ビュオオオオオオオ!

甘粕

辛島さん、大丈夫?

辛島

甘粕くんの方こそ寒くない?

甘粕

僕は大丈夫……って言いたいけど、これは流石にヤバイかもしれない

 ここは簡易テントの中。

 学校のみんなと登山に来たのだけど、突然の大雪で僕ら二人だけはぐれてしまったのだ。

辛島

……なんだかさらに気温が下がってきた気がするね

甘粕

天気予報では快晴だったはずなのに、最近の天気は本当に予想がつか……な……

辛島

甘粕くん?

甘粕

……ッハ!

甘粕

 ご、ごめん。ちょっと眠くなってた

辛島

ダメだよ! この寒さの中で眠ったら二度と目を覚まさなくなっちゃう!

甘粕

……そ、そうだね。気をしっかり……持たない……と

辛島

甘粕くん!

甘粕

……辛島……さん……ごめん……3分だけ仮眠を……

辛島

……こうなったら最後の手段を取るしかないようね

……ゴソゴソ。衣擦れのような音が聞こえた。

甘粕

か、辛島さん!? な、なにを!?

辛島

上着を脱いでいるのよ。さあ、甘粕くんも一緒に!

甘粕

ダ、ダメだよ。だ、だだだって、そんなことしたら余計に寒くなっちゃうじゃないか

辛島

このままでは確実に体温を奪われてしまう。生き残るためには温め合わないといけない!

甘粕

あ、あたため、あう?

甘粕

……ゴクリ

辛島

外の気温は下がっていくばかり。内側から熱を保つ必要があるの

甘粕

た、確かに寒いよ。だけど、そ、そういうのは僕らにはまだ……その……早いんじゃないかな?

甘粕

そ、それに、もう少ししたら救助の人が来てくれるかもしれない

辛島

天気はどんどん悪くなっているんだよ?

甘粕

うっ!? そ、それは……

辛島

現実を直視して。このまま死にたいの?

甘粕

そ、そんなわけじゃ……

辛島

わたしは死にたくない。甘粕くんにもまだ死んでもらいたくない。だってわたしたち、まだまだやり残したことがたくさんあるんだよ?

甘粕

……辛島さん

甘粕

わかった。ともに生きよう!

僕は意を決して上着を脱いだ。

辛島さんはインナーの襟元を緩めている。

そして僕らはお互いに体を寄せあい――

辛島

はい、甘粕くんの分だよ

辛島さんが差し出してきたのは、大量の真っ赤なトウガラシだった。

甘粕

……は?

辛島

どうかしたの?

甘粕

……これを、どうするんだろうか?

辛島

こうするんだよ

辛島さんは緩めた襟元からトウガラシを服の中に詰め込んでいった。

甘粕

……辛島さん。もしかして寒さでどうかしちゃった?

辛島

正常だよ。トウガラシはカイロのように体を温める作用があるの。昔おばあちゃんが言ってたから間違いない!

甘粕

トウガラシをいつも携帯してるの?

辛島

いざという時のためにね。食用にもなるし、殺菌や消毒にも使える。トウガラシは万能なんだよ

辛島

ちょっとピリピリするかもしれないけど、生きるためだから我慢してね

甘粕

……あ、ハイ

甘粕

こんな状況下だし、少なくとも僕を困らせるためにやってるわけではないみたいだな

僕は辛島さんに倣って服の中にトウガラシを入れていった。すると……

甘粕

うッ!?

ホワワ~ン

甘粕

サッファーフ! す、凄い! 肌がピリピリするけど、本当に暖かくなってきた!

辛島

先人の知恵ってやつだね

ほどなくして雪が止み始めた。

テントの外へ出ると、辺りは清々しいほどに晴れ渡っていた。

中橋

おーい。無事かー

麓の方から一緒に登山に来たクラスメイトや先生がやってくるのが見えた。

辛島

やったね! 助かったんだね、わたしたち!

甘粕

うん。トウガラシのおかげだね

辛島

……クスッ

甘粕

え? 今、どうして笑ったの?

辛島

甘粕くん、わたしが上着を脱ごうとした時、何か勘違いしてなかった?

辛島

まさか気づかれてないと思ってた? いったいどんな想像をしてたのかなあ?

甘粕

えっ!? い、いや、そんな。……あっ、みんな来たよ!

辛島

ニヤニヤ

甘粕

せっかく助かったってのに、辛島さんって人は!

トウガラシの効果のせいか、体はやけに火照ったままだった。

おわり

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