カンタベリーでのコンサートは大聖堂の近くで行われていた。昔から続く大聖堂直属の聖歌隊のコンサートだった。総裁は休暇を取ってそれを鑑賞していた。警備が甘かった、そう結論付けられる事件が起きた。消音処理された銃声は誰の耳にも届かなかった。が、聖歌隊の少年が総裁に向けた銃口を僅かにずらした。結果、彼は暗殺者に殴り飛ばされたが、それが総裁の命を救ったことになった。血に染まる胸元、即座に失った意識。緊急事態に動いたドクターカー。トマスは暗殺者を冷静に射撃していた。

トマス

「殿下…」

リチャード・リース

「脳は無事ですから」

リチャード・リースの言葉にはっとする。

リチャード・リース

「ドクターカーで治療受けてます。レイモンがいてよかった」

トマス

「三世陛下…」

リチャード・リース

「レイモンなら肺動脈損傷の重症でも助けられます」

トマス

「でも、あの怪我では」

リチャード・リース

「この世界では脳さえ無事なら命は助かります。危ないところでしたけれど、お忘れですか」

トマス

「そうだった…」

リチャード・リース

「ドクターカーに行ってください。この場はカンタベリー聖堂の関係者が何とか致します。予備役兵士もここにはいますから」

トマス

「わかりました、ところで…殿下をかばった従卒は」

リチャード・リース

「フランシーの、ですね、残念ですが亡くなりました」

トマス

「そうですか…」

リチャード・リース

「フランシーには僕から告げます」

トマス

「お願いします」

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