あな! こはいかに!?
不意にゲンペイ現る!
……つまらない夜だと思って終わるのも楽しくない。昔話でもするとしようか。
おやおや。面かぶり殿よ、早く眠れと言っていたのは誰であったろうか?
私だ。もちろんそこはわきまえている。永遠にここの庭師である私と違って、君たちには現の明日がある。
だから無理強いはしない。いてほしいとは思うがね。
今すぐ帰るも、途中で帰るも、話を聞き終えるも、好きにするといい。私を無視しきってトイファイトにふけるも結構だ。一番のおすすめはこれかもしれぬ。
そんならよ、ファイトしようぜ!
あな! こはいかに!?
不意にゲンペイ現る!
いいだろう。今夜の僕の勝ち星の一つとなりたまえ!
そして不意に去る!
ファイトフィールドへと!
アルテュールを連れて!
せわしないことですね……
あの若様は勝負ごとになると、子供を通り越して田舎ヤンキーも同然だからね……
わ。おねえさま
カタリも!
オスカー、お兄さまが目覚めてくださいました! でも、世界征服は明日にして、今夜はお休みになりました。あなたも一緒に帰りましょう? もう遅いのですから。
はい……
あら? どうかしましたか、オスカー?
マーヤ、オスカーはまだこの庭に居たいのではないかな。君らがどうするかは自由だが、私としては共に残っていてもらいたいね。
いいえ、お暇させていただきます、仮面の方。庭の接収を試みた私の同席を、そこな下郎どもは好まぬでしょうし。
おれは別にどうでもいいぜ
狼の姫よ、――玉座にあるそなたが然様な無礼を口にするとはゆめ思わぬが――
まさか、宮を下郎のうちに含んではおるまいな?
夢の中では迷惑料も取りようがないね
ね、ちょっとあそびましょうよ、おねえさま。
……ま、いいでしょう。トイファイトは荒っぽくて私の好むところではありませんが、今夜は寛大な気分なのです。オスカーと共に過ごすといたします。
そうか。君の臨席を、私は特に嬉しく思うよ、マーヤ。
庭師の手に琴が出現!
リュラーと呼ばれる古のギリシア琴だ!
では、昔話を始めよう。
庭師はリュラーをかき鳴らし!
いと高らかに歌い出す!
初代狼王の生まれる遥か以前!
小さな島に小さなポリスがあった!
今となっては、
海底火山の活動で!
灰燼さえもが海の底!
とある少女がそこにいて!
家族と友! そしておもちゃと!
憂いもなしに暮らしてた!
だが人は変わるもの!
成長した彼女に嫁ぐ日が!
そのポリスには定めがあった!
結婚の前日に!
新婦はおもちゃを神殿に奉納すると!
おもちゃは子らのもの!
良妻賢母の道具に非ず!
嫁ぐ婦人のおもちゃ持てるは災いなり!
考え浅き大人ども!
かく宣いて彼女とおもちゃに、
悲しき別れを強要せり!
我と彼女ぞ無二の友!
二つならざる身であるに、
大人は我らを引き裂いたり!
嘆く彼女の流せる涙!
オケアノスの嵩をも増したる!
歓喜満つべき初夜の床!
然れども!
彼女の愁嘆せること斜めならず!
新郎いぶかしみ問うたれば!
彼女は泣く泣く答えたり!
語るも悲しき別れをぞ!
祭壇に掲げられたるこの我も、
彼女を慕うて泣きたるべしと!
「私」と一つに成ったる「我」は!
思い出すだに尽きせぬ哀れ!
仮面の裏の濡るるもわかろう!
私は彼女の嘆きを聞いて!
走らざるには居られざり!
私は闇夜のポリスを走り、
神殿にこそ赴きけれ!
他にも非ざるこの我の!
奉納せられる神殿へ!
私は忍びて神殿に入り!
捧げられたる我を見出せり!
「私」は「我」をかすめ取り、
彼女の元へ連れ帰らん!
警邏の兵は眠りにふけり!
ただ神々のみぞ見咎めたる!
私は彼女の待つ家へ!
音もたてずに急いだり!
我と彼女の再会に!
彼女の嘆きも晴れるべし!
かく目論んだるこの私!
戸口のそばにて!
不意に気配を感じたり!
あるいはかすかな物音か!
私は後ろを顧みた!
あなや!
