つかさ

プロデューサー! 羽根つき大会をしましょう!

年末年始にたまった事務仕事を片づけていると、振り袖姿のつかさが現れてそう言った。

どこかでまた触れたことのない文化について聞きつけてきたんだろう。

プロデューサー

いいけど……。でも新年だし、今日は事務所にあんまり人いないよ?

つかさ

そうなんですか……? せっかく羽子板のセットを調達してきましたのに……


しゅん、と淋しそうな顔をするつかさ。

プロデューサー

じゃあ……ちょっと待っててくれる? この仕事が終わったら僕が――

ミユ

話は聞かせてもろたで?

つかさ

ミユさん!

プロデューサー

あれ、ミユ、今日はオフの日じゃ……

ミユ

事務所にマンガ忘れてとりにきててん。それよりつかささん、自分とやろか?

つかさ

本当ですかっ!

ミユ

おっけーおっけーやで。じゃあプロデューサー、審判頼むな?

プロデューサー

はいはい、じゃああと少しだけ待ってね

* * *


* * *


プロデューサー

よーし、待たせたね。じゃあ早速やろうか!

つかさ

はい!

ミユ

ふふふ、ついに極秘で編み出した必殺技を披露する時がきたで……

プロデューサー

必殺技……?

ミユ

今日の自分は強いで? なんたって待ってる間に”テニスのお姫様”を全巻読んだからな!

つかさ

お、おぉ…!? 

プロデューサー

つかさ、そんなに驚くところじゃないよ。別にミユは強くなってないよ

ミユ

ふふふ、里に家族のいる者は帰りなさい……加減はできひんで?


言ってることはアレだけど、ミユの放つオーラはただごとじゃない。

マンガなら背景にゴゴゴゴゴ……とでも擬音が当てられそうな雰囲気だ。

ミユ

ごごごごご……

つかさ

どこからか地鳴りの音が……!

ミユ

さぁいくで? 悪魔も泣いて逃げ出す殺人サーブ!


ミユは羽子板を振り上げ、羽根を頭上高く放った。

……が。

ミユ

やぁっ!

ミユ

……なんてこった


あれだけ煽った割に見事な空振りを決めたミユ。

ミユ

こんなはずやない……

ミユ

待ってる間の貴重な練習時間を費やしてマンガ読んだのになー

プロデューサー

そのせいだと思うよ


その後もミユは何度も殺人サーブを試みるも、悲しいほどに当たらない。

あらためてミユは歌以外からっきしだという事実を露呈する結果になってしまった。

ミユ

やるやん……つかささん……。自分をここまで追いつめたのはつかささんが初めてやで……?

つかさ

わたくしほとんど何もしていませんが……

プロデューサー

ミユ、このへんにしとこう

ミユ

むむ……

ミユ

……しゃーない。じゃあ代わりを探しにいこか?

やっと自分じゃ役に立たないと悟ったのか、ミユは自分の身代わりを探しにいくことにした。

* * *


* * *


留奈

どうして留奈がそんなことしないといけないのよ!

ミユ

でも留奈さんしか相手おらへんねん

留奈

留奈は自主トレの最中なの! 遊びならよそで勝手にやってくれないかしら!

ミユ

いやーそう言わんと。トレーニング代わりになるし、気分転換にもなるやん? 悪いようにはせんし。な?

留奈

いやよ! だからほかを当たって――

つかさ

留奈さん……だめでしょうか……?

留奈

……っ!


つかさはうるうるとした目で留奈を見つめる。

留奈

そ、そんな悲しそうな顔しないでよ……


見つめる。

留奈

……

留奈

も、もう……少しだけよ……?

つかさ

ありがとうございます留奈さんっ!

ミユ

……

留奈

何なのその目は!?

留奈

ま、まあ羽根つきなんて簡単よ! イギリス生まれの留奈は小さな頃からウインブルドンを見てるもの?

ミユ

おーすごい。さすが帰国子女や

プロデューサー

羽根つきにウインブルドン関係ないけど


やばい、限りなくミユと同じにおいがしてきた。

――そして試合開始。

つかさ

えいっ!

留奈

ああっ!?

つかさ

たあっ!

留奈

ああっ……! くぅっ……!

留奈

なんて強烈なショットなの……! まるで2階から振り下ろされるようだわ……!

留奈は終始つかさに翻弄され、手も足も出ない。

つかさはセンスが良い上に、二人は身長差15cmくらいあるからな……。背の低めな留奈には辛いところだろう。

つかさ

やはり、これもウインブルドン効果なのでしょうか

留奈

え?

つかさ

わたくし、お屋敷の外をあまり知りませんが、生で見たことがあるはずです。ウインブルドン

つかさ

もはや記憶もありませんが、遠い昔…赤ん坊のころ、1度だけ父様に連れていってもらったことがある…そうです。

留奈

……な、生で……見たことがあるの……? ……ほんとに……?


留奈の動揺っぷり、あれは間違いなくテレビでしかウインブルドン見てないな……。

ミユ

さすがガチもんのお嬢様や……。留奈さんみたいなパチもんとはちゃう……

留奈

誰がパチもんよ!?

留奈

こ、こうなったら留奈の本当の実力を見せつけるしかないわね! さあ続けるわよ!


そして再開。

留奈は持ち前のフットワークで応戦するものの、つかさの高い位置から打ち下ろされる羽根に打開策が見いだせない。

……やがて。

ミユ

ゲームセットー! つかささんの勝ちー!

留奈

……っ! こ、こんなのじゃ済まさないんだからっ……!

留奈

今度は負けないんだからーーっ!


すがすがしいまでの負け犬の台詞を吐き、走り去る留奈。

そういえば自主トレはどうしたんだろう。

つかさ

……


ただ、見事な勝利を得たはずが、浮かない顔なのはつかさだった。

プロデューサー

どうしたのつかさ? あんまり楽しくなかった?

つかさ

いえ……。羽根つきは楽しかったのですが……

つかさ

……私がやりたかったのはその……

つかさ

顔に何か描く……あの、アレ…

つかさが物欲しそうに口にしたのは、全く要領をえない言葉。

プロデューサー

あー……もしかして、顔に墨をぬる……あれ……?

つかさ

そうですっ! わたくしがやりたかったのは、そのジャパニーズフェイスペインティングなんですっ!

プロデューサー

そっちがやりたかったのか……

それは浮かない顔をするはずだ。

ミユも留奈も敵わないから、つかさは一度も顔に墨を塗られるチャンスがないわけで。

* * *



* * *


――その後、つかさは僕と対戦し。

一進一退の攻防の末、見事二人とも墨だらけの顔になった。

つかさ

ありがとうございます! これで思い残すことはありませんっ!

プロデューサー

はは、ならよかった……

pagetop