僕達を乗せたタクシーは1時間程走り成田空港に到着した。

僕はいきなりの展開に全く呆然としてしまい、考えがますます纏まらなくなっていた。

 まあはなさんから、ここの生徒会活動はこういうの日常茶飯事だからって言ってたからな。

 もちろん、急な出発の為着換えなども持ってきていないため空港に到着すると、はなさんの事も考えて空港内で身の回りの物を必要なものだけ購入する事になった。

はあ~この前来たばかりなのに何故またここにいるんだろう?あれ?あれは清水君、ああ!

清水君はハワイのお土産買い忘れショップで何かごそごそしている、まさか。

ゲス海言っとくけど、2次活動費でお前のアロハ代は出さないからな、そこんとこ理解しておけよ!

えええ!

えええ!じゃない!馬鹿じゃないの?あんたには怜奈が買ったグラデーションがあるでしょう!

グスン

 ああ、泣いちゃった。泣くな嘘つき師匠、この位でって言うかお前が悪いヨ!

 13時間後、飛行機はラスベガス国際空港に到着した。

 空港の到着ロビーでは大画面のテレビモニターで天気予報が忙しくまくし立てるように放送されていた。

 なんだろうこの天気予報?恐らく今日の最高温度とか言ってるんだろうけど110度だってお湯が沸いちゃうね。

それにしても、あああ、飛行機で寝れないから、なんか体が重いなあ

こうくんそれひょっとして時差ぼけかもね、大丈夫?

ありがとうはなさん、まあ何とかなるよ、それにしても清水君結局アロハなんだけど、いつの間に着替えたんだか

自腹で買ったそうだよ、真の馬鹿だよねあきれを通り越して関心だよ

そう、なんだ。一体ここで永田先輩の何が分るの、僕達はこれからどうするの?

これからベガス市内のある場所に向かう、説明しなくてもそこで全て分る

 僕達はタクシーに乗り、ラスベガスのダウンタウンに向かった。

 現地に到着すると、何か催しものが行なわれる感じで、垂れ幕やバルーンが立ち上っていた。

 しばらくすると、マイクで誰かがしゃべりだし、パレードのようなものが始まった。

あっ

僕はその言葉の後が続かなかった

大勢の人数の人人人、その全員が派手なコスチュームの様な衣装に身を包み誇らしげに、躍動感あふれるダンスをしながら行進している、踊っている人達の表情は自信に満ち、心から嬉しさをからだ全体であらわしていた、本当の自分らしさを出して輝いているように思えた。

そしてその踊っている人達がどういった人達が直ぐに理解できた。

清水君、ひょっとしてこれは

そう、彼らはLGBTの人達だ、今日はこのベガスその人達のパレードが催される日なんだよ

じゃあまさか永田先輩もあの中にいるの?

 しばらく僕達は何人ものゲイや、レズビアン、バイセクシャルの人達が通り過ぎるのを見ていた。その時目の前を通った女の子と目があった、黒いドレスを着て1メートルくらい長いつばがついた
帽子を被っていた。でも不思議とその顔つきは見覚えがあった。僕は思わず声が出てしまった

あのう、すいません

えっ?日本人がどうしてここにあれ?お前は確か前ショッピングセンターで会った

永田先輩、ご家族と田沢先輩が心配してますよ

そうか清水と田中もいるってことは生徒会2次活動か、このパレードが終わるまで待ってくれないか、後で全部話す

分りました

その後、永田先輩とホテルのロビーで落ち合う事になった。

 待っている間、僕は疑問がいくつかあったので、清水君に聞いてみた

清水君

なんだい

田沢先輩がどうして、そのなんと言ったらいいか分らないけど、ここにいるって分ったの?

パズルだよ

パズル?ああ部屋に未完成のパズルがあったね

パズルは一部完成されて無かった、まるでそこだけわざと空けてあるかのように、そして未完成のパズルのピースを頭の中で浮かべたらある画像が浮かんだんだよ

何の?

レインボーだった、それで全て分ったんだ、彼の他人には言えない心の葛藤を、そして信じるものを

そうなんだ、でも清水君、永田先輩がそうだとして、どうしてこのラスベガスのパレードにいるって分ったんだよ

俺の頭の中にはlgbtの催し物のスケジュールは全て頭に入っているからね、それと彼の父親の会社永田電装はこの近くに米国支社があるからね、ひょっとしたらと思って

そうなんだ

 凄いなと思った。こんなわずかなヒントを頼りに僕にはとても適わないとと思った、そんな事を思っているとき永田先輩がロビーに現れた。

 先輩はTシャツにジーンズ姿だったがうっすらとメイクをしていた。

 あのショッピングセンターで見せた狂った獣のような目ではなく、本当の自分を見つめている信念に満ちた目と表情だった、

同時に女性らしさを出したやわらかさがその表情にはあった。永田先輩ってこんなに小柄だったけ?

