エルフの少年は短剣を構え、
トリッキーな動きで僕に向かってくる。
――想像していた以上に速い!
エルフの少年は短剣を構え、
トリッキーな動きで僕に向かってくる。
――想像していた以上に速い!
うおぉおおおおぉーっ!!!!!
僕は鞘から剣を抜き、
短剣による攻撃を受け止めた。
その後も休まず斬撃を繰り出してくるけど、
僕は全てを確実に見切って受け流していく。
彼の接近戦の実力は
聖騎士(パラディン)クラスだろう。
剣に迷いや淀みがなく、一撃も重い。
あのぉ、
まだ話の途中なのですが……。
僕は攻撃を受け流しながら苦笑した。
すると彼はさらに攻撃のスピードを上げ、
本気で僕の命を狙いに来る。
でもムキになったようなこの状況でも
根はすごく冷静。
攻撃の一つひとつに意味がある。
ちゃんと次に繋がる攻撃になってる。
そんなことっ、
オイラが絶対にさせねぇっ!
世界樹が弱ってるって知ってて、
なんでそんなことをするっ?
今、枝を折ったら
近いうちに確実に枯れちまうっ!
そうなったら、
ますます魔族の力は
強まっちまうんだぞ!
それは僕も理解しています。
でも魔王城の結界を破るには
世界樹の力を秘めた武器が
不可欠なのです。
分かってるッ!
オイラだってそれくらいッ、
分かってんだよぉっ!
いつの間にか彼の瞳には涙が浮かんでいた。
エルフ族は僕たち人間以上に
自然や精霊とのつながりが深い。
彼にとって世界樹は家族も同然なんだろう。
それを思うと僕も胸が痛む……。
安心してください。
世界樹が枯れる前に
僕が魔王を倒しますので。
魔王の力の影響が消えれば
世界樹も活力を取り戻します。
お前みたいな非力な人間に
魔王が倒せるもんかっ!
……非力……ですか……。
だったらなぜあなたの攻撃は
僕にヒットしないのです?
うるさいうるさい
うるさいうるさい~っ!!!!!
彼はとうとう感情に任せて
攻撃するようになってしまった。
これでは攻撃の質は落ちる一方だ。
……仕方ない。少し力を入れよう。
はぁっ!
なっ!?
僕は彼の持っていた短剣を弾き飛ばした。
それは回転しながら宙を舞ったあと、
虚しく地面へ転がって沈黙する。
するとその直後、
彼は弓を構えて持っている銀の矢を
惜しげもなく放ってくる。
うりゃりゃりゃりゃ~!
隙間なく迫り来る矢。
でも僕は剣を振り回してそれらを防ぐ。
そして意味もなく乱射をしていれば
矢だってすぐになくなる。
程なく全ての矢は僕の足下に転がっていた。
無駄です。僕には当たりません。
確かにあなたは強い。
でも残念ですが、
僕はもっともっと強い。
そ、それなら魔法だっ!
世界を構成する万物の精霊よ、
オイラにその偉大なる力を!
世界を守る力をっ!!
まさかそれは最強の精霊魔法!?
あなたはそれを扱えるのですかっ?
精霊の怒り
(エレメンタル・バースト)!
いっけぇええええぇ~っ!
体を包み込むほど大きな光の塊が迫ってくる。
これをマトモに食らうと
僕であってもさすがに少し痛い。
かといって避けたら
僕の後方の森に甚大な被害が出てしまう。
おそらく直線上の広範囲が
大爆発とともに灰と化すだろう。
それは避けたいので無力化させてもらうっ!
はぁああああああぁ~っ!
