私たちは、全裸姉妹を先頭にしてショッピング・モールに向かった。

 そこでセシリアちゃんたちと合流した。

 全裸姉妹が、一緒に来て欲しいと言ったからである。


これで全員です

 セシリアちゃんは、屈託のない笑みでうなずいた。

 その笑顔に、私たちの心は洗われた。

 サクラさんが言った。


研究施設はここの地下だな?

エレベーターがあります

案内しろ

 サクラさんは銃をおろした。

 だけど手錠はそのままだ。

 サクラさんは、ふたりをまるで犬のように扱い、地下施設に向かった。

 さすがにその扱いは人道的にどうなんだよと、よっぽど注意しようかと思ったけれど、しかし姉妹の笑顔を見るとやっぱり注意する気がなえてしまった。

 それどころか、ちょっとだけ姉妹のことを羨ましいと、ほんとうにちょっとだけだけど感じてしまった。そんな自分がいたりする。……。


 まあ、それはさておき、ともかくとして。


 私たちは地下施設につながるエレベーターに乗った。

 そしてヤマイダレさんが凍っていた最深階の、そのひとつ手前で降りたのだ。









うわあ……

 そこは太平洋戦争期の施設にしてはあまりにも近代的な、レトロフューチャーって感じのフロアだった。壁はのっぺりとして白く、つなぎ目がない。ひどく冷たい感じがする。



ここが例の『イロ・イッカイ・ズツ』ですよ

 姉はそう言って、迷路状の廊下を進んだ。

 私たちはその後をついて行った。

 サクラさんがつぶやいた。








ところどころ補修してある。すくなくともこれは1940年代のテクノロジーではない……














ヤマイダレ氏は、何度か冷凍睡眠から目覚めたようですね。おそらくそのときに施設を拡張したのでしょう














昭和の監察官……スパイがか?

もちろん、彼女ひとりで拡張したわけではありません














しかし当施設の関係者は、終戦の混乱でヤマイダレ監察官以外は全員っ

!?

ええ

まさか他国に知り合いっ、いや、ハッキリ言うが敵国に仲間がいたのか!?

見たところ、補修工事は1980年代に集中しています。言うまでもありませんが、当時からこの施設の上には米軍の駐屯地がありました














ヤマイダレ監察官は、アメリカの二重スパイか

当時は冷戦のまっただ中。ソビエトかもしれませんよ

あるいはその両方……

 サクラさんは、かるいめまいをおぼえた。

 私が駆け寄ると、彼女は手をあげてそれを制止した。

 先頭を歩いていた姉妹が振り向いた。

 立ち止まってサクラさんを気づかった。

 サクラさんが無理に笑うと、ふたりは再び歩きはじめた。







 やがて姉が言った。


彼女が二重スパイなのかどうなのか……それは分かりません。しかし今お話しした通り、ヤマイダレ氏は皆さんが思っているような好人物ではありません。それは確かです。清濁あわせもった酷薄なスパイ、とんだ食わせ者、ウソで人生を塗りかためたサイコパス、もしかしたら全身整形によって『ヤマイダレ監察官』になりすました正体不明の何者か……かもしれません

そんなあ

だからこそ、私たち姉妹は、そんなヤマイダレ氏の情報を信頼したのです。彼女の暗号によって導かれた結論、彼女が貴女たちに伝えようとしたメッセージに、むしろ真実を見たのです

それは……

着きましたよ

 重厚な扉が目の前に現れた。

 それは、まるで銀行の巨大金庫のような、ひどく無機質でひんやりとした扉だった。



覚悟はいいですか?

 彼女の沈痛な面持ちに、私たちの背筋は自然と伸びた。――

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