由貴は幼き日、テレビで猿を見ていた。
猿は動物園で暮らしており、呑気にバナナを食べていた。
由貴は幼き日、テレビで猿を見ていた。
猿は動物園で暮らしており、呑気にバナナを食べていた。
お母さん。おさるさんは何でバナナを食べるの?
由貴がお母さんに問いかけると、お母さんはうふふ、と笑いながら答える。
それはね、おさるさんは黄色が好きだからだよ。黄色が好きだから、バナナが好きなんだ
そうなんだ! じゃあおさるさんはレモンも食べるのかなあ?
もしかしたら、そうかもしれないわね~
この時、由貴はお母さんの言葉を信じきっていた。
年も経ち、中学三年生になった頃。
由貴はこの事を思い出していた。
今になって思えば、母はあの時、相当適当なことを言っていたな、と由貴は思う。
子供の頃の由貴は猿が本当にレモンを食べるものだと思い、猿の絵にレモンを添えたりしていた。
そのせいで、小学二年時の担任の先生から、
おさるさんが食べるのはバナナだよ
と笑われた。
それでもなお、由貴は信じきっていて、
知らないのー? 先生。おさるさんは黄色のものが、大好きなんだよ!
と、自信満々に答えていた。
それが間違いだと知ったのは、小学四年生の時だ。
猿がレモンを食べているという情報がどこにも無い事に気付いたのだ。
由貴は改めて、お母さんに聞いてみたら、
え? ああ、そんなこと言ったわね。
あんまり由貴が可愛いから、冗談を言っちゃった
と、軽く言われた。
お母さんのバカーーーー!
由貴はその後、五日間くらい、お母さんに対して怒っていた。
お母さんは冗談が好きだった。
適当なことを言ってうふふと笑う。
そんなお母さんを由貴は、家族は愛していた。
お母さんが死んで、もう二ヶ月もたったんだね
由貴はお母さんのお墓の前で、そう呟いた。
由貴と姉の亜希、そしてお父さんの実は合掌して、祈りを捧げていた。
由貴のお母さんは二ヶ月前、一年の闘病の末、息を引き取ったのだ。由貴と亜希と実は涙を流し、悲しんだ。
由貴はお母さんとの思い出を思い返していた。
お母さんと買い物に行った。
家族で旅行に行った。
お母さんと喧嘩した。
猿は黄色い物が、好き。
お母さん。
猿はレモンを食べるんだったね。
猿の好きな色は黄色だったよね
由貴は墓の前で呟く。すると、つい、目頭が熱くなった。そして、再び泣いた。
ふいに涼しい風が由貴達の間を通過してゆく。
由貴はお母さんに背中を押された気がした。
この先、由貴は母と共に生きることはない。
しかし、由貴の、由貴達の中には今も
冗談を言って皆を笑顔にさせる母は生き続けていく。
~end~