リチャードは政府高官の写真を渡した。
「やられた…」
「どうかしたの、ウォルター」
「宇宙軍の慰問団の入団試験…」
「受けたよ、あそこ、給料いいし。株とか先物取引とかやるよりいいし」
「受かってますよ」
「うそっ、あそこ、よほどのことじゃ…あ」
「そういうことですね」
「で、ああ、来ている、通知、慰問団の護衛官としてウォルターにも就職案内」
「流石としか言いようかない…出かけてきます」
「俺も行く、どうせ、リースさんとこだろ」
「はい」
「その立案者なら殿下だよ、二人共ほしいって言ってたから」
「それで、総裁殿に面会は」
「今、治療中、やっと生身の肺と心臓に戻せるところだから」
「生身」
「今まで機械だったの、培養か終わって移植手術中。一週間くらいはカプセル入かな」
「そうでしたね、脳さえ無事なら生命維持は図れる」
「不満、不服かな、やっぱり」
「二度と殺伐とした世界にギルバート様を置きたくないだけです」
「それは心配ないよ、慰問団は前線に出るにはいろんな許可がいるので、戦場に赴くことはまずない。ただの芸術家の集まりで…」
「本当ですか」
「アカデミーの方で手が回らないアーティストを殿下とトマス殿がポケットマネーで雇っているのが、宇宙軍の慰問団だから」
「ポケットマネー…」
「ちょっと手広げすぎて予算が下りることになったらしいけど」
「ちょっと、ですか」
「トマス殿、殿下の副官ね、あの御方の趣味、音楽観賞なの。殿下は絵画彫刻とかそちらの方に興味あるらしいし」
「音楽…」
「聖歌隊の歴史を調べると必ず名前出てくる人だけど…知らなかったの」
「11代目のウォリック伯爵…」
「あ。市民合唱団の」
「そう、嫌なら断ってもなにも起こらないけど」
「宇宙軍慰問団の合唱団って狭き門って知っていたの、リースさんは」
「テストはきついって聞いてるよ」
「かなりエリートの合唱団だもの、俺、入りたい」
「なら、私は何も言うことはありません」
「よろしく。僕は予備役で、殿下が復帰したら解任だけどね」
「地上指揮官は別にいる・・・」
「彼なら、旗艦艦隊にいるよ、もうすぐ戻ってくる」
「ただ…あの暗殺未遂犯については…どうなのですか」
「決定してないんだね」
「決定してから連絡しますから、慰問団の件はその後で。それまで自宅待機してください。護衛は手配してありますから」
「わかりました、仕方ありません」
「殿下は黒幕の政府高官、できれば」
「何ですか」
「消して欲しいらしいけど…情報部がやるかな」
「病死にみせかけるおつもりですか」
「できればね、フィッツジェラルドのような真似はしたくないし、今回は内密にことを済ませたい」
「いいでしょう、ギルバート様をしばらく預かってください。私がやります」
「汚れ仕事を第一号にする必要は」
「いえ、私なりの決着です。私が守るべき御方に怪我をさせたのですからその代償は払っていただきますよ」
「引く気はないと」
「もちろん」
「では、お願いします」
リチャードは政府高官の写真を渡した。
「一週間以内にカタつけてきます。それまでは」
「ウォルター」
「すこいガードだね、無理だよ、君を殴った暗殺者の元締めだもの」
「でも」
「彼一人片付ければすむ、家族に類が及ばないようにするには最善の策」
「妻帯者なの、リースさん」
「妻子がいるんですよ、テロリストと判明すれば余計な疑いかけられて不自由な思いを家族がします」
「そう…」
「あなたも名家の出身ならわかってらっしやるはずです、ギルバートさん」
「はい」
「ウォルターさんはあなたを守れなかったと思ってるんです」
「え」
「そのストレスは発散していただかないと」
「国王って食えませんね」
「うふ、シェークスピアの期待には沿わなくっちゃねー」
「それ、言ったらお兄さん悲しむんじゃないの」
「そうだけどね」
「結構どころかなかなか腹黒い…」