アルモの嗚咽が、謁見の間に響き渡る。
うっうっ…ガイーラさんが、死んだなんて…うっうっ…ひっく…
アルモの嗚咽が、謁見の間に響き渡る。
ガイーラに成り代わっていたラジマの武器の破壊に成功した俺たちは、何とかラジマをこの王宮から退却させることに成功した。
だが、ラジマからもたらされた本物のガイーラの消息は、アルモの心を乱しに乱していた。
アルモ…
アルモにかける言葉が見つからない俺は、言葉を詰まらせた。
アコード…今は好きなだけ泣かせてやるのも、優しさというもんさね…
俺の肩にそっと手を置き、虚空を見つめながらレイスが言う。
レイス…お前は、辛くないのか?
辛くない…と言ったら嘘になるな…
でも、私が泣いた所で、死んだ主様は喜ばない。
そうか…
急に辺りが静寂に包まれる。
アルモの嗚咽が止まったようだ。
アルモを見ると、ゆっくりと目を開き、そして口を開いた。
ガイーラさん…いえ、ガイーラは、私の命の恩人なの
突然、堰を切ったようにアルモが語りだす。
命の、恩人?
そう…あれは、私がこの剣と共に旅に出た直後のことだった
その日、習わしに従って成人の儀式を受けた私は、両親から途方もないカミングアウトを受けた。
お前は、私たちの子どもじゃないんだ…
……えっ!?
唐突に、私の想定外の言葉を口にする父。
信じられないかも知れないけど、本当のことなの
すると、母の言葉に呼応するように、父は腰に携えた剣を抜きテーブルの上に置く。
この剣のことは、知ってるな
父さんがずっと肌身離さず持ち歩いている剣、よね…
そうじゃない。この剣の云われを、小さい頃、母さんから聞いているはずだ…
そう言いながら父が指す指の先を見ると、柄の部分に三日月の紋章が見える。
…これは…
…母さんがよく話してくれた『月明りの剣』…
おとぎ話だとばかり思っていたけど…
しかも、その剣を父さんが持っていたなんて…
母さんのおとぎ話では、この剣の使い手はどう語られていた?
確か…
…剣を持つ者、身体にその印を持つ。
身体に刻まれしその印は剣を持つ者に力を与え、心正しい者の傷を癒し、邪悪なる者共を闇の彼方へと葬り去る力を得る。
やがて、その者は同志たちと共に、世界を本来の姿を還したのだった…
みたいな感じで…
って…
父さん!!
『その者』が、私だとでも言いたいの?
アルモ。その通りだ
嘘よ!私の身体に印なんて…
刹那、母さんが私の右肩に手をあてると、静かに魔法の詠唱を始める。
母さん!何で母さんが魔法を…
そして、母さんの手から放たれている光が一瞬強く光ると同時に、私の中から力強いエネルギーが沸き起こってくるのを感じた。
アルモ。自分の身体を、鏡で見てみなさい
父さんが大きめの手鏡を私に手渡す。
これは…右肩に三日月のアザが…
ついさっきまで、こんなアザはなかったのに…
私がお前とこの剣をここに連れ帰った時、母さんがお前の身体に保護魔法をかけたんだよ。
来る日が来るまで、第三者にアザを見られないようにするため。
そして、強大な力に、成長過程のアルモが飲み込まれないようにするために。
そんな…
あなたは、私たちが思った以上に立派に育ってくれた。
そして、この『月明りの剣』と魔法を扱うに相応しい年齢になった。
私たちの元を旅立つ時が来たのよ…
私、父さんから一通りの剣技は習ったけど、魔法を扱う修行はやっていないわ…
急に『魔法』扱うに相応しい年齢、と言われても…
それに、魔法はこの世界の『禁忌』なんでしょ!?
魔法の扱い方は、この『月明りの剣』が教授し、導いてくれるだろう。心配はない。
それに、魔法が『禁忌』とされているのは『ワイギヤ教』の教えによるからに他ならず、アルモ、お前はその『ワイギヤ教団』を敵に回すことになるんだ!
ワイギヤ教団が、敵!?
ワイギヤ教は、この世界を支配している宗教といっても過言じゃない。
そして、ワイギヤ教がその支配力を絶対のものにしているのが『魔力の独占』だ。
人々の信仰心を利用し、魔法を『禁忌』とすることで、その力を独占し、世界を裏から支配している。
世界中で発生する戦争も、あまつさえ自然発生的に起こる天変地異でさえも、教団が意図的に発生させているのでは?と、反教団派の間では噂になっている。
父さんと母さんは、その『反教団派』って訳ね…
そう。私たち反教団派は『Crescent Alliance(CA)』と名乗り、世界のさまざまな場所に同志がいるわ。
その『月明りの剣』の紋章と同じデザインの物品、主に装飾品を身につけているわ。
父と母が結婚指輪を私に見せる。
二人の指輪には、確かに月明りの剣と同じ紋章が刻まれている。
CAには予言の巫女がいて、その巫女の予言に従い行動をしている。
私は今から17年前、巫女の予言に従い旅をし、お前と月明りの剣を見つけた。
そして、今日までお前をわが子のように育ててきたんだ。
アルモ。あなたは、私たちの『希望の星』。
この世界をあるべき姿に戻すことのできる、唯一の希望なの。
さぁ、目の前の月明りの剣を、手にとってみて…
私は、恐る恐る目の前の剣に手を伸ばした…
第2話に続く