月!

邪神殿ヴェルフィンシャンツェ!

アドルフ

――――――

マーヤ

………………

魔術的エンバーミングを

施されたアドルフの遺骸を前に

マーヤは絵を描き続ける。


魔笛を吹き鳴らし!

太鼓を乱れ打つ!

呪わしき従者の絵を!


この宇宙そのものを!

眠りて眺める夢とする!

盲目にして

万物の王である白痴の邪神を、

奇怪な音楽で慰める従者の絵だ!

アドルフ

――――――

マーヤ

……私、お兄さまを見つめていると幸せです……お兄さまさえいれば他には何もいりません……オスカーがいなくても寂しくありません……本当です……ぜんぜんさみしくありません……ぜんぜん……

マーヤの世界全廃、

および新世界創造の計画の方法は

自らを白痴の邪神とすることだ!


かの神は白痴であるゆえに

他者に成り替わられることに

異を唱える自我を持たない!

ゆえに

トイファイターの力を応用すれば

その権能を簒奪することは可能!


邪神の祭殿を! 邪神の従者を!

自由帳に描いて再現し!

邪神の御座にましまさば!

マーヤは白痴の邪神と成るであろう!


白痴の邪神と成ったれば!

マーヤは古き夢から目を覚ます!

兄を死なせた世界という悪夢から!

そして新しき夢を見る!

兄も自分もいかなる者も!

幸せな世界という新たな夢を!


その過程に現行世界の滅亡が

起こるとしても必要経費!

顧慮する理由は欠片もなし!

マーヤ

…………はぁ

ワープゲートがアクティブ化!

何かが転送されてくる!


天狗の法力は!

トイファイターの夢とは

異なる原理で作用する!

ゆえにマーヤは

このワープゲートを

未だ除去できずにいた!


有象無象を払いのけるは

造作もないことではある!

だが余りにも数が多い!


返り血で

絵が損なわれたこともある!

度重なる作業の中断に!

マーヤはかなり嫌気がさしていた!

庭師

やあ、マーヤ。遊びに来たよ。

マーヤ

Scheiße!

不可視の斬撃が!

庭師の身体を引き裂いた!

カケト

うわっ! お面のおっちゃん!

オスカー

そんな……!

トキヒト

大丈夫だ。彼はかやうのことでは死ぬまい。

庭師

――トキヒトの言うとおりだ。
私を殺すことはできないよ、マーヤ。

マーヤ

引き裂かれた庭師は!

いつの間にやら

マーヤの隣に直立したり!

庭師

私は夢の庭師。子供らの夢こそが、私を成立させている。この大人の姿は影に過ぎない。君がそうして達者でいる限り、私は君の前に現れるよ、マーヤ。
だから、まずはお喋りをしようじゃないか。私たちは遊びに来たのだから、いきなり斬って捨てる法はあるまい?

マーヤ

ならば、オスカーらを殺すまでです!

庭師

――やめたまえ。

マーヤ

…………っ

不可視の斬撃は!

庭師の身により防がれる!

斬り捨てらるなり庭師は再生!

庭師

無意味なことをくりかえすことは、無意味であるゆえにある種の興趣を持つ。が、もっとわかりやすく、楽しいことをしないか?
――トイファイトをしようじゃないか。

マーヤの夢に!

染め上げられたるこの城は!

もはや現と呼べぬほど!


現ならざればこは夢ぞ!

夢であるなら遊ぶべし!

稚気の徒花繚乱させて!

夢を現と遊ぶべし!


庭師はさように歌いたり!

いと大仰なる動作をもって!

マーヤ

……そういって、私を欺いた者がおりました。あなたがたもそうでしょう。

オスカー

いいえ。ぼくのもくてきは、おねえさまのおもうとおりです。せかいめつぼうを、やめるようにせっとくしにきました。
……かなわぬなら、おねえさまを殺すつもりです。

アルテュール

ちょっと、オスカー。そう殺伐とした話はよしたまえよ。交渉して丸め込むのなら、そのつもりで話をして雰囲気を作っていかなくては。合意を形成し得るものもできなくなるじゃないか。

ゲンペイ

そんなネタばらしみたいなこと言われたら、かえって逆らいたくならないか?