待たせたね、ごめんね

こちらこそすいません先輩、驚かせてしまって

もうここまで見られたから今更言い訳とかはしないよ

清水君はそれに応えるように切り出した。

そうですか、じゃあはっきり言います、先輩、子供の頃から仲が良かった田沢先輩がバイクの運転が荒くなって、最近も転倒して大怪我をしました、言いづらい事なんですけど、先輩、田沢先輩はあなたの事が心配でそのどうにもならない苦しい気持ちを紛らわす為に暴走を繰り返しています、このままでは田沢先輩に良くないことが起きます、永田先輩、あなただけなんです田沢先輩を止めることができるのは

そうか、私がいろんな人を傷つけてしまったんだね、うう

その後永田先輩は全てをゆっくりと話し出した。

私と田沢竜也は小さい頃からいつも一緒だった、竜也の実家は自動車の製造会社、ウチの実家は田沢の会社にパーツをおろしているパーツ製造会社、言ってみれば田沢の会社の下請け企業なんだ、だけどそんなの関係なく仲良くしてもらったんだ、でも私は中学2年になった時自分自身に気付いてしまったんだ、私は田沢君の事を男だけど心は女性として、異性として好きなんだって、でもそんな事言えるわけが無いそれに自分の会社の事もある、だから必死にこの感情を押し殺して、彼からなるべく遠ざかるようにした

田沢先輩が言ってたんですが、永田先輩が誰かに告白して振られたって言ってましたが

そう、竜也から遠ざかって何か頼るものが欲しかった私は、クラスメートに誘われて高等部に入り野球に打ち込んだ、ウチの野球部はやる気が無い奴ばかりだったけど、私はただがむしゃらに練習をした、その練習にいつも熱心に付き合ってくれたのが

兵頭先輩だったと言うことですね


田沢先輩がためらっているのをはなさんが優しく続けた。

優しくいつも練習に付き合ってくれた、だから必死に練習したのに、なのに兵頭は筋肉増強剤を使っていたんだ、僕は必死に止めてくれと頼んだのに、言うことを聞いてくれず口論になった。その時言葉の弾みで僕は兵頭に好きな人が違反薬物で野球ができなくなるのは嫌だと言ってしまったんだ、

そうか、そんな事があったんですね

その後だよ兵頭と他の部員が僕を仲間はずれにしたのは、野球を辞めた後、竜也がいろいろ言って慰めてくれたり、励ましてくれたこともあったけど、だけど私は寂しくて薬の過剰摂取をしてしまったんだ、親友の言葉も聞けないなんて最低だよね、きっと竜也にも嫌われてしまったんだ

 その後永田先輩は泣き出してしまい声にならなかった。

 しかし何故かその時はなさんも泣き出してしまった。

どうしたのはなさん

私、謝らなきゃ、ごめんなさい永田先輩!LINEで私田沢先輩を傷つけてしまった、女の子の気持ちを考えたほうがいいよだなんて言ってしまって、私が先輩の気持ち全然分って無かった!それと今まで清水の事同性愛みたいな噂広めてごめん、そんな真剣に考えもせず、同性愛の人とかの事きっと心のどこかで差別していたんだと思う、ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんな、さい

永田先輩、恐らく田沢先輩は先輩の事今でも親友だと思っていますよ、逆に田沢先輩は自分が永田先輩の事を傷つけたと思っています。そして相手を思うからこそ、どうにもならない気持ちがあるからこそ、田沢先輩も暴走を繰り返していたんだと思います。

そうかな

僕思うんですよね、親友って唯一本音で言い合える相手なのかなと、だから一度何時間掛かってもいいから話してみてください、昔の事を取り戻す為に

そうだね、分った自信無いけどやってみるよ、あと田中もう泣かないでくれよ、お前の気持ちは充分わかったからさ

ありがとうございます、何か私で出来る事があれば何でも言ってください、力になります

ありがとうな

 結局永田先輩は苛めに耐えられなくなり、野球を辞め自暴自棄になりオーバードースを繰り返すようになったのが真相だった。帰りの飛行機の中で僕は清水君に言った

清水君、兵頭先輩のやった事どうするつもりだい?

生徒会2次活動として落とし前をつけるよ、今回の件は絶対許せない

そうだね、でもまさか、兵頭先輩が禁止されている筋肉増強剤を使っていたなんて知らなかったよ

俺も野球部には試合の時にしか出ていなかったからな、練習には一度も出なかったから分らなかった。それにしても告発しようとした永田先輩を他の部員を脅して仲間はずれにして、苛めたあげくに辞めさせたのは絶対に許せない

そうだね、僕も兵頭先輩は許せない、何らかの形で責任はとって欲しいと思うよ、ところで清水君、今日はなさんの言ってた事だけど、許してやってくれるよね

えっ?あああれか、まあ田中も軽率なところはあったけど、悪気があったわけじゃないし、永田先輩も最終的には分ってくれたからな

さっきはなさんが言ってたけど、永田先輩みたいに苦しんでいる人達に何か生徒会として、してあげられることは無いかな?

