体力のない僕としては味方がいた方が嬉しいね

尊臣

昨日早くも殺されかけた奴もおるし、面倒みんとな

大翔

悪かったな

 大翔自身も後悔はしているつもりだが、こうして言われると少し言い返したくもなる。カッコつけてセリフをつけたことも今になってはやたらと恥ずかしい。

大翔

それにしても、奴の目的はなんなんだろうな?

尊臣

動物が獲物を狩るのは食うためじゃろ?

大翔

でも昨日の死体は放置されて俺たちの方に来たじゃないか

僕はそのカベサーダを見ていないが、もし今夜もあの夢を見るようなら何か抜け出す手がかりは奴にあるだろうね

大翔

もう二度と会いたくないけど

 あんな恐怖を味わったのは間違いなく生まれて初めてのことだった。できることなら二度と会いたくないとも思う。しかし、大翔には今夜もまたあの夢を見るだろう、と感じていた。その理由は少しも説明ができないのにだ。

当面は安全の確保が最優先だね。あのおかしなショッピングモール、どのくらいの広さなんだろうね

尊臣

ワシが歩いた限りじゃと郊外型の大型店舗、といったところじゃあな

大翔

そんなに歩いたのかよ

尊臣

ある程度は頭に入っとるがな

 自慢げに話す尊臣の顔が憎たらしい。大翔も一週間ほど夢を自由に動いていたが、毎晩違う場所にいたし、何か発見を求めてうろついていたが、どんな構造だったかなどまったく覚えていなかった。

じゃあ、それを僕が立体データにしてみよう

尊臣

やるな、千源寺

 味方ができて安心したのか、少し柔らかくなった表情で話す尊臣と光を見ながら、大翔はこの夢に巻き込まれる理由を探していた。

 帰ろうと情報部の部室を出たところで、大翔は尊臣に急かされて教室にカバンを置いたままだったことに気がついた。さすがに校内で迷子になることはないが、情報部は廃部寸前ということもあってかパソコン二台とともに校舎の端に追いやられていた。ここから一年の教室まではなかなかに距離がある。

大翔

ミスったなぁ

 夕陽の当たる廊下を通っていると、外から部活中の生徒たちの声が聞こえてくる。ふと立ち止まってグラウンドの方に目をやるとスポーツウェアに身を包んだ陸上部の生徒が目に入った。

大翔

毎日練習ご苦労なことだ

 大翔は止まっていた足をまた動かし始め、教室に向かって歩き出した。

 もう誰も残っていないと思っていた教室には、大翔のカバンと文庫本を読んでいる千早の姿があった。

千早

どこ行ってたの?

大翔

ちょっと野暮用で。もう終わったけどカバン忘れちゃって

 なんで言い訳がましく言う必要がある。そう思っても千早から向けられる疑いの目が大翔にそうさせるのだ。カバンをとって早々に教室を出ようとした大翔の袖を千早が引く。弱々しくつままれた指など簡単に振りほどけるが、大翔は溜息をついて千早に向き直った。

千早

それって朝の人と?

大翔

朝の、あぁ、そうだけど。なんだよ?

千早

だって、なんか心配なんだもの。神代くん、絶対私に隠し事してる

大翔

隠し事って。そんなの堂本にだってあるだろ?

 否定をしなかった大翔をさらに問い詰めようと、一歩前に出た千早の動きが止まる。

大翔

な? 話せることと話せないことがあるんだよ

 千早に言ったところで彼女が大翔を助けられるわけではない。もしも助けに来てくれたとしてもそこは人を喰らおうとする怪物、カベサーダのいる空間だ。そんなところに千早が来てくれたとして大翔には嬉しいことなどない。

大翔

それじゃ、また明日な

 逃げるように教室を出て行く大翔の背中に、千早の答えは帰ってこなかった。

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