…まだ、大丈夫…!!
最奥の部屋はもう目の前だ…待ってろアルマ、今…!!

シルフ

アルマ!!

そこは、頭が痛くなるような音が響く部屋だった。とても静かで優しいのに、頭に響く…そんな、オルゴールの音が響き渡っていた…。

アミス

あれ?動けるようになっちまったのか?早かったなー

テナ

でも…ちょっと遅かったわね、番人…スコアゲームは…たった今終わったわ

そう言うスコアホルダーの足元に、見慣れた赤いずきんを被った何かが倒れていた…ピクリとも動かない…先程まで感じていた何かも、そこからは感じない……嘘だ。だって、さっきまであんなに…動いて、喋って……生きてた…のに…?

ーー俺はまた…間に合わなかった…?

テナ

奏者って面白い造りをしていたのね…まさか、心臓がオルゴールになっているなんて…

アミス

それを無表情でえぐり出していくテナも、なかなか狂気じみてたぜ?

アミス

苦しんで泣き喚いてるそいつを、『あの悪魔を助けたくないのか』って律した時とか特に!!

テナ

だって煩かったんだもの…それに、まさかこれを取るまで動き続けるなんて思わなかったし…

テナ

正直、ちょっと気持ち悪かった

アミス

まあいいんじゃねえの?俺がどうこうするでなく、ちゃんと悪魔は助かってるんだし…万事OK、的な?

テナ

そうね。ちゃんと約束は守ったわ。あとは、これが鳴り終わるのを待つだけ

シルフ

……………

アミス

おっと、まだいたのか悪魔くん?未練がましい男は嫌われるぜ?こいつはもう死んだんだ…いや…ちがうか

アミス

もう死んでたんだ。何も悲しむことはないだろう?

アミス

死んだやつが神の力で奇跡的に息を吹き返していた…でも、奇跡には時間制限が付き物だ。シンデレラだってそうだろう?12時の鐘が今鳴った。そう、それだけなんだよ

シルフ

……………えろ

アミス

?何だって?もう一度言ってくれよ、聞こえなかっーー

シルフ

ヴァニシュメント・ディスオーダー

アミス

!!おま、それはーー!!

魔族のみが使える闇魔法の禁術…大きな魔法陣が出現し、標的はそれに呑まれ…二度と、光を見ることは無いとされる…この方がきっとーー。

シルフ

死ぬことは許さない…永久の闇に狂い、苦しめ

テナ

ーーっ!!

スコアホルダーと妖精は、何かを叫んで消えていった…そこには、役目を終えて、砕け散ったオルゴールだけが残された…。

ーー滅茶苦茶にしてくれたな

シルフ

………K…

お前が来た時点でスコアゲームは終了していた…何故、こんなことをした?こんなことをしても、お前の願いはーー

シルフ

どうしてアルマを奏者にした

………

シルフ

どうして、静かに眠らせてやらなかった…

………たまたまだ。その時、私の目に付いたのが、それだった。それだけだ

シルフ

どうして…!!

シルフ

どうしてアルマが苦しまなきゃならなかった!?どうして、二度も死の恐怖を味合わなきゃならなかった…!!どうして…どうして!!

………

シルフ

応えろ…応えろよ!!K!!!

見つけたぞ!!

キュートスから脱獄した大罪人だ!!捕らえろ!!

シルフ

応えろ!!K、何を黙っている!!応えろ…応えろおおおおお!!!

口に布を詰めて黙らせろ!!魔法を詠唱されたら終わりだぞ!!

シルフ

Kぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

水の香りがした。柔らかくて温かい何かが、目元を優しく撫でた。そのこそばゆい感覚で、俺は目を覚ました。

アルマ

おはよう、シルフ…大丈夫?君、寝ながら泣いてたんだよ?

シルフ

……え…?

慌てて飛び起きる…生きてる…アルマが、ちゃんとここに…

シルフ

アルマ!!

アルマ

うわぁ!?ちょ、何するんだよ!?びっくりしたぁ…

勢いよくアルマに抱きつくと、驚きつつも優しく背中をさすってくれた…ああ、生きている…ちゃんと、鼓動が聞こえる…息をしている…!

アルマ

怖い夢でも見たのかい?

シルフ

ああ…ひどい夢だった…お前が死んで、シューも死んで、俺…俺は…

アルマ

そっか…大丈夫だよ。僕はここにいるし、シューだって…ほら

アルマが基地の入口を見ると、丁度シューが来たところだった。

シュー

あ、シルフ起きたんだ!!おはよー!

アルマ

ね、ちゃんと帰ってきたでしょ?

シルフ

……ああ…

そうか…そうだ…昨日、アルマが基地を飛び出していって、一日帰って来なかった…すごい心配だったんだけど、眠気には勝てなくて…それで俺…

アルマ

そんなことより聞いてよシルフ!!シューってばラムゴのお姫様だったんだって!こんな大切なことずーっと黙ってるなんて酷いよね!!

シュー

だ、だって!!嫌われちゃうの怖かったんだもん…

アルマ

まったく、そんな事で嫌うなら恋人なんてしてないよ

シュー

あ、アルマ…///

アルマ

さて、朝ごはんにしようか!シルフ、準備しておくから顔洗っておいでよ。ひどい顔してるよ

シュー

うわ本当だ!?どうしたのシルフ…?

シルフ

な、何でもねえよ…!顔洗ってくる!!

シュー

ふふ、行ってらっしゃい、シルフ

アルマ

待ってるからね、シルフ!!

待ってるって…すぐそこの水源で顔洗ってくるだけなんだけどなぁ…俺は赤く腫れているであろう両目に手を当て、その熱にちょっと笑いながら水源に向かっーー

ーー無限監獄・キュートス最奥

シルフ

………はは…うるせえ、ばーか……ふふふ…

あ、あの…上官?

何だ?

こいつ、さっきからずっと笑ってるんですが…何がおかしいのでしょうか…?

………あー…お前、こいつの監視につくのは初めてか

は、はい…

ここに連れてきてからずっとなんだ。出した食事も食べない、水も飲まない、目も開かない…ただ、ひたすら虚空に向かって話してるんだ

うわぁ…相当精神イッちゃってる感じですか…怖…

なぁ…こうはなりたくねえな…

シルフ

ほら、そんなにがっついて食うから………ふふふ…そうだな、今日は何をして遊ぼうか…なぁ…

アルマ、シュー…?

悪魔、狂気に呑まれる

シルフ

・・・・・・やり直す?

第八楽章 A√

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