何も考えずに沈む。
ただただ沈む。
最早自分が立っているのか座っているのか起きているのか寝ているのかも分からない。
まるで母親に抱かれた赤ん坊の様に闇に身を委ねていたが、変化は突然訪れた。
聴くものの心を乱す響き
何も考えずに沈む。
ただただ沈む。
最早自分が立っているのか座っているのか起きているのか寝ているのかも分からない。
まるで母親に抱かれた赤ん坊の様に闇に身を委ねていたが、変化は突然訪れた。
聴くものの心を乱す響き
…
微かに聞こえるのは泣き声のようだった。
…うぅわあああん…
ぱぱぁ…まま…どこなの?ひっく…
声はこちらに近づいてくる。
俺は夢を見ているのか?
それとも死んだのか?
俺の目の前には確かに俺がいた。
うわあああん
…
うわああああん
…
うわあああああん!
って
うるさ過ぎる!!
先程からずっと、俺(5歳ぐらい)が、俺の目の前で泣き続けているせいで頭が痛くなってきた。
俺が動こうとしても動けず、手を伸ばしても触れられず、唯の苦行でしかない。
ベロベロベロばぁー!
ヽ(‘ ∇‘ )ノ
渾身の変顔もスルーされてしまう。
おいお前!
チビ俺は無反応
…聞こえないのか?でももう1回。
泣くなっ!晃(あきら)!
見開かれる小さな瞳
まるで電気ショックでも受けたように勢いよく顔を上げたチビ俺と目が合った
その瞬間
俺の口が勝手に動き始めた。
『いいか晃。これは凄く暗くて怖いだろう?
これが穢(けがれ)だ。穢に呑み込まれると、永遠に帰って来られない。心の闇をさ迷うことになってしまうんだ。
…お前にはまだ難しいかもしれないが、つまりこの暗いところでずっと独りぼっちだ。
でもな?安心していいぞ。お父さん達のお仕事は、穢に呑み込まれた人達を助けることなんだ。
穢から人々を守れるのは俺達
陰陽師だけだ。
晃。
どうかこの怖さを忘れないでくれ。
そしてこの恐怖から、大切な人達を守る為に
父さん達と一緒に戦ってくれ。
祓い給へ清め給へ
急急如律令!』
俺がそう言い終わると辺りが一気に明るくなり、チビ俺も消えてしまった。
えぇっと…
い今のは…父さんの言葉…ってことは俺の記憶を体験してるのか?
自分の記憶を手繰り寄せる。
俺が5歳の時。家族に初めて穢祓い(けがればらい)に連れていってもらった。陰陽師の家系では5歳になったら修行を始め、修行の一環として穢祓いを見学しに行ったのだ。
穢とは俗に言う強い想いが集まって出来たもので、黒い巨大ヘドロの様な形をしている。
と言っても普通の人には見えないが。霊感の強い人なら辛うじて認識は出来る。
そして穢を産み出す強い想いとは例えば…
日曜日の夜には穢が多く産み出される。
何故か?
『月曜日が来ること』
への憂鬱など負の感情が穢になるからだ。
月曜日前の自殺が多い一因として、穢に人が呑み込まれるからだと言われている。
穢に呑み込まれると最早まともにものを考える事も出来なくなるし、穢自体が心が弱っている人間を狙っている。
穢に呑み込まれた人は深い絶望に囚われ、多くは自殺する。
残るのは大きくなった穢のみ。
穢があるから自殺が多いのか、自殺するから穢が産まれたのか、それは鶏が先か卵が先かという問と同じである。
だが事実、現代社会ではこうした残酷な負のループが成立している。
そうしたループを断ち切ろうと戦っているのが、陰陽師である。
話を元に戻そう。
俺は初めて穢祓いに行き、初めて穢を見た。
そして呑み込まれた。
穢の中は無限の暗闇で、俺は泣き続け
父さんに助けてもらった。
当時は怖さなどのショックでまともに父さんの言葉が理解出来なかったが
(というより父さんの説明結構ガバガバの様な)
その日から俺は晴れて陰陽師となった。
なんで今更夢で…というか俺いつまで此処に居ればいいんだよ!?
頭はいつの間にかスッキリしていて、辺りを見回すと光の中に小さな穴があった。
出口だといいんだがなっ!
俺は走り始める。
現実世界に帰れるのか
何故こんな夢を見たのか
《赤い霧》とは何なのか
心配事は尽きない。
だが
俺は立ち止まる気はない。
異世界でも自分が出来ることをやるまでだ。
決意を胸に俺は穴に飛び込んだ。