そこは、ある日の酒場。両親に店番を任された少年、パウルは、退屈な時を過ごしていた。……ある男が入ってくるまでは。
そこは、ある日の酒場。両親に店番を任された少年、パウルは、退屈な時を過ごしていた。……ある男が入ってくるまでは。
おぉ、賑わっているようじゃのぉ。
辺りをうかがうように入ってきたのは、顔を隠すように深くローブを被った者。声からして男だとわかる。
……妙な男だ。
どこかぎこちない動き、飄々とした喋り。ローブで服装はうかがえないが、腰には実践用らしき剣がある。
すいません、お客さん。一度フードを取ってもらっても?
「最近物騒なもんでね」と言い加え、男のほうを見る。
男は特にためらいも見せず、ローブを脱いだ。
そこまでしなくても……と言いかけ、口をつぐむ。それは、男の容姿に原因はあった。
あー、すまなかったのぉ……。なにぶん、この体の傷は治せぬ上目立つからのぉ……ん? なんじゃ小童。じろじろと見て。
あっ! いえ、何でもありません!
男の体には、いたるところに生傷が見えた。本人は気にしていないようだが……。
――いや、彼にとっては当たり前なのかもしれない。これくらいで驚いては両親に怒られてしまう。
そう考え、普段と変わらぬことを意識してパウルは『客』の方を向いた。
まあ、これぐらい慣れっこじゃ。さて、久しぶりに飲むとするかのぉ……酒を、これで。
……?
ん? たしか大衆酒場の酒はこれくらいで少々上物にしたはずじゃが?
おっさん。
おっさんじゃない、オルドヌングじゃ。
……オルドヌングさん。これ……いつの時代の金?
えーっと……五百年ぐらい前だったかのぉ?
はぁっ!? そんなの使える使えない以前に、こんな酒場で使うなよ! 資料館に持っていったほうが高く引き取ってくれるだろ! そもそもなんでもっているんだよ。
えー、でもこれしか持っておらぬしー。一杯でいいんじゃぞ? わしは困らないし!
俺が困るわっ!
あっはっは、こまったわっぱじゃのぉ。
驚くことしかできないパウル、それを無表情ながらに楽しむオルドヌング。何事かと客は集まり、どんどんどんどん混乱の渦が広がる。
あー、もー、面倒くさいのぉ。つまり、今の金を手に入れればいいんじゃろ? よぉし、ならば吟遊詩人のように稼いでみせよう。
そう言うと、椅子を引っ張ってどかりと座り、子供に聞かせる夜語のように語り始めた……。
――さあ、劇の幕をあげようか