榊原 信也

よし、皆乗ったか? 離陸するぞ?

 俺たちが、今、乗っている魔導式小型飛行機、通称“スワロウ”は、学園が何台か所有する魔導式飛行機のひとつであり、最新鋭の小型飛行機。

 その名前の由来は、安定した低空飛行が可能であり、同時に、機体の色が黒く、その飛行時の様子がツバメが飛行している姿に似ているからである。

 操縦桿を握るのは信也だ。握ると言っても、主に魔力供給をするだけだ。

 目的地を設定すれば、ほとんど自動操縦で辿り着くことができる。なので、特に心配する必要も無いのだが、安定した魔力の提供が必要になっているので、俺たちの中では、一番安定した魔力供給ができる信也が操縦することになっている。

榊原 信也

よし、安定飛行に入った。

シートベルト外していいぞ。

 信也が、自動操縦に切り替え、コックピットの座席から話す。

神裂 希

 これ、最新機ですよね?

 安定飛行に入って、シートベルトをはずした瑞希がコックピットにいる信也に向かって、目を輝かせて言った。

榊原 信也

 ああ、そうだぜ?

 希ちゃんも、アメリカで乗ったことあるだろ?

 アメリカでは最新鋭機が勢ぞろいしてるから。

神裂 希

 実は、私、乗ったこと無いんです。

 だから、今回がはじめてで……。

 乗り心地最高ですね。

 希が目を輝かせて言う。

神宮寺 瑞希

 そうなの?

 アメリカの部隊では、試験運用で各国より先に配備されているはずだけど……。

神裂 希

 ええ、もちろん運用はされていましたけど……。

 乗れるのは私たちではなく、いわゆる上の人達で、私たちは旧型にしか乗せてもらえなくて……。

神宮寺 瑞希

 何それ。そんなんだから反乱が起きるのよ。

 瑞希の言うとおりである。

 第三次世界大戦に負けたアメリカを含める旧資本主義諸国は、敗戦が原因で経済状況が悪化。

 その結果、低所得者と高所得者の争いが激化し、多くの資本主義諸国が崩壊した。

 この崩壊により、資本主義諸国の貧富の格差の大きさが明るみに出ることになり、世界はその改善を必要とした。

 国連は戦勝国の日本に、戦勝国としての責任があるとして、世界各国に魔導システムの配備を命令した。

 この技術は、第三次世界大戦中、日本が独自に開発した技術であり、当時、他の国々は、この技術を持っていなかった。国連はそこに目を付け、世界の均衡を取り戻そうと考えたのである。

 そして、日本はその命に従う条件として、世界のトップに君臨することを約束させた。

 そして、世界各国に魔導システムを配備させ、世界は元の平穏を取り戻した。

 だが、未だに旧資本主義諸国の一部では小さい反乱が続いている。そのひとつにアメリカも入っている。

榊原 信也

 そろそろ着くぞ。

 信也がそう言って、窓の外を指差す。窓の外を見ると、大きなドーム状のバリアが見えた。

 バリアは、周りの景色を映し、自身の存在をカモフラージュさせていた。

榊原 信也

 管制塔、こちら、魔導学園所属機スワロウ。

 これよりエリア7に侵入する。

 「こちら、管制塔。了解した。侵入を許可する。」

 「ただ、現在、原因不明の突発的な電磁嵐により、エリア内は危険な状態だ。くれぐれも気をつけてくれ。」

榊原 信也

 了解しました。

神裂 優斗

 行けるか?

 隣の席に座っている俺は、操縦桿を握る信也に聞いた。

榊原 信也

 余裕だ。 皆もシートベルトをはめてくれ。

 揺れるぜ!

