温泉から南に4歩だったな。探すぞ

 サクラさんがサッパリとした顔で言った。

 だけど、私と小夜は口をとがらせた。

 もちろんあの姉妹のことである。


なんか嫌な感じだよ

ほんとそう

 私と小夜は、しばらくブツブツと言っていた。

 するとサクラさんは、大きくため息をついて、それからこう言った。


気持ちを切り替えろ。リソースの無駄だ

えっ

でも

貴様らは何も悪いことをしていない。精一杯この世界を生きている。が、そんな貴様らを見て、不当な評価をする者がいた。それだけのことだ

…………

一生懸命やっている者を見て、腹を立てるヤツ。楽しんでいる者を見て、嫉妬するヤツ。人の成功が許せないヤツ。そんな頭のいかれたヤツは、世の中に腐るほどいる。私は警察官だからそんな連中をいっぱい見てきた。貴様らは、そんなクズにたまたま出会っただけだ

…………

早く忘れろ。時間がもったいない

 サクラさんはそう言って、私と小夜の胸をワシッともんだ。

はうぅ

んふぅ

 まさにゴッドハンド。

 私と小夜は、くやしそうな目でサクラさんを見た。

 サクラさんはニヤリと笑った。


さて。南に4歩というと、このへんだな

うん

もしそれらしい目印がなかったら、全面掘り返そうと思っていたが、しかし、その必要は、どうやらなさそうだ

え?

すでに掘り返した跡がある

ほんとだ

しかも新しいぞ

 サクラさんは、しゃがみこみ、土をつまんでそう言った。

 それからシャベルで掘り始めた。

 私と小夜は手伝った。

 しばらくの後、私たちはそこらへん一帯を掘りつくしていた。



何もなかったな

うん

あの、もしかしたら

ああ

 サクラさんは、眉をしぼった。

 そのまましばらく考えていたが、やがて大きく息を吐いた。

 そうやって気持ちをリセットすると、サクラさんは言った。


とりあえず駐屯地に行こうか

えっ、うん

ここにいても、しかたあるまい

 私と小夜は、サクラさんを連れて駐屯地に戻った。――




 駐屯地に戻った。

 私たちはゲートを開けるために、ジープを一旦停車させた。

 そのとき、警報がけたたましく鳴り響いた。

 こんなことは初めてだ。

 というより、こんな警報があるなんて知らなかった。

 私と小夜は顔を見合わせた。

 しばらくすると、いつきと、それからなんと、さっきの2人組がやってきた。


いつき?

あっ、あのね、智子

ああ、また会いましたね、立花智子さん

………………

あっ、あの

駐屯地のフェンスには、侵入探知のセンサーが張り巡らされています。ブレイカーが落ちていただけだったので、復旧しておきました

はあ、どうも

それと痴女が1匹残ってました。もちろん倒しておきましたけど

あっ、ありがとうございます

ちなみに、お昼に私たちとすれ違ったの気付いてました? あなたたちがジープで国道に向かったときのことですが

えっ?

実は、数日前から駐屯地の周りを調べていました……。その様子じゃあ、それも気付いてなさそうですね

はあ……

 まったく気付いていなかった。

 というか、この人たちって、お風呂以外も全裸なんだ。

 私は責められているのにも関わらず、そのことが気になってしかたがなかった。


私たちは、この姿でコシノクニまで来ました。これなら痴女に襲われることはありませんし、それに悪意ある人間に対しても安全だと判断したからです

痴女と間違われたほうが安全……ですか

悪意ある人間には有効です

はあ

立花さん。私たちは、あなたと武藤さんがいなくなったのを確認して、この駐屯地に入りました。下調べをして、残った川上さんや孤児たちが無力だと知っていたからです

えっ!?

もし、私たちが悪人なら、彼女たちは皆殺しでしょうね

それはっ

人を守りたいとか、みんなの役に立ちたいとか、そういうの諦めたほうがいいかもしれない

 きっぱりと、全裸少女は言った。

 それは小さな未熟の果物を、鉄槌でたたきつぶすような、無惨な、嗜虐的な言葉だった。

 私は言葉を失った。


 随分とひどい言われようだけど、しかし、たしかに彼女の言うとおりだったからである。


 いつきと小夜は心配そうに私を見ていた。

 私は救いを求めるようにサクラさんを見た。

 だけどサクラさんは無表情で無感情のまま、私たちのやりとりを見守るだけだった。


サバイバルは遊びじゃない!

そんなっ

ヒーローごっこは迷惑!

別に私はっ

 そんなつもりはないし、私だって精一杯やっている――そう言い返すつもりだったが、圧倒されて、私は声も出なかった。


ふっ

 全裸少女は私を鼻で笑って背を向けた。

 ショッピングモールに行くつもりだ。

 一方。妹のほうはというと、ひたすら私をにらみつけていた。

 もう完全に怒りを通り越している。

 瞳に憎しみの炎を宿している。

 いつきが不安げな顔で言う。


ねえ、智子。もう辞める? 後のことはこの人たちに任せちゃう? 私たち頑張ったよね?

………………

 私はあっけにとられた。

 いつきは、私が『辞めない』と言うのを期待していた。

 私の反発に期待して問いかけていた。

 それは分かっていたけれど、しかし突然のことで、ちょっと言葉が出なかった。

 私はサクラさんを見た。


………………

 サクラさんは相変わらずの無表情で、しかし、懸命に怒りをおさえていた。

 私はそんなサクラさんにショックを受けた。

 なぜなら、サクラさんの怒りは明らかに私に向けられていたからだ。


どうして……

 がく然として立ちつくしていると、小夜が言った。


智子。くやしくないの?

 ハッとして顔を上げると、小夜はさらに言った。


智子は、いつもみんなのことを考えて、みんながしあわせになるようにと、そうやって自分の気持ちよりもみんなのことを優先させているけれど。感情を押し殺しているけれど

………………

素直になっていいんだよ

 小夜の顔には、おさえかねた怒りの炎がゆらめいていた。

 そんな小夜を見て、私の目は覚めた。



そうだ、卑下することはない

 私は歯を食いしばり、全裸少女をにらみ返した。

 挑むように一歩前に出た。

 それから私はこう言った。


待ってください。この駐屯地は私たちが必死に守り抜いた場所です。敬意のない人たちには使って欲しくありません

あらっ、ここは日本とアメリカの施設。あなたたちの私有地ではないでしょう?

その失礼な態度をまずは謝罪しろと、私は言っています

はあん?

キッ!

 全裸の妹が胸をぶつけるようにして前に出た。

 私は気圧されないように前に出た。

 と。

 そんな一触即発なところに、サクラさんが突然言った。


痴女のポーズで対決しろ。2人とも痴女のフリをして、痴女に気付かれないようにしながらここまで来たのだろう?

うん

うん

だったらそれで勝負しろ

 サクラさんは無表情で無感情にそう言った。

 私は大きくうなずいた。

 全裸少女もうなずいた。

 妹が誇らしげな笑みで、痴女の足運びを私に見せつけた。


 そして私たちは1メートルの距離で相対した。
 雌雄を決するためである。





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