アルモ

うっうっ…ガイーラさんが、死んだなんて…うっうっ…ひっく…

 アルモの嗚咽が、謁見の間に響き渡る。

 ガイーラに成り代わっていたラジマの武器の破壊に成功した俺たちは、何とかラジマをこの王宮から退却させることに成功した。

 だが、ラジマからもたらされた本物のガイーラの消息は、アルモの心を乱しに乱していた。

アコード

アルモ…

 アルモにかける言葉が見つからない俺は、言葉を詰まらせた。

レイス

アコード…今は好きなだけ泣かせてやるのも、優しさというもんさね…

 俺の肩にそっと手を置き、虚空を見つめながらレイスが言う。

アコード

レイス…お前は、辛くないのか?

レイス

辛くない…と言ったら嘘になるな…
でも、私が泣いた所で、死んだ主様は喜ばない。

アコード

そうか…

 急に辺りが静寂に包まれる。

 アルモの嗚咽が止まったようだ。

 アルモを見ると、ゆっくりと目を開き、そして口を開いた。

アルモ

ガイーラさん…いえ、ガイーラは、私の命の恩人なの

 突然、堰を切ったようにアルモが語りだす。

アコード

命の、恩人?

アルモ

そう…あれは、私がこの剣と共に旅に出た直後のことだった

 その日、習わしに従って成人の儀式を受けた私は、両親から途方もないカミングアウトを受けた。

アルモの父

お前は、私たちの子どもじゃないんだ…

アルモ

……えっ!?

 唐突に、私の想定外の言葉を口にする父。

アルモの母

信じられないかも知れないけど、本当のことなの

 すると、母の言葉に呼応するように、父は腰に携えた剣を抜きテーブルの上に置く。

アルモの父

この剣のことは、知ってるな

アルモ

父さんがずっと肌身離さず持ち歩いている剣、よね…

アルモの父

そうじゃない。この剣の云われを、小さい頃、母さんから聞いているはずだ…

 そう言いながら父が指す指の先を見ると、柄の部分に三日月の紋章が見える。

アルモ

…これは…
…母さんがよく話してくれた『月明りの剣』…
おとぎ話だとばかり思っていたけど…
しかも、その剣を父さんが持っていたなんて…

アルモの父

母さんのおとぎ話では、この剣の使い手はどう語られていた?

アルモ

確か…

…剣を持つ者、身体にその印を持つ。
身体に刻まれしその印は剣を持つ者に力を与え、心正しい者の傷を癒し、邪悪なる者共を闇の彼方へと葬り去る力を得る。
やがて、その者は同志たちと共に、世界を本来の姿を還したのだった…

アルモ

みたいな感じで…
って…
父さん!!
『その者』が、私だとでも言いたいの?

アルモの父

アルモ。その通りだ

アルモ

嘘よ!私の身体に印なんて…

 刹那、母さんが私の右肩に手をあてると、静かに魔法の詠唱を始める。

アルモ

母さん!何で母さんが魔法を…

 そして、母さんの手から放たれている光が一瞬強く光ると同時に、私の中から力強いエネルギーが沸き起こってくるのを感じた。

アルモの母

アルモ。自分の身体を、鏡で見てみなさい

 父さんが大きめの手鏡を私に手渡す。

アルモ

これは…右肩に三日月のアザが…
ついさっきまで、こんなアザはなかったのに…

アルモの父

私がお前とこの剣をここに連れ帰った時、母さんがお前の身体に保護魔法をかけたんだよ。
来る日が来るまで、第三者にアザを見られないようにするため。
そして、強大な力に、成長過程のアルモが飲み込まれないようにするために。

アルモ

そんな…

アルモの母

あなたは、私たちが思った以上に立派に育ってくれた。
そして、この『月明りの剣』と魔法を扱うに相応しい年齢になった。
私たちの元を旅立つ時が来たのよ…

アルモ

私、父さんから一通りの剣技は習ったけど、魔法を扱う修行はやっていないわ…
急に『魔法』扱うに相応しい年齢、と言われても…
それに、魔法はこの世界の『禁忌』なんでしょ!?

アルモの父

魔法の扱い方は、この『月明りの剣』が教授し、導いてくれるだろう。心配はない。
それに、魔法が『禁忌』とされているのは『ワイギヤ教』の教えによるからに他ならず、アルモ、お前はその『ワイギヤ教団』を敵に回すことになるんだ!

アルモ

ワイギヤ教団が、敵!?

アルモの父

ワイギヤ教は、この世界を支配している宗教といっても過言じゃない。
そして、ワイギヤ教がその支配力を絶対のものにしているのが『魔力の独占』だ。

アルモの父

人々の信仰心を利用し、魔法を『禁忌』とすることで、その力を独占し、世界を裏から支配している。
世界中で発生する戦争も、あまつさえ自然発生的に起こる天変地異でさえも、教団が意図的に発生させているのでは?と、反教団派の間では噂になっている。

アルモ

父さんと母さんは、その『反教団派』って訳ね…

アルモの母

そう。私たち反教団派は『Crescent Alliance(CA)』と名乗り、世界のさまざまな場所に同志がいるわ。
その『月明りの剣』の紋章と同じデザインの物品、主に装飾品を身につけているわ。

 父と母が結婚指輪を私に見せる。

 二人の指輪には、確かに月明りの剣と同じ紋章が刻まれている。

アルモの父

CAには予言の巫女がいて、その巫女の予言に従い行動をしている。
私は今から17年前、巫女の予言に従い旅をし、お前と月明りの剣を見つけた。
そして、今日までお前をわが子のように育ててきたんだ。

アルモの母

アルモ。あなたは、私たちの『希望の星』。
この世界をあるべき姿に戻すことのできる、唯一の希望なの。
さぁ、目の前の月明りの剣を、手にとってみて…

 私は、恐る恐る目の前の剣に手を伸ばした…

第2話に続く

Episode5「帰郷」 第1話~Crescent Alliance~

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