カタリ

でも、結局はトイファイトするしかないね。だってあんた、仮面の人を殺せないんだし? 効率を考えるなら、言うこと聞くしかないんだよ、結局。やーい♪

カタリ

……とか煽っといてなんだけどさ。
ねえ、女王さま。僕をあんたの仲間にしてくんない?

マーヤ

はい!?

オスカー

え!?

カケト

カタリ!? 何言ってんだよ!

ゲンペイ

世界が滅んだら、金稼いでも意味ないって言ったじゃんかよ! さっき!

カタリ

まあね。でも、この世界に滅ばれたら困るとは言ってなくない? 言ったとしても、それは嘘ってことで。
群馬までの交通手段を自前で用意するのはダルいからさ、なんとなく世界救いたいっぽいフリして、大公さまのヘリに乗せてもらっただけだよ。僕はさいしょっから、女王さまの味方になりに来た。

アルテュール

……侮られたものだな。この僕を車夫扱いとは。

カタリ

うん。もちろん僕は君を舐めてるよ、アルテュール。
そもそも、僕がこの世を救いたいわけないだろ? この世はクソっていつも言ってたじゃないか。
不完全で悪に満ちたこの宇宙を滅ぼして、完全な善ばかりの新しい世界を作るってのは、僕の信仰する教義と一致するんだ。

カタリ派!

この少年の名の由来でもある宗派は!

グノーシス主義と呼ばれる

霊肉二元論を基調とする

独特の教義を持つ!


肉!

つまりこの世の物質は!

不完全な神によって作られし

穢れたる悪の存在であり!


対して霊!

非物質的な神秘は!

不完全な悪の神の上位者たる

まことの神に由来するもの!


信仰により肉の罪を贖い!

まことの神の充溢せる霊に還る!

この教義を信仰するカタリには!


この世を滅ぼさんとする

マーヤこそ!

まことの神の使徒であると

確信されるのだ!

カタリ

僕の信仰する神の使徒であるあんたに、僕は仕えて霊の救いを得たいんだ。だからさ、仲間に入れてくんない?
もし仲間に入れてくれるんなら、なんだってするよ。世界全廃への協力はもちろん、靴底を舐めろと言われれば舐めるし、僕の身体にどんなひどいことやら、えっちなことしたってかまわない。どう? 

マーヤ

……いいでしょう。我が騎士と成ることを許します。

カタリ

ありがとう、マーヤ陛下。

カタリはマーヤの元に歩み寄り!

跪いて靴に接吻せり!

カケト

くそっ! そんなにカタリにえっちなことしたいのかよ!

マーヤ

違います!!!
私はお兄さま一筋です!!!

庭師

……チームトイファイトとしてはあまりに人数が偏っていたからね。君の行動は私にとってもありがたいよ、カタリ。

カタリ

……どうも。

トキヒト

……そなたは本当に遊ぶことしか考えにないのだな、面かぶり殿。

庭師

遊びに勝るものなどないからね。

カタリ

さ、じゃあチーム分けが済んだところで始めようか。こちらの一番手は僕だ。高貴な方には露払いが必要だもの。

マーヤ

いえ。
私が出ます。私の意志と実力を示せば、手早くカタが着くでしょうし。あなたはこれを。

マーヤは新たな自由帳を!

取り出しカタリに渡したり!

マーヤ

そこに神の従者の絵をお描きなさい。あなたの信仰する、善にして全なるまことの神を、音楽によって礼賛する従者の絵を。あなたの仕事が早ければ、それだけ早く新たな世界が誕生する。いいですね? 

カタリ

Ja, ihre wölfisch Majestät.

深々と頭を下げ!

カタリは絵を描き始める!

オスカー

おねえさまがあいてなら、ぼくがたおします。おねえさま。亡きアドルフ陛下の御名にかけて、まけたらせかいをほろぼさないとちかってくれますか?

マーヤ

……いいでしょう。ただし、あなたが負けたらそこのカタリのように私の騎士となると誓うなら、ですが。

オスカー

わかりました。ぼくはおねえさまをあざむきません。しょだい狼王のごとく、どうどうとおねえさまをうちたおします。

庭師

やっとこれで始められるな!

庭師は指を鳴らす!

芝居もかくやとの大仰な動作で!


音の響いたその瞬間!

ファイトフィールド出現せり!

庭師

Toy set……

トイファイターズ! 十三 ~月で遊ぶ者ども~

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