新年を迎えた、わが事務所。
世話好きの楓が家でおせち料理を作ったみたいで、わざわざ事務所へ持ってきてくれた。
どうですか?
うん! すごくおいしい! こんなものまで作れるなんてすごいね楓は!
そんなことありません
机の上に並ぶのは、中学二年生の楓が作ったとは思えない伝統的なおせち料理の数々だ。
昆布巻きに田作りにごぼうの煮物に栗きんとん。
彩りも鮮やかで、普段から料理慣れしていないとこうはいかない。
家事がすきですから。おうちが食べ物のお店なので、ひととおりはできます
そうなんだね。本当感心するよ
・・・・・・でも。
僕はきれいに形の整った伊達巻きを食べながら思う。
甘い。超甘い。
伊達巻きだけじゃなく田作りも黒豆も超甘い。
うん……この栗きんとんも…甘いね
ついでに言うと煮物も甘いし、かまぼこまで親の仇みたいに全部甘い。
あまいのはおいしいです。おちゃにもあいますし
そ、そうだね……
お茶好きは置いといて、まぁこういう甘い味付けが好きって言うのはやっぱりまだ子どもなんだなと思ってほっとする。
楓は机の上に二つ並んだ、紙コップの一つに口をつけた。
ーーごくり。
……あまいものをたべすぎたせいか、なんだかおちゃまであまくかんじます
はは、まさか。お茶はさすがに甘くないよ
* * *
* * *
おせちを食べ終わり、洗い物をすると、少し遅い大掃除をした。
楓も手伝ってくれたおかげで、みるみるうちに大掃除は終わった。
楓。わざわざありがとう。本当に助かったよ
いえ
楓? どうしたんだ? きょろきょろして
もうおそうじするところはないのですか
え? そうだね、もうあらかた終わっちゃったかな
ほかにすることはないのですか
もう大丈夫だよ。十分十分。アイドルなのに事務所の掃除まで手伝ってくれてありがとう
もうないのですか
え? うん、もう大丈夫だよ事務所は
いつも表情の読めない楓だけど、今日は一段と読めない気がする。
楓はどこかとろんとした目で言う。
では、プロデューサーのおうちにいきましょう
へ?
プロデューサーのおうちをきれいにします
いやいや! アイドルの楓にそんなことまでさせられないよ!
プロデューサーはいつも苦労されてます
なのでこんなときくらいはわたしがおせわします
いやいや大丈夫だって! 楓こそ毎日学校にアイドルに頑張ってるんだからゆっくりしなよ!
テンションがあがっているのです。ことしいちばんの高揚感です
まだ今年はじまったばっかりだから!
もうわたしはとめられません
ちょ、ちょっと楓変だよ? 落ち着いて!
そうです。プロデューサーのふくをおせんたくしましょう
か、楓!? ちょっと待って!?
ていこうしますか。やむをえません
ぬがします
脱がす!?
いったいどうしたんだ楓は!?
なんだか頬が赤らんでる気がするし、はぁはぁと息も少し荒いみたいだ。
どうみても普段の楓とは違う。
えー…………キミら…何やってんの…? 見なかったことにしていい?
楓が僕の服に手をかけているタイミングで。
ダンスコーチの徳前七瀬さんが、ドン引きしながら入ってきた。
徳前さん!?
た、助けてください、楓の様子が少しおかしくて
はいはい、いちゃいちゃしてんじゃねーぞ…って――おーーーい!
あたしの甘酒がなーいっ!
え?
ここに置いておいた紙コップ! 誰か飲んだろ!
最後の一杯なんだぞ! どーしてくれんのさー…
あ、アルコールですか?
甘酒はほぼノンアルだよ…? まあ、酒粕は入ってるかもしれないけど、少なくともこれは未成年でも飲んでいいやつだし…
って……まさか……
……んん…
楓…酔ってる?
さっき、楓はお茶まで甘く感じると言っていた…。
どうやら徳前さんの甘酒を誤って飲んでしまって、そのせいで様子がおかしかったんだ!
まさか、甘酒で酔っぱらうとは……!
なんだか……ねむくなってきまひた……
ふみゅ……
小動物みたいな鳴き声をもらして、顔を真っ赤にした楓は僕の膝の上にへたり込む。
そのまま寝息を立て始めてしまった。
はぁ……助かった……
ソファの上で脱力する。
新年早々どうなることかと思った……。
ひとまずベッドに寝かせて、落ち着いたら車で家まで送っていってあげよう
しっかりしてるけど、やっぱり楓はまだ小さい子なんだ。
今年もしっかり見守っていかないと……。
かえちゃー!!!かえちゃかえちゃかえちゃー!!!!かわいいなぁお酒に弱いんだなぁ酔っ払ったらふみゅって言って寝ちゃうんだなあほんともうほんとかえちゃんはかわいいなぁーー!!!!!?
あああーあーーあーーあ…かえちゃん…ふみゅとか言っちゃうの…最高だ…ああ可愛い…ごめんね語彙力足りないから悶えることしかできないや…
かえちゃん、今年も安定してかわゆす
かえちゃんの手料理食べたいぃ…(´・ω・`)
寝落ちまでの二言で落ちた(//∇//)
酔ったかえちゃんのお世話したい