そうだな、真剣に考えないとな

数日後、野球部の補充選手として一時入部した清水君の様子を見に僕とはなさんはグランドの練習場に行った。

 野球部の部室の前に行くと、清水が練習の為にグランドへ出て来た。
 しかし、兵頭先輩がいつまで経っても出てこないので、清水は投球練習をできないでいた。

だけど、清水は落とし前をつけると言ってたけど、どうするつもりだろう、あの後俺がプランがあるとか言ってたけど

あっ出てきた、兵頭先輩だよ、あれ何か様子がおかしいね、どうしたんだろう?

兵頭先輩は顔を真っ赤にして怒っていた、何回も連続でクシャミをしながら、鼻水を垂れ流しながらというほうが正しいのかも知れない。

誰だ!俺のプロテインにタバスコなんか入れやがったのは!

俺ですよ、先輩、健康なスポーツマンシップに習うなら、不健康で禁止されている筋肉増強剤なんかに頼るより、俺のタバスコ、ワサビ、からしミックスジュースでも摂ったほうが健康に良いと気遣ったんですがね、お口に合いませんでした?

テヘぺろって顔して清水がおどけている。うわ~初めて見た清水君のテへペロ顔、にっ……似合わない、清水さんあなたのその顔、すべるジョークと同じくらい
合いませんから、その顔もう二度と絶対しないでね。

はなさんも、すっごいドン引きなんてモンじゃないくらい、顔が引きつっている。ムンクの叫び的な表情なんていったら怒るから言わないけどね。

お前!何言ってるんだ!俺はそんなもの使ってないぞ、何を根拠にそんな事言ってるんだ!

へえ、実は先輩の飲み残しのドリンク、既に学校を通じて検査機関に送ってあるんですがね、そのデータがここにありますが、その件についてはどう説明します?

 兵頭先輩は顔を今度は蒼白にして何も言えなくなっていた。

おまけに陰湿ないじめで永田先輩だけじゃなく他にも何人か辞めさせたそうですね?

俺の親父は理事だ!政治家にもコネがあるぞ、お前らこの事は忘れないからな!

今回のことは全て笹村先生を通して理事長に報告させて頂きましたこの事は全て高野連に報告するそうです、先輩あなたはもう終わりだ

うるさい!黙れ!

理事長代理及び、生徒会会長、風紀委員長として伝達します、兵頭 匠さん、あなたは無期停学となります、正式な処分は後ほど校長から伝達あります、それまでは自宅待機!以上です!

くそおおおおおおおおおお!!!!

膝をがっくりと地面につく兵頭先輩の姿を秋の夕日が皮肉なくらい綺麗に照らし出した。

兵頭先輩が悪態をつきながら立ち去った後、清水君は何事も無かったかのように野球部の他の部員と練習をしていた。その表情は冷徹そのものだった。

強いなあ

はなさんは、家のバイトがあるから先に帰ったあと、僕は校門で清水君を待っていた。

よっわざわざ待っててくれたのかい、悪いね

今日は本当にびっくりしたよ、相変わらず清水君のやりかたは、そのなんと言うか、凄いよね

あの位やらないと、永田先輩や他の辞めさせられた部員達の恨みは晴らせないのかなと思ってね、ところで何か話したいことがあるって顔しているけど?

さすが、鋭いね、あのさあ実は田沢先輩と話しているとき彼の表情で気になる事があったんだけど

何を感じたんだい?

なんか上手く言えないんだけど、その、なんと言ったらいいか田沢先輩が永田先輩の事を話している時の表情が、強い同情みたいなのを現していたんだよね、何か幼馴染とかとは全く別の感情っていうか、それが良く分らなくて

そうか、やっぱり松君には分るんだね、そう俺も数日前分ったことなんだけど田沢先輩もLGBT、でも永田先輩とは少し違って男性として、同性を想いたい人なんだ

そうか、そうだったんだねお互いの悩みは共通だったんだね、田沢先輩も永田先輩の辛さを良く分るからこそ、その想いに応えられない自分に憤りを感じてバイクで暴走をしていたわけか。でも先輩達は幼馴染であり親友だから元通りになって欲しいな、だって親友は大切なものだから

そうだね

 
 兵頭先輩は数日後高校を自主退学し、アメリカの独立リーグに入ることになった。兵頭先輩の父親である理事は今回の一件の責任を取る形で辞任という形で学校去った。

 あれから永田先輩と田沢先輩はとことん話し合い二人の友情にはやはり誤解があったけど変わりが無いことが分ったみたいで、以前のように親友としての関係
に戻っていた。

 生徒会は文化祭の生徒会としての催し物にlgbtを考える催しをする事になったので、二人に協力してもらうことになった。
 そして清水君は野球部でキャッチャーとして永田先輩の球を受けることになった。田沢君もバイクで暴走することは無くなった。


 
 

第27話 ラスベガスでのパレード

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