その日は月が隠れていた。
ふいに気配を感じて足を止めると鈴を転がすような声が聞こえた。
「アナタはどこに行くの?」
彼女は言った。
「どこでもない、どこかだ」
面倒臭そうに男が答える。
「んー……………それって、どこ?」
また、彼女が問いかける。
「ここじゃない」
「あっち? こっち? どっち?」
「………」
面倒な奴に捕まった気がする。
このままだと、同じ会話が永遠に繰り返される気がして……
「ああ、西だな」
適当にそう答えると、
「西に行く? じゃあ、私も行く」
「何でそうなるんだよ」
「私、これから何処に行けば良いのかわからなかったの」
「好きなところに行けば良いだろ」
「だから、アナタの行くところに!」
……なんて目を輝かせて言い切った。
こちらの承諾なんて、聞くつもりはないらしい。
「……わかったよ。仕方ないな」
「ありがと。でも、アナタがダメだって言ってついていくつもりだったよ」
「そうだと思った。勝手について来られても困るからな。行くぞ」
「エヘへ……ところで、アナタの名前は何ていうの?」