 信也は操縦桿を握り直し、機体を前進させた。

 俺たちが灰の町の空域に入ると、町は薄ぼんやりと霧に覆われていて、町の地面まで鮮明に確認することはできなかった。

 同時に、管制官の言っていた電磁嵐など起こる気配もないほどに静かであった。

 信也が操縦桿を右に傾け、“灰の街”の管理支部である、エリア7基地に機体の方向を変えた。

榊原 信也

 本当に時間が止まっているみたいだな。

 信也が、操縦しながら言う。

神宮寺 瑞希

 そうね。人がいない場所なんて、滅多に見ないから、ちょっと不思議よね。

 瑞が窓の外を眺めて言う。

神裂 優斗

 ところで、さっきから希は何をやっているんだ?

 そこには、さっきまで立っていたのに、いきなり静まり返って、座席のシートベルトにしがみついている希がいた。

神裂 希

 じ…実は、飛行機の着陸の感じが、す…少しだけ嫌いだったり……。 わっ!

 希が言ったのと同時に、機体が一度大きく揺れ、今度は、音を立てて小刻みに揺れだした。

神裂 優斗

 どっ、どうした!?

 俺は、操縦している信也に聞く。

榊原 信也

 わ、わからない。何かに引っ張られている!

  信也は、めいいっぱいの力で操縦桿を握り、魔力で機体を制御しょうとしている。

 俺も、操縦桿を握り、魔力を流し込む。

 機体は依然として音を立て、地面に向かって徐々に引っ張られていく。

神裂 優斗

 まさか。この力は!

 俺は、この引き寄せられる力に覚えがあった。

神宮寺 瑞希

 どうしたの!?

 瑞希が座席に座ったまま俺たちに聞いてきた。

神裂 優斗

 何かに引っ張られている!

 そっちの窓から何か見えないか!?

 俺は、瑞希達に窓の外を見るように言った。

 瑞希たちはそれぞれの窓から下を覗く。

霧裂 静香

 何もみえない。

 静香が冷静な声で言う。

神裂 優斗

 と言うか、何でそんなに冷静なんだよ!?

霧裂 静香

 もう、遺書とか書き終わったから

 そう言って静香は、胸ポケットの中から、書き終わった遺書を出した。

榊原 信也

 マジかよ! 俺、操縦してるから書けねーよ!

 信也が俺の隣で言う。

神裂 優斗

 いや、そういう問題じゃないだろ!

 俺は、必死で探した。

 この現象の原因になっているのは、おそらく重力制御装置。

 ただ、問題はどこに設置してあるかということ。

 作動してる間、重力制御装置は青く輝いている。そのため、通常なら発見することは簡単なのだが、この深い霧の中では、重力制御装置を見つけることは難しい。

 目覚まし時計に似た、耳を貫くようなアラームが機内に鳴り響いた。

神裂 優斗

 何なんだ! 次から次へと!

 俺が、後ろを振り返ると、希が機体のドアを開けて、外に身を乗り出していた。

神裂 優斗

 おい! 希、何をやっているんだ!

 俺が聞くと、希は目を細め、何かを見つけようとしていた。

 どうやら、希もこの原因が重力制御装置だと気づいているらしい。

 だが、そう簡単には見つからない。

神裂 希

 見つけた。

 そう呟くと、希は空中へと身を投げた。

 同時に機体の安全装置が発動し、ドアが自動的に閉まる。

霧裂 静香

 希!

 静香が閉まったドアの窓から外を見る。

神裂 優斗

 一人じゃ時間がかかるだろ!

 俺は、操縦桿から手を離し、激しく揺れる機体の中を何とか歩いて、希とは反対側のドアを開いた。

 強い風が機内へと流れ込み、再び気圧低下によるアラームが鳴る。

神宮寺 瑞希

 ゆ、優斗まで何してるのよ!

 瑞希が風で舞い上がる髪を押さえながら言う。

神裂 優斗

 揺れが治まったら、機体を立て直して、俺たちを拾ってくれ。

 俺は、瑞希にそう言って、ドアから飛び出した。

神宮寺 瑞希

 優斗!

 俺は電磁嵐の中、先に飛び出した希の後を追った。

第四十二話:《依頼~灰の街2~》

facebook twitter
pagetop