【87】

























まいどあり~


なんの問題もなく飴を買って
飴屋の暖簾をくぐった時だった。

おつかいか?

目の前に、知らない人が立っていた。


こっちが知らないのに
向こうはやけに馴れ馴れしい。

気をつけないと。
こういうのは危ないって聞いた


「お嬢さん可愛いね~」と
言葉巧みに連れ出して

そのまま売られるとか
AVに出させるとか
高額商品を買わせるとか
外国人のオッサンと結婚させられたとか

いくらでも考えられる。

怪我もないみたいでよかったな

ええまあ


怪我?

もしかして
ボクがここに連れて来られたことを
知っている?


……あの、声の人?



それとも


人買いの一味?

……

ぐぅぅぅぅぅぅ

腹減ってんのか?

なななななんでもないです!!


恥ずかしい。
おなかが鳴るなんて。

そういやあ俺も減ったな。
なにか食いに行くか

えええええええ!?


その人はボクの手を掴むと
大通りを引っ張っていった。






























ちょっ、地下!?


これは危険だ。逃げられない。

でもこの人は案外に力が強い。

ボクは
手を振り払うこともできないまま
階段を下る。







さて、ついたぞ

あ、ネリー。いらっしゃいっ!

女連れたぁ隅に置けないねぇ

馬鹿なこと言ってないで、いつもの2つ

ひゅーひゅー

ネリーって言うんだ


怪しい店だが
あんな明るい女給さんがいるなら……

いや、
それもカムフラージュかもしれない。
ボクは騙されない。

はい、お待ちどうさま!











これが……いつもの……?

あ、違った違った

はい!





いや、豆腐専門店とかあるし、これはこれでアリかもしれない

おい

冗談が通じないなぁ。
折角のデートをぶち壊してやろうと思ったのにぃ

でっ

ち・が・う。

はいよ、いつもの。
ごゆっくり~

丼?

アボカドネギトロ丼。
女はこういうのが好きなんだろ?

ついでに地下や2階だと、食ってるところが外から見られないから好評だって聞いたが

ま、食え。腹減ってんだろ?

そりゃあ、

ぐ~~~~

……いただきます

……


空きっ腹にネギトロ丼が響く。

あ、泣かせた~

お、おい

ねぇぇぇりぃぃぃいぃぃぃぃ~

うん……違うから……

美味しい

……

でしょでしょ?

って、それ、虹玉じゃない?


女給さんは
ボクが持っていた飴玉に目を向けた。

知ってる? その虹玉は虹綿飴を作るのに使うんだよ

虹、綿飴?

説明するより見たほうが早いよね。
ネリー、作ってあげたら?

ここで!?

いいじゃん。虹綿飴は見ても食べても幸せになれるんだもん

それなのにさぁ、面倒だからって作れる人がほとんどいなくなっちゃって

ね、いいよね!

う……


これは買ってきて、と頼まれたもの。
ここで別物に作り替えてしまっても
いいのだろうか。

と思いつつ、
そんな綿飴があるなら見てみたい。

あ、飴ならまた買えばいいし……

やった!

お前が喜んでどうするんだよ





そう言いながらも
飴を受け取ったネリーは

わあ!


目の前で綿飴を作ってくれた。

しかし
機械もなにも使わずに作るなんて……
本当に面倒なの?

これを作るための魔法の呪文が異様に長いのよねぇ






















どこかで時計が鳴った。

あ、やば! もうこんな時間じゃねーか!


ネリーが慌てたように席を立つ。

また来てね~

エッチなことされたらすぐに言うんだぞー

するかボケえ!!






ボクたちは店を後にした。




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