手を引きながら江岸が聞いてきた。
工藤くんってどこから来たの?
手を引きながら江岸が聞いてきた。
…菅木屋(スガキヤ)市
ボソボソと答えると、江岸は驚いた。
すっごい!都会だね。羨ましいな~
…………
独り言のように言う江岸を俺は冷たい目で見ていた。
でもね、あたしはここが好き
今度は俺が驚いた。
彼女は照れくさそうに下を向いている。
ここは空が綺麗だし、海も綺麗だし、住む人も優しいから。世界が狭いだけかもしれないけど、あたしは岸ノ巻に生まれて良かったと思ってるし、それに
江岸が俺を見て眩しく微笑む。
工藤くんにもこの町を気に入ってほしいな
本心の言葉だと分かる。
だから俺は逆に言葉が出なかった。
何かを好きだと、こんなに笑顔で話せるのが信じられなかった。
俺が黙っているのを感動していると思ったのか、江岸は一人でこの丘からの夕陽が綺麗だとか、もうすぐ岸ノ巻一番のお祭りがあるとか指折りながら話している。
…あのさ
ん?なに?何でも聞いて。スリーサイズ以外で
誰も興味ねぇよ
確かに、胸のあたりはなかなか膨らんでいるが…
道、間違ってない?
気づきそうにないので教えてやる。
予想通り、江岸はうろたえた。
……あ!!
…………
アホらしくなって江岸を置いて、来た道を引き返す。
待って、工藤くん!
江岸が急いで追ってくる。
それでもまだ笑顔の彼女を見て更に苛立ちが増す。
…勘違いしてない?
え?
つい、低い声が出てくる。
江岸が驚いて立ち止まる。
俺は振り向いて言い放つ。
住むところがないからこんな田舎に来たんだ。じゃなきゃこんな陳腐な所に来るか。
それに、俺はお前らと馴れ合うつもりなんて毛頭ない。
俺はお前と馴れ合うつもりはないし、他の奴も同様だ
江岸はショックを受けたようだ。
しばらく放心していたが、やがて目に涙を溜め始めた。
……っ
彼女は踵を返して走り去っていった。
これでいい、と自分に言い聞かせながら俺は地図を見ながら新しい住居へ向かった。