太陽が昇り、空の群青色が払われたころ。
鬼神の封印の事後処理を終えたテネスとルクスは、遅れて駆けつけてきた部下たちに撤収の準備を任せると、洸汰とカレンの下へとやってきた。

すでに動く体力すら残されていないのか、倒れたまま眼だけを動かして双子の魔法使いたちを見る少女を、二人は見下ろす。

洸汰

あの……
テネスさん……ルクスさん……
彼女は……
カレンさんはこれから……
どうなるんですか?

変身をとき、木にもたれるようにして座る洸汰が、どこか不安そうに訊ねる。

テネス

後のことは私たちに任せておくがいい……

ルクス

あなたは何も心配せずに、少し休んでください……

優しく微笑を向けた二人は、改めてカレンへ視線を向けた。

テネス

さてと……
カレン・マルヴェンス……
レネゲイドとなった貴様に協会からの処分を伝える……

ルクス

もっとも、あなたのことです……
ここに来てから……
いえ、我々に弓を引いたときから……
覚悟はできていたのでしょうが……

黒の少女と白の少女から言われ、カレンは覚悟を決めるように瞳を閉じる。

カレン

分かってるわ……
自分が選んだ道だもの……
覚悟もできてる……

ルクス

殊勝ですわね……

テネス

いいだろう……
ならば伝える……

テネス

カレン・マルヴェンス……
レネゲイドに身を落とし、一般人の前での魔法行使、協会所属魔法使いへの攻撃、殺害、及び魔力の簒奪……

ルクス

そして、この地で封印されていた鬼神を蘇らせ、その力を行使した罪はあまりにも大きい……
よってレネゲイド、カレン・マルヴェンスを処刑する!

洸汰

そんな……っ!?

処刑と言う言葉に、思わず立ち上がりかけた洸汰を、テネスが睨みつけて座らせる。
黙ってみていろ、ということだ。

テネス

……と、まぁ本来ならばそうなってもおかしくないことを貴様はやってきたわけだが……
貴様がここまでのことをしでかした原因の一端は我々協会側にもある、というのが上のじじいどもの見解でな……

ルクス

それを踏まえたうえで、あなたに下された罰は、10年の「魔力封印」と「禁固」処分です

二人の口から語られた刑の内容に、カレンが思わず眼を丸くする。
一方、洸汰はといえば、魔法使いになりたてであり、協会のことなどよく分かっていないので、きょとんとしていた。

カレン

私を……殺さないの?

テネス

本来ならばそうしていたはずだがな……
貴様が復讐に囚われた原因は、立派な功績を挙げたはずの貴様の両親をこちらが殺したことにあるからな……

ルクス

あの事件に上の人たちも負い目を感じていたのでしょうね……
だからこそ、あなたには情状酌量の余地がある、と判断されたのです……
もっとも、あなたの罪を無かったことにはできませんからね……
そんなわけで、こういう罰になったんです……

テネス

それに今回の事件で我々は優秀な魔法使いたちを多く失いすぎたからな……
強化魔法と召喚魔法に優れた貴様を殺してしまえば、協会にとっても痛手、ということだ

カレン

そう…………

短く呟くと、カレンは全身の力が抜けたかのように眼を閉じて息をつく。

「連れて行け」と短く命じられた部下に連れられて、反逆者の少女はゆっくりと神社から去っていった。

その姿を見えなくなるまで見送ったテネスとルクスが、今度は洸汰を振り返る。

テネス

さて、コータ・テンドー……
貴様も我々と一緒に来てもらう……

洸汰

…………はっ?

予想外の言葉に思わずぽかんとする洸汰へ、ルクスが「くすり」と小さく笑いながら補足する。

ルクス

仕方が無かったとはいえ、あなたは魔法使いになりました……
なので、あなたには魔法管理協会に所属してもらわなければなりません……
それに、私たちはあなたの魔法使いの師匠ですからね……
きちんと最後まで修行をして、優秀な治癒術師になってもらわなければ困ります……

洸汰

え……
いや、言ってることは分かるんですけど……
親のこととかもあるし……
学校だって……

テネス

貴様の両親の説得や学校の手続きなんかはこちらで責任を持つ
だからつべこべ言わずに付いて来い!

有無を言わさぬ、ともすれば魔力を立ち上らせそうな勢いで言うテネスに、洸汰は思わず頬を引き攣らせながらも頷くしかなかった。

――10年後

イギリスの片田舎にある、とある丘の上でぼんやりとしていた一人の青年のもとへ、一人の女性がさくさくと草を踏みしめながらやってきた。

カレン

コータ……
こんなところで何してるの?

洸汰

いや……別に……
ただ何となく10年前のことを思い出してたんだ……
君と出会ったあの夜の日から……
君と戦ってぼっこぼこにされたあの日のことまで、ね

おどけるように言った青年――洸汰の言葉に、女性――カレンがぷくり、と頬を膨らませる。

カレン

あ……あの時はだって……!

洸汰

ぷっ……
あっはははははは!

その様子があまりにもおかしかったのだろう、洸汰が堪えきれないとばかりに笑い出し、カレンはますます頬を膨らませる。

と、そこへ洸汰の携帯が高らかに鳴り響いた。
画面を見れば、そこには「魔法管理協会」の文字。

それでおおよそのことを察したのだろう、電話に出ることなく切った洸汰は、顔を真っ赤にしながら「うー」とか「あー」とか唸っているカレンへ手を差し出した。

洸汰

協会からの呼び出しだ……
行こう、カレン

カレン

ええ……
行きましょ

そして二人は、爽やかな風が吹き渡る丘を、手をつないでゆっくりと降りていった。

~Fin~

pagetop