電車でうたた寝をしていた俺は急いで起きた。
横のスポーツバッグを担ぐ。
荷物はたったこれだけだ。
まもなく岸ノ巻です
電車でうたた寝をしていた俺は急いで起きた。
横のスポーツバッグを担ぐ。
荷物はたったこれだけだ。
お忘れ物をなさいませんよう、ご注意下さいませ
アナウンスを聞き流し、ドアの前に立つ。
俺以外に降りる客はいなかった。
改札口を出た俺の目に飛び込んできたのは、のどかな空だった。
改めて岸ノ巻市が絵に描いたような田舎であることを認識する。
俺は今日からこの町で生活することになるのだ。
空をから下に目を移すと、一人の少女がこちらを見ていた。
食い入るようにジーっと見つめた後、パッと笑顔になる。
感情の変化が激しい人だと思った。
俺が逃げる前に少女が歩み寄ってくる。
こんにちは。
もしかして、あなたが工藤柊作くん?
少女が聞いてきた。
明るく、まっすぐな声だ。
…そうだけど
俺の無愛想な返しに特に反応することもなく、少女は更にニッコリした。
あたし、江岸梨奈。
岸ノ巻北高校2年生。よろしくね
少女-江岸梨奈は大げさに自分を指差して自己紹介した。
屈託のないひまわりのような笑顔を見て、俺は彼女と仲良くは逆立ちしても無理だと思った。
…わざわざお出迎え?
俺が嫌そうに答えると、少女は小さく首を振った。
ううん、それもあるけど工藤くん岸ノ巻市初めてなんでしょ?
住むところまで案内しようかと思って
余計なお世話だと思ったが、敢えて口には出さなかった。
地図持ってるから…
案内しなくていい。
そう言うつもりだった。
なぜ言い切れなかったか。
簡単だ。
江岸が言い切る前に俺の手を引いて歩き始めたのだ。
え…ちょ……!
ぐずぐずしてると日が暮れちゃうよ!
早く早く~
こちらの都合を考えずにずかずかと行動する彼女。
俺はすぐにこいつと仲良くは何度生まれ変わっても無理だと思った。
元々誰かと関わる気なんてないしな……
俺の手を引いている少女は、一瞬暗い顔をしたことに気づかなかった。