高校に入学して一月半も経つと、どこかよそよそしかったクラスメイトと一緒にいる空間にも慣れて、制服も体に馴染んでくるような気がします。

 私、村島和には気になることが二つあります。

 一つは隣の席の小岩焔くんのこと。

 先月の一件以来いろいろと話してみ続けたことで、ときどき返事や短い答えくらいは返ってくるようになったのですが、未だにクラスのみんなと仲良くしているようなところが見られなくてちょっぴり心配です。

 そしてもう一つは私のクラスでもあだなのことです。

やっほー、ワンコちゃん

お、おはようございます

 私のあだなはワンコで決まってしまいました。男の子も女の子もあと担任の先生もそう呼んでいます。

あの、なんで私『ワンコ』なんですか?

和、がワって読むからワンコなんじゃないの?

でも、ちょっと強引すぎるような

あと犬っぽいし

そう、ですか?

 そんなこと言われたのは初めてです。顔は、犬っぽくないとは思っているんですけど。

ほら、いつもしっぽ振って小岩くん周りをうろちょろしたり後ろついていくところとか

し、しっぽなんてついてませんよっ!

 無意識にスカートを押さえてしまいます。そんなに私って小岩くんの後ろをついていっているでしょうか。

 ちょっと小岩くんの方をうかがってみたのですが、やっぱりカバーのついた本を読みながらこちらの会話なんてまるで興味がないという顔をしています。

 私は意識している自分が恥ずかしくなって、なんとなくその日は小岩くんのことをまっすぐに見られませんでした。

 そんな日にあの事件は起こったのです。

石見

あ、あの。小岩くん。ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんだけど!

 放課後、みんなが部活や家に向かって教室を出ていく中、一人だけ私の隣、小岩くんの席にに近づいてくる女の子がいました。

 石見(いわみ)さんです。クラスではおとなしめな人で、小岩くんと同じように教室でよく本を読んでいます。

 そういえば最近ホームズを読む時間を作っていなかったかもしれません。そろそろ続きを読み進めないと。

……

石見

あ、あの。小岩、くん?

小岩くん? 石見さんが何か用事があるみたいだけど

……何かな?

 ようやく本を閉じて岩見さんの方を向いてくれました。本当に他の人と関わるのが嫌いなんですから。

石見

あのね、ちょっと相談に乗ってほしくて

僕が? 他に適任者がいるんじゃない?

石見

でも、小岩くんってすごく頭が良くて魔法みたいに事件を解決しちゃうって

 魔法、という言葉に小岩くんの目が鋭くなりました。この間も言っていたけど、そういう非現実的な言葉が嫌いみたいです。理由を何度も聞いてみたんですけど、全然教えてくれませんでした。

それはどこから?

石見

前に、村島さんが話しているのを聞いて

 あ、あれ? どうして小岩くんはこちらを強い視線で見ているんでしょうか。これは別の言い方をすると睨んでいる、というのでは?

それで、僕に何かを解決してほしいと

石見

う、うん。そうなの。これなんだけど

 そう言って岩見さんはカバンの中から一枚の便箋を机の上に出しました。

二話:透明人間ストーカー(事件編)Ⅰ

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