リチュエル

グリヴと出会ったのは去年の留学だ。歳が近いのもあって俺の滞在中の相手をしてくれていた

ジュレ・パトリオット

その時に恋に落ちたと

リチュエル

若い時期の恋愛は熱いというのは本当らしい。俺が帰国する頃には彼女も俺を想うようになっていた。そこで今回の彼女の留学だ

リチュエル

期待しない方が、男としては無理だろう

メートル

とりあえず私は否定しておきます

リチュエル

しかし、冷静になるのは全てが終わってからだった。こんな不祥事誰にも知られるわけにもいかないし、結局苦渋の策が「駆け落ち」というわけだ

ジュレ・パトリオット

ここまで来たのは転送魔法?

リチュエル

親父の頃から転送魔法は十八番だったからな。俺だけ使えないというのも変な話だろう?

リチュエル

どれだけバレずに転送するのかが問題だったのだが、どうやら今のところはバレていないようだな……

フィン・マサークル

なんとなくの概要は分かりました。そのうえで、姫様の診断結果なのですが……

フィン・マサークル

姫様は妊娠高血圧症候群だと思われます

ルクリュ・プレシアンス

そ、それってヤバい病気なんですか?

フィン・マサークル

あまりこの国では広まっていない病気だと思う。妊婦の血圧が非常に高まってむくみが起こることはあるけど、頭痛や熱はかなり症状としては重い

フィン・マサークル

この病気の怖いところは出産前に胎盤に影響を及ぼしたり、子癇(しかん)という発作が起きて母子ともに命を落としてしまう可能性もあるということです。今のところそこまで症状は進んでいませんが、これ以上負荷をかけると非常に危険です

リチュエル

命を……だと!?

ルクリュ・プレシアンス

とんでもなくヤバい病気じゃないですか!!

メートル

付け加えるならば、妊娠高血圧症候群の原因と言われているのは高血圧と塩分。逃亡し始めたのは3日前と聞いていますが、ずっと箱入りだった姫君にはちょっとした逃避行すらストレスだったのでしょう。いや、5ヶ月ということは他の人に隠すことに疲れていたのかもしれませんね

ルクリュ・プレシアンス

フィンさん!何とかならないんですか!!

フィン・マサークル

方法はないわけじゃない。でも、クスリに使える薬草はどれも時季外れで山には生えていないし、家まで取りに行けないし……ありあわせの薬草で間に合わせるしかない

フィン・マサークル

とにかく、すぐに都に連れて行った方がいいです。そこならここよりも設備は整っています

ルクリュ・プレシアンス

そもそも、私達は姫様を探しに来たんですし

リチュエル

…………

ジュレ・パトリオット

国際問題になるのは分かってますよね?

リチュエル

分かっている。そして、それが怖くて流せなどと言うつもりもない。仮にも国をこれから導いていくのだ。己の非ぐらい潔く背負って見せる

ジュレ・パトリオット

……そうですか

メートル

フィンさん、実はもうひとつだけ懸念があるんです。それを払拭したいんですが……

フィン・マサークル

うん。その懸念って?

メートル

ジュレ君を、お借りできませんか?

フィン・マサークル

ジュレ君?……いいけど

フィン・マサークル

ジュレ君、君にも見てほしいんだけど、いいかな?

ジュレ・パトリオット

……ぼく?

フィン・マサークル

うん。お願い

ジュレ・パトリオット

いいよ。分かった

ルクリュ・プレシアンス

フィ、フィンさん!私も診ましょうか!?

フィン・マサークル

今のところはいいかな

ルクリュ・プレシアンス

うむう……

ジュレ・パトリオット

姫様は……眠ってるね

フィン・マサークル

よっぽど疲れてたんだと思う。睡眠用のゴキゲンって薬草もすり潰したんだけど、必要なかったかな

ジュレ・パトリオット

ずっと二人で診てきたの?

フィン・マサークル

二人って……?

メートル

彼にはどうやら「見える」らしいんですよ、フィンさん

メートル

改めて初めまして。フィン・マサークルの師匠であるメートルと言います

ジュレ・パトリオット

どうして他の人には見えていないの?何かの魔法?

メートル

魔法……そうですね。これも何かの魔法的な何かといえるでしょうね

メートル

私はね、本当は死んでるんですよ

フィン・マサークル

…………

ジュレ・パトリオット

幽霊……ってこと?

メートル

そうなりますね。肉体はとっくに腐ってますから

メートル

これでも昔は軍にも顔が利くほどの調合師だったんですよ。薬剤部隊っていう舞台を任されたくらいでした

メートル

君のお父さんがもう少し若い頃、国では流行り病でたくさんの人が苦しんでいました。当然のように国からは流行り病の薬を作れと命じられ、僕たちもそのために必死に働きました

メートル

でも、私達は病のことを半分しか理解してませんでした。気づいて完全な特効薬が調合できた頃には部下を含めたたくさんの人が亡くなり、私自身も病に侵されていました。特効薬の数は限られていた分、私は作り方を記すと同時に亡くなりました

メートル

どうしてか私は死にきることができず、魂だけがこうして留まってしまっています。その時にフィンさんに出逢い、彼女に調合師としての知識を教えることに決めたんです

ジュレ・パトリオット

それを、どうして僕に?

メートル

いやぁ、フィンさん以外に私が見える人なんて初めてで。つい嬉しくなっちゃいましてね

フィン・マサークル

……先生、話したいのは分かるけど、今は姫様を

メートル

ええ。では本題です。ジュレ君は透視魔法は使えますか?

ジュレ・パトリオット

使えるけど……姫様を透視するの?

メートル

ええ。姫様の中の魔力の流れが診たいので

ジュレ・パトリオット

……妊娠してるなら診なくても分かると思うけど

メートル

論より証拠って言いますからね

メートル

フィンさんはもし体外の魔法の干渉に胎児が過剰反応してしまった場合のためにミセカケの花粉薬をお湯に溶かしてください!

フィン・マサークル

はいっ!

メートル

ジュレ君、お願いします!

ジュレ・パトリオット

…………ん

ジュレ・パトリオット

クラルテ・エタンセルマン!!

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