魚喃 アト

廃墟に廃校、古びた町……。
こういう場所ってのは、
何か起きそーでワクワクするよな?

魚喃 アト

だが、足を踏み入れちゃいけねぇ場所が、
たまーにある。

例えば……この館とかな?

魚喃 アト

逃げるなら今だが、
逃がしゃしねーぜ?
いや、逃げる奴なんていねーか……。

魚喃 アト

謎ってのは麻薬みてぇなもんで、
解き手の心を掴んで離さねーんだからな。

魚喃 アト

つーわけで、今回も極上の謎を届けてやる。

魚喃 アト

タイトルは『風習の風臭』」……。

魚喃 アト

この世には、まだ常識が
通用しねー場所があるって話だ。



第二十七夜「風習の風臭」

僻地の都市伝説ってのを知ってるか?

ほら、一時期流行った閉鎖された町とか、

残酷な事件があった村とか……そういう類。




俺、見つけたんだよ。

場所は鹿児島県の大隅半島周辺で!

しかも、そこで……今、めっちゃ歓待されてる。




『なぁ、翔! ここって、実は有名な観光地なんじゃねぇの?』

僻地を探して有名人になろうと提案した友達に尋ねる。

『もしくは村おこし的な感じ? ぎゃははっ!』

翔はバカ笑いをすると肉を頬張り、酒を呷った。

『ま、なんでもいーから楽しもうぜ!』

車を出して俺達をここまで連れてきた賢治が笑う、

傍には妖艶な着物を纏った美女の姿があった。




極上の酒と美味い肉に着物美人、なんだこれ?

いやぁ、なんつーか……寂れた村で屍人みてぇなのに

追い回されるのを期待してたから

正直、肩透かしって感じだけど

これってブログで記事にしたら

ちょっとした話題になっちゃうんじゃねぇの?




よっしゃっ! 人気ユーチューバーみてぇに

俺もビッグになる時が来たみてぇだな!

こうなったら徹底取材してやるぜ!




お囃子が鳴り響く中、

鬼の面をつけた村人が焚き火の回りで踊り、

頭上に数枚のお札をかざしている。




暫くすると、鬼は俺の近くにやって来て、

持っていた札を扇状に広げた。




『選びなさい』

そう言われ、札に書かれた字を目で追う。

そこには『了』『号』『賢』『患』

『赤』『県』『七』の漢字が書かれていた。




なんだこれ? 祭りの余興でカード遊びでもするのか?

漢字と鬼を交互に見つめ首を傾げていると、

『俺! 了にしよーっと!』翔が札を奪い取った。

瞬間、鬼が翔の両腕をナタで切り落とした。

『ぎゃああああああああっ!』

『な、なんだよ! おいおいおいおいおいおい!』

『ま……マジかよ! ちょ、ちょヤバイって!』

血の海に翔が倒れ、俺と賢治はその場にへたり込んだ。

だが、鬼は札を突きつける。




『選びなさい』

拒めば殺される。

そんな空気を瞬時に察し、賢治が『号』を選んだ。

すると即座に、賢治は

深さ3メートルはある縦穴に突き落とされた。

そして、容赦なく土をかけられ、絶叫のうちに絶命した。




ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。

意味わかんねぇ! ぜってぇ死ぬ!

正解あんのか? 全部ハズレなのか!?

でも、選ばないと……殺されるよな???




『選びなさい』

鬼が低い声で言い、札に穴が開くぐらい漢字を見つめる。

そして、選んだ。

『賢』の字を……。

だが、それと同時に俺の目は潰された。

錆びた釘抜きのような凶器で両目ともだ。

いったい、どの漢字を選べば正解だったんだ?

いや……そもそも、都市伝説なんかに

関わっちゃいけなかったってことだよな……。


魚喃 アト

もし、地図に載ってねー村や
町を見つけたらどうする?

魚喃 アト

オレなら行く……。
もちろん、アンタだって
そういうタイプだろ?

魚喃 アト

危険が多ければ多いほど、
謎がたっぷり練りこまれているもんな……。

第二十七夜「風習の風臭」

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