前の席の三浦くん。

はじまり


梅雨も明け、半袖の制服姿の生徒が大半を占める教室内。

少し離れた窓の方を見ると、綺麗な青空が広がっている。

(いい天気だなあ。今日のお昼は屋上行こうかな)

教室内に視線を戻すと、手にした小さな紙を見て、誰もが感嘆の声、安堵の声をあげていた。

自らの手で引き当てた小さな紙に今後の高校生活を左右される。

3年A組では今まさに一大イベントが行われていた。

席替えだ。

(いい席当たりますように…)


私は自分の順番が回ってくると、席を立ち、教卓の上にある箱から一枚くじを引き席へ戻る。

途中、机の横で立ち話をしていた男子と思い切り肩がぶつかった。

あ、ごめん

わり〜、いたの?全然気がつかなかった

そう言うと、男子は悪びれる様子もなく会話に戻っていった。

(…よくある事だけどね)

私は印象が薄いらしい。

自分で言うのも何だけど、見た目も勉強も運動も中の中。いい意味でも悪い意味でも、何か目立つところというのがない。

周りにすっかり埋もれてしまっている。

例えるなら、物語の主人公の後ろに時々映る、名前のないモブ。それが私だ。

まあ、目立たないのは悪いことでもない。

変なトラブルに巻き込まれることもなく、変な人に目をつけられることもなく、何事もなく平和に毎日が過ぎていく。

かな、どこだった?


席に戻るなり、そう声をかけてきたのは、前の席に座る友達の愛理。

私は握りしめていた折りたたまれた小さな紙をゆっくり開く。

7番だって

私22番だったー。席だいぶ離れちゃったね

えー、残念…

あ、でもさ、7番って特等席じゃん。いいな!私、教卓の目の前だよ〜

黒板に書かれた席の割り当て表を見て愛理が言う。

男子よりも女子の人数が2名多いこのクラスでは、女子だけにこの特等席に座るチャンスが与えられる。

日当たりもいいし、窓を開ければ風が気持ちいい。何より先生からも遠い。うっかり寝てしまっても、目の前の壁…男子に隠れて気がつかれない。

男女一列ずつで並ぶ席順、その中の窓際の男子列の最後尾だ。

みんなくじ引き終わったな? はい、じゃあ全員移動して

先生の声に皆一斉に席を移動し始める。

(特等席なら、のんびり過ごせそう)


私はウキウキした足取りで新しい席へと向かった。

…が。

……


特等席の前に陣取る人物を見て、私は冷や汗をかいた。

(う、嘘)

……

黒髪の生徒たちの中で一際目立つ金色の髪。

睨まれたら身がすくんで動けなくなりそうな、三白眼。

机が小さく見える190センチ近くあるという噂の巨体は、ほどよく筋肉がついてひきしまっている。

この学校の生徒はもちろん先生も校長も誰も逆らえない、近くの高校の不良を1人でぶちのめした、中学生の頃高校生とケンカして病院送りにしたとか、大人の女と付き合ってるとか高校に入って10人目の彼女だとか、そんな噂を何度も耳にしたことがある。

特等席のオプションとして付いてきたのは、学年一悪い意味で目立つ男、三浦龍太郎だった。

私の平和な高校生活、終わったかもしれない…


特等席に浮かれていた私の心は一瞬にして打ち砕かれたのだった…。

前の席の三浦くん。はじまり

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