『Idolism General Election』 アイドリズム総選挙!
それは、すべてのアイドルが目指す夢の頂点。
歌手、ダンスパフォーマー、女優、声優、
インディーズアイドル、動画投稿サイトの歌い手、
ジャンルを問わず、集い、順位を競う究極のアイドルレース!
今やアイドルは個性の時代!
あらゆるパフォーマンスにおいて人々の支持を集める
究極のアイドル――アルティメットアイドル――を時代は求めている!
『Idolism General Election』 アイドリズム総選挙!
それは、すべてのアイドルが目指す夢の頂点。
歌手、ダンスパフォーマー、女優、声優、
インディーズアイドル、動画投稿サイトの歌い手、
ジャンルを問わず、集い、順位を競う究極のアイドルレース!
今やアイドルは個性の時代!
あらゆるパフォーマンスにおいて人々の支持を集める
究極のアイドル――アルティメットアイドル――を時代は求めている!
さあ! いよいよ発表だ!
今大会の、KINGまたはQUEEN……それは……
加賀美ありす!
ほんとに!? わーい! ありがとー! やっぱり、ありすが一番だよね!
ありす……ありすってば……起きなさい
……ん……むにゃ……うふふっ……クイーンの名は、やっぱり、ありすにこそ相応しいんだから……
ありす!
聞き覚えのある声に大きく名を呼ばれて、ありすはハッと目を開いた。
ふえっ? あ、虎子……おはよー
自分を覗き込んでいるマネージャーの虎子に気づいて、ありすはソファに横たえていた身体をのそのそと起こす。
そんなありすの姿に、虎子はわざとらしくため息を吐いてみせた。
おはよー、じゃないでしょう。もうすぐ、あなたのパリでのデビューライブがはじまるっていうのに
ふわーあ……ふにゅう……
虎子の苦言を聞き流し、ありすはソファの上で大きく伸びをする。
それでもまだ少し眠気が残っていて、枕にしていたお気に入りのクッションを抱き締めた。
そんな顔じゃ、お客さんの前に出られないわよ。メイクを直してもらってきなさい
えー、このくらい平気だよー。ありすは何もしなくたって、かわいいもん
私は完璧なあなたを見てもらいたいの。せめて、目元と口元だけでも……いいわ、私がやってあげるから
虎子は細かすぎるのよ……ん……
文句を封じるように、頬にティッシュを押しつけられた。
軽くぽんぽんと触れたかと思うと、今度はパウダーのついたパフが優しく肌を撫でていく。
一体どんな夢を見ていたの? なんだか楽しそうだったけれど……
うふふっ、アイドリズム総選挙で優勝する夢。あーあ、日本で活動を続けてたら、次の大会は絶対私が優勝だったのになー
パリでアイドル活動したいって、飛び出してきたのはあなたでしょう。プロデューサーに随分無理を言ったって聞いているわよ
そんなことないもん。プロデューサーも『ありすはそろそろ世界を見てきた方がいいかもしれない』って喜んで送り出してくれたし
あの人ったら……自分のアイドルにはいつも甘いんだから……。私や里見先輩には、無理難題を押しつけてくるのに……
チークの濃さを確かめながら、虎子は大きなため息を吐いた。
そんなにため息を吐いていて幸せが逃げていかないのかしら。
日本でプロデューサーをサポートしている里見くらい、ゆるゆると構えてればいいのに。
――と、ありすは常々思っていたりするのだが、口に出したことはあまりない。
アイドルの友達とも長いこと連絡とってないなあ。みんな元気にしてるかな!?
私もこの半年間、こっちであなたの準備にかかりっきりだったから、日本の芸能界のことはよく知らないけれど……
里織は相変わらず無茶苦茶なことしてそうねえ。小夜子はきっとスマホに夢中よね……。それに……杏菜はまだ宇宙人やってるのかなあ
目を閉じなくても、その鮮やかな姿が浮かんでくる。
宇宙人……?
ありすの言葉が気にかかったのか、虎子は訝しげな表情で首を傾げていた。
そっか、虎子は知らないんだ。お堅い虎子は、会ったらきっと驚くと思うな。今度紹介してあげる
そうね……いつかね……。はい、これでいいわ
最後の仕上げにと衣装のリボンの角度を直し、虎子は満足げに頷いた。
ねえ、今からでも日本に戻ったら、アイドリズム総選挙に間に合うかな?
ありす、また、そんなことを言って。今は目の前のことに集中しなさい
虎子は呆れたように言って、テーブルに広げたメイク道具の片づけをはじめてしまった。
その態度に、ありすは唇を尖らせる。
虎子って怒ってばっかりだよね。そういう虎子、きらーい
そ、そんなに怒ってはいない……と思うけれど……
やや不安そうに言葉を詰まらせた虎子の姿に、ありすはきょとんと目を瞬かせた。
虎子はお堅いし、素っ気ないし、いつもしかめ面だけれど、全部が全部怒っているわけではなかったらしい。
そうならいいんだけど。あーあ、ありす、なんだかおなかすいちゃった。何か食べたい
ケータリングが準備してあるでしょう。どれでも好きなものを食べなさい。でも、食べ過ぎはダメよ
えー。ありす、もっと甘くてかわいいのがいい。んーとね、そうだ、マカロン! マカロン食べたい!
また、わがまま言って……
マカロンあったら、ありすがんばれるのになあ。最高のステージできるのにー
そうねえ、それなら……仕方ないかしら……
虎子の声に妥協が混じったことに気づいて、ありすは目を輝かせる。
うんうん! 買ってきてくれるの!? その辺のお店のじゃダメだからね。ありすのお気に入りの……
サンジェルマン・デ・プレの有名店の、でしょ? きっとそう言うと思って、朝一番に買ってきてあるわ
ほんとに!? わーい! 虎子、大好きーっ!
本番直前に、私にできることは、これくらいしかないしね。でも、今日は特別にわがままを聞いてあげるだけよ
虎子の言葉を最後まで聞くことなく、ありすは手渡された箱を開封しはじめた。
色とりどりのマカロンの上で指をさ迷わせ、色鮮やかなピンクに狙いを定める。
もぐもぐもぐ……おいしー! あまーい!
私はプロデューサーみたいに、いつも甘いわけじゃないんだから……って、ありす、聞いているの?
虎子にも半分あげるね。はい、あーんして
続いて手に取った水色のマカロンを、虎子の口元に差し出す。
ちょっと、私は……
ええーっ、ありすのお願い、聞いてくれないの? ありす、テンション下がっちゃうなー
わかったわ。いただくから……。ん……これは……!
小さく口を開けてマカロンを齧った虎子は、次の瞬間、口元を手で押さえた。
その目元は少しだけ赤く染まり、指の隙間から覗く頬はいつもより緩んでいる。
虎子、今ちょっと笑った。そんな笑顔、この半年で、はじめて見たかも
そ、そうかしら……
無自覚だったのか、虎子は少しだけ恥ずかしそうに目を泳がせた。
そんな姿も新鮮で、ありすは思わず見入ってしまう。
もっと、虎子のいろんな表情が見たい。
その言葉を口にするよりも早く、控え室に大きなノック音が響いた。
少しだけドアが開いて、スタッフが声をかけてくる。
加賀美ありすさん! ステージ袖にスタンバイしてください!
うわ、そろそろステージがはじまる時間!? それじゃ、行ってくるね!
ありすは慌てて立ち上がり、残りのマカロンを虎子に託す。
ええ。がんばって。初ライブ、絶対に成功させましょう!
はーい! いってきまーす!
~ つづく ~