と思うもすでに遅し!
げに呪わしきかの大蛇!
我と私を呑みこんだり!
ああ! 神々よ!
私と我は御身ぞ呪い奉る!
御殿を侵せし罪ゆえに!
大蛇の私と我を呑むは至当なり!
然れども! 然れども!
おお!
彼女を害するとは何事か!
私と我を呑んだるその後に!
彼女を守る者はあるまじ!
おお! 神々よ!
私と我は御身を呪い奉る!
咎なき者をも罰する御身を!
この御裁きを運びたまへる時を!
ゼウスよ! クロノスよ!
忘られし、また知られざる、
全てのいと高き神々よ!
私と我は御身を呪い奉るぞ!
輝く雷霆!
呪わしき大蛇を滅ぼしたり!
されど天空神の力は至大なり!
雷霆の熱は未だ残りて、
大蛇の内なる、
私と我をも焼きにける!
口さがなくも! 神々を!
三度呪いたる私と我を!
ああ! ご覧あれ!
神々のまこと精妙なる御裁きを!
轟いたる雷霆に眠りを覚まされ!
彼女は家の外に出たり!
雷霆の熱に焼締められて!
一つになったる私と我の!
げに無惨なる灰燼の前に!
彼女の嘆きを癒さんと!
試みたゆえになおもなお!
彼女の嘆きぞ深まりける!
我と私を諸共に!
失くしたりける彼女の嘆き!
もはや言葉も及び得ざる!
神々彼女を哀れみて!
我らを彼女に会わせたり!
夜に滅びし我々に!
小さき庭をぞ賜ひける!
夜の眠りのその果ての!
夢の庭をぞ賜ひける!
夢の庭にて彼女と我ら!
夢を現と遊んだり!
没我に遊べる彼女の歓喜!
人の望みうる頂きにこそ登りけれ!
ああ! ご覧あれ!
神々のまこと精妙なる御裁きを!
いつしか彼女は老いて果て!
ポリスも滅びて海の底!
然れども私は夢の庭!
人の記憶もトイの記憶も、
あまつさえ彼女の名前をも!
褪せて果てたる今もなお!
私がいるのは夢の庭!
日に日に伸び行き入れ替わる!
あまたの子らと夢の庭!
稚気の徒花繚乱させて、
夢を現と遊びたる!
こはオネイロイの御裁きなり!
私は夢の庭師なり!
遊べる子らに幸いあれ!
また神々に誉あれ!
いとも精妙なる御裁き!
かくも為したる神々に!
……清聴を賜り、私は歓喜している。ありがとう。
ねえ、これホントの話?
……少なくとも私はそのつもりだ。褪せ果てたる記憶だが。
ゆめのにわはそうしてうまれたのですね……
なあ、ヘビと一緒にもやされたってことはさ、あんたはヘビでもあるのか……? だったらこわいなあ……群馬の薮塚コブラを思い出すよ……
カケト。神話やおとぎ話を聞くときは、細部について深く考えるべきでないぞ。そなたは沈思黙考の輩ではあるまい?
そだな……細かいことは明日レンに聞いてみよう……
結構な語りぶりでした、仮面の方。聞いた甲斐があるというものです。いずれ、何かの役に立つときもあるかもしれません。
オスカー、月都へ帰りましょう? さすがに、もう遅すぎますから。
はい。おねえさま。
僕も帰るとしよう。狼王が変わるなら、時世に合わせた金儲けの方法でも考えつつ。
くっそーっ!
負けたッ!
感謝するよ、ゲンペイ。おかげで勝利の歓喜をさらに深めることができたから。
庭の謎が明らかに!!
ゲンペイくんとアルテュールくんは良かったのか…!?割と重要な話だった気が…まあ何とかなりますよね⁽⁽◝( ˙ ꒳ ˙ )◜⁾⁾
お読みくださりありがとうございます、るりルシさま!あの二人は後で、カケトあたりから聞くのでたぶんなんとかなるでしょう!ならなくてもあたふたするのはそれはそれでおいしいですし!
大人になったらいずれおもちゃを手放さなきゃならないのも確かです。でもそれは他人に強制されてではなく、持ち主自身が自らの意思で手放し、次のこどもに託すことを選んだ結果であるべきです。勿論、いつまでも大事にとっておくのも一つの道です。
ってアンディが言ってた