水島 愛理

ん………

水島 愛理

ここ……知ってる

知ってるのも当然だろう。
ここは、私が何年も通ってる病院の個室だ。

今年から、私が入院してる部屋。
この部屋の中が、私の日常になった。

水島 愛理

うっ………!

同時に、忘れかけていた頭痛が動き始める。

意識が揺らぎそうな激痛の中で、私は必死に耐える。


ベッドの傍のボタンを強く握る。

数分経てば誰か来てくれるだろう。
頭を抱えながら、ゆっくり呼吸を落ち着かせようとする。

水島 愛理

夢の中では痛くなかったのに……

膨張する痛みが、逆に今が現実だと教えてくれる。

所詮、夢は夢なのだ。
どうやっても、私は病気から逃げられない。

病気と向き合うことこそが、私の日常だった。

宇居 和隆

やぁ、愛理さん。気分はどう?

水島 愛理

宇居先生?どうして……?

宇居 和隆

所用があってナースセンターにいたんだ。帰る直前に君の部屋からナースコールがあったから、来てみたんだ

宇居和隆先生。

私が初めて手術をした時からお世話になっている先生だ。

宇居 和隆

まる1日寝ていたけど、体はどう?

水島 愛理

ダルイのと……あとは頭痛が

水島 愛理

………まる1日?

宇居 和隆

体には何の異常もなかったし、昨日から薬を替えたから、副作用が強いからだと思ったけど。ともかく、目が覚めてよかったよ

水島 愛理

あの先生、まる1日寝てたって……

宇居 和隆

まぁ寝てたから記憶もないよね。昨日の夜からずっと眠っていたんだよ、愛理さん

水島 愛理

やっぱり………

宇居 和隆

何がやっぱりなんだい?

水島 愛理

……先生、私変な夢を見たんです

私は先生に全部話した。
気づいたら知らないところにいたこと。
知らない人の家の前にいて、その人についていったこと。
私の存在が認識されていなかったこと。

全部話した。

宇居 和隆

……その現象は、前に起こったことは?

水島 愛理

いいえ。全くありません

宇居 和隆

僕も初めて聞いた現象だ。睡眠が深すぎて夢の中で他の人の日常を疑似体験したのか?けど、話を聞いた限りだと時間は綺麗にシンクロしているようだし………

水島 愛理

あの、先生

宇居 和隆

ああ、ごめんね。何だい?

水島 愛理

アルバイトって大変なの?

宇居 和隆

……え?

水島 愛理

さっき言った笛吹くんがコンビニで大変そうに働いてたんです。学生なのに。時々笑いながら真面目に働いてるところはすごいと思ったけど、やっぱり大変そうだなって

宇居 和隆

……そうだね。なにせお金を稼がないといけないから、大変でも働かないと。生活もできなくなっちゃうし

水島 愛理

そうなんですね……

宇居 和隆

……楽しそうだね

水島 愛理

楽しそうでしたから♪

宇居 和隆

起きたばかりだと思うけど、横になった方がいい。また頭痛がひどくなるよ

水島 愛理

はい

宇居 和隆

起きれそうだったら朝に診察に来るよ。じゃあ、お休み

水島 愛理

おやすみなさい

水島 愛理

…………っ

頭痛。

それが、数年前からの私の日常。


脳に腫瘍がみつかり、通院から入院へ切り替わっても、この頭痛はずっと止まらない。

常に一定に私の頭の中を同じ力で叩くのではなく、痛みが和らいだと思った次の瞬間には強烈な痛みがやってくる。

人の睡眠のように、浅い痛みと強い痛みが交互に来る。
壊れてしまうくらい痛くて、起きるのが怖かったこともある。

けど――――

水島 愛理

笛吹くん……か

今日の夢は特別だった。

痛みが起こらない世界で、彼の――普通の人間の――生活を感じることができて。

とっても楽しかった。


夢の中では、私は誰にも触れないし、見られないけど、それさえ差し引けば理想の日常のようだった。


どうか、またあの夢を見られますように――――

そう願いを込めて、私はもう一度目を閉じた。

pagetop