来栖 禅

ほほぉ…….
なるほど、やはりそうでしたか。

実は薄々、そうではないかと
思っていたのです……。

魚喃 アト

おい、どうしたんだよ?
ついに妄想の世界のお友達と、
仲良くお話しできるようにでもなったのか?

来栖 禅

ふふふっ、アトと一緒にしないでください。
私はただ、自分の前世を
調べていただけですよ。

魚喃 アト

へぇ、前世をね……って、
毎度毎度さり気なく
オレを変人扱いすんじゃねーよ!

それと、オレにくだらねーツッコミ役を
させるなっつーの!

来栖 禅

そう言いながらも、ノリ突っ込みに
益々磨きがかかってませんか?

魚喃 アト

う、うっせーよ! タコ助がっ!
それより……今日の謎はなんだよ!

来栖 禅

はい、本日お届けする謎は
『サイキック少年アラタ』です!

もし……物質に残された記憶が読めたら、
便利だと思いませんか?


第二十三夜『サイキック少年アラタ』

『レディ、貴女は先週……夫のジェームス氏を、
 このハンマーで撲殺しましたね?
 違いますか?』

『……ど、どうしてそれを?』

『分かるんです、断片的にですけどね……』

 僕にはサイコメトリー(英:Psychometry)と呼ばれる
 物体に残る人の残留思念を読み取る能力がある。

 その精度は決して高くはないが、
 この特殊な力を世の役に立てるため、
 僕はニューヨーク市警察(NYPD)殺人課の
 ブラス警部の助手となり、
 凶悪事件解決に力を注いでいる。

『見事だ、アラタ。だが……肝心の死体はどこだ?』

『残念ながら、このハンマーは
 それ以上のことは……喋ってくれませんでした。
 ですが、床と壁が……作業用ゴム長とデッキブラシ、
 それから、酸素系漂白剤と
 中性洗剤について話してくれました』

『ふむ、プロの処理屋を呼んだな。
 よし、他の捜査員に調べさせるとしよう……』

『きっと、すぐに見つかりますよ。
 じゃあ、次の現場に向かいましょうか?』

『ああ、すまないが頼む』

『いえ……お互い様ですから』

 僕が捜査に協力するのは、100%の善意じゃない。
 そう――5年前に連続殺人事件を起こして失踪した
 父さんを追うことが僕の目的だ。

『スティーブのことを……考えているのか?』

『……ええ、ちょっと』

 イングランド系アメリカ人の父さんは
 マフィアの一員で、
 組織の者から『ザ・シェフ』と呼ばれ
 一目置かれていた。

 しかし、警部と父さんは、
 兄弟のように深い絆で結ばれていた。

『なぁ、アラタ……次の仕事にかかる前に、
 腹ごしらえといかないか?
 ほら、日本のことわざでも言うだろう?
 腹が減っては、いい仕事はできないってな』

『少し違いますけど、だいたい正解ですね』

『なら決まりだ! ほら、そこにケバブの屋台があるぞ!
 そういや若い頃、スティーブのヤツが
 よく特製ケバブを作ってくれたもんだ。
 その時はまだ……ヤツがマフィアのドン専属の
 料理人だということは知らなかったがね』

『じゃあ、警部はゴッドファーザーと
 同じ料理を食べたってわけですね』

『ああ、スティーブの作るケバブしか
 食わなかったそうだ』

『へぇ、興味深い話ですね』

 僕は警部に笑いかけると、
 香ばしい匂いが漂うケバブの屋台へと向かった。

『ソースはチリで、玉ねぎは抜きだ。
 そうそう……肉はダブルで頼む』

『警部、またドクターに
 文句を言われますよ?』

 店主からケバブを受け取り、
 ボリュームたっぷりのケバブに
 かじりつこうとした瞬間――。

『ジェームスさんの居場所と……、
 父さんの行方が分かりました』

 ケバブを通じて、
 あるビジョンが脳内に浮かび上がった。

『はっはー! お喋りケバブは、
 情報通だったみたいだな!
 それで……ジェームス氏とスティーブはどこだ!?』

 ケバブを頬張る警部が笑顔を弾けさせる。
 僕は言葉に詰まった。


魚喃 アト

で……お前の前世は、
いったいなんだったんだ?

まさか、伯爵とか公爵じゃねぇだろうな?

来栖 禅

ふふっ、もっと素敵なものですよ。

魚喃 アト

おいおい、王様とか言うなよ?

来栖 禅

いえ、人ではなく風だったそうです。

そう……フランスはプロヴァンスの
草原を吹き抜ける高貴な風、
それが私だったのです。

魚喃 アト

……それ、どうやって分かったわけ?

来栖 禅

雑誌の最後についてる、
生年月日占いですよ。

知りませんか? プリンセス卑弥呼の
『レッツ 前世!』という、
人気コーナーなのですが……。

魚喃 アト

……知らねーよ。

来栖 禅

ちなみにですが……アトの前世は、
ただの罪人でしたよ。

貴方は、今も昔も変わらないんですね。

魚喃 アト

うっせーよ!
オレの華麗な仕事は、
プロヴァンスの風より高貴だっつーの!
このタコ助がっ!

第二十三夜「サイキック少年アラタ」

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