僕は自らの生命エネルギーを膨れあがらせ、
それを気合いに込めて光の塊にぶつけた。
直後、ふたつの力は接触した部分で
霧のようになりながら相殺を始める。
――やがて全ての光は空気中に拡散して消えた。
それを目の当たりにした彼は
その場で呆然と立ち尽くしている。
バ、バカな……。
気合いだけでオイラの魔法が……。
今の魔法は四大精霊の王、
そして神に選ばれた者にしか
扱えない魔法です。
やはりあなたはすごいです。
…………。
お願いがあります。
あなたの力、
僕に貸して頂けませんか?
一緒に世界を平和に導きましょう。
……さげんな。
彼はうなだれながらボソッと呟いた。
握りしめた両拳はプルプルと震えている。
そのあと、
不意に顔を上げて僕を睨み付けてくる。
ふざけんなっ!
物理攻撃は通用せず、
最強魔法も気合いだけで消して
何を言ってやがるっ!
お前だけで充分だろうっ!
魔王を力で倒すだけなら
確かに僕だけで充分でしょう。
でもそれでは根本的に解決しない。
そんな予感がするのです。
それは僕の正直な気持ちだった。
神様が僕に与えてくれた力は
あまりにも強大すぎる。
つまりそれには意味があって、
きっと力だけでは
解決しないってことなんだろうと思う。
あるいはその力や僕の命を
全て使わなければならない時が
来るのかもしれない。
だからこそ――
その時に頼りになるのは、
あなたのように純粋な心と
強さを兼ね備えた仲間です。
こうして出会ったのは
きっと運命なのですよ!
お前……。
僕は彼に歩み寄り、その手を優しく握った。
細くて小さくて柔らかい手。
すごく温かくて癒される感じがする。
あぁ、やっぱり僕たちが出会うのは
運命だったんだってこの瞬間に確信した。
僕は微笑みながら彼を見つめる。
ひとりでやれることには
限界があります。
だから力を合わせ、
心を合わせてくれる仲間が
僕には必要なのです。
どうかお願いしますっ!
仲間になってください!
僕は手を握ったまま、深々と頭を下げた。
お、おいっ、頭を上げろって!
嫌ですっ!
それに仲間になってくれるまで
僕はあなたに付きまといますから!
逃げようとしても無駄ですからね!
お前なぁ……。
強引というか横暴というか……。
それじゃ、
僕をあなたの仲間にしてください!
それならどうですか?
…………。
一拍の間――。
やがてため息をついたような音が
聞こえたと思うと、
彼は僕の手を握り返して小さく振ってくる。
分かった、仲間になってやる。
ただし、仲間に値しないって
オイラが感じたら、
そこでパーティは解消だ。
ありがとうございますっ!
僕は嬉しくて、
思わず彼を抱きしめてしまった。
小さな体と温かな体温が伝わってくる。
うわわっ、ひっつくなっ!
で、キミの名前は?
……デタックル。
長ったらしいから、
タックと呼ぶことにしましょう。
いいですよね、タック?
馴れ馴れしいっ!
ちょっと迷惑そうな声をあげたけど、
それは照れ隠しだよね?
だってタックから少し離れて顔を見たら、
嬉しそうに微笑んでいるもん。
僕は少し気持ちを切り替え、
真面目な顔でタックを見つめる。
……タック。
あん? なんだよ?
僕は世界樹が枯れる前に
世界を平和にすると誓う。
っ!?
そして命を賭して
キミを守ると
誓おう!
ハッキリとした口調で僕は言い放った。
アレク……。
すぐそばで見届けてほしい。
僕のこれからの全てを。
世界の行く末を。遠い未来を。
…………。
だからほんの少しでいい、
キミの力を貸してほしい。
――あぁ、分かった!
ほんの少しどころか
全力を貸してやるよ~☆
お前には不思議な
可能性を感じる。
今の話を実現してくれるような
そんな気がする~☆
僕はあらためてタックと固い握手を交わした。
これでこれからの旅が
ますます充実したものになりそうだ。
ううん、その予感はきっと当たるっ!!
――これからよろしくね、タック!
そして物語は未来へ
続いてゆく……。