光か闇か
 嘘か真か
  正か邪か
ふたつを分かつもの

時の天秤
 昨日と明日の分岐点
  あらかじめ用意された選択肢

選択の
不自由

死と生

輪廻

月が輝く
夜の闇の真ん中に張り付いた月が
高く
高く
うつろな眼球に浮かんで見える……

なるほど……それでこんな川のフチにへばり付いていたというわけか

………………

ケイ……だったモノは……
もはや何も語らない

それで?オマエは何を望む?復讐かい?それともあの橋の上に横たわっている友達とやらを生き返らせることかい?
残念ながら……それは禁じられている

……………………

ん?違う……のか?
ああ……そうか……もう……繰り返したくないのだな……
その生を

……

いいだろう、いいだろう
しかし、教えておくれ
なぜボクの名を知っていた?

……前に……貴方が……
教えて……くれたの…………

ボクがかい?
それはおかしい
ボクはかつてゼム……彼らと呼ばれていた……
ボクはそれがたまらなく嫌だった
だから名前をつけたんだ
ついさっき自分でね
ゼルと……

……ほら……ね………………

ソレは笑ったように見えた
そして完全に消えてしまった……

ゼル

待て!待て、待て待て待て!
それは、どういう意味だ?

少年……ゼルにはまた疑問が残された
ゼルがその疑問に夢中になっていると藪の中から音がした

竜也

おやあ~キミは誰だい?
なんでこんなところにいるかなあ

竜也がケイの遺体を探して降りてきたのだ

ゼル

……彼女の言っていた話がぜんぶ本当だったとして……初めてあったボクのことを知ってるってことは…………

しかしゼルは竜也という存在を完全に無視し、己の内なる声と対話していた

竜也

おーい!アンタ!聞いてんのかよ!
って、まー死んでいくオマエになんかこれっぽっちも興味は無いがねえ

ゼル

ん?オマエなんだ?
どこから湧いて出た?

ゼルはやっと竜也に気がついた

竜也

はあ~?
さっきからずっと居たし!
なんだよ俺ひとりで喋ってたのかよ
バカみたいじゃねーか!
なんかあったまきた!
死ね!

ゼル

オマエ……アレか……
ケイの言ってたヤツか……
黙って闇に消えてれば良かったものを

竜也

へっ
やる気か?オマエそんな痩せっぽちのカラダで

ゼル

やる?
ボクがかい?
はっはっはっはっは
ありがとう、やっと正気に戻れたよ
キミは……何も知らないのか
スッカリ忘れてしまっているのかだねえ

ゼルが右手を上げ、下ろす

ガルルルルルルゥ

ゼルの背後から全身が真っ黒な獣が飛び出した

竜也

ヒ、ヒィイイイイイ
あ、アンタは!

竜也は逃げ出した。
それはものすごいスピードで崖を駆け上っていく
しかし、獣はそれお上回るスピードで駆け上がり、あっという間に崖の上に届いた。

竜也

か、勘弁してくれ!
お、おい!仲間だろ!

竜也はまだ川底にいるであろうゼルに向かって大声で呼びかけた
しかし……

ゼル

仲間だと?

竜也

ヒィッ

ゼルはいつの間にか目の前に立っていた

ゼル

闇に生まれし者は闇の中に溶け、おとなしくしていればいいものを
オマエもまた、人間と等しく醜い
今宵は満月
ボクはキミの醜さを許せそうにない

竜也

やめろ!やめてくれ!
わ、
あああああああああーーーーーっ
…………
……

獣が一歩、竜也に近づくと
竜也は谷底へ落ちた

グルルルルルゥゥゥウゥウ

ゼル

やめないかジュドゥ
ソレは醜い
そんなもの喰らえばオマエが汚れてしまうよ

ゼルが手を払うと、竜也だった肉の塊は消えてしまった

ゼル

ああ、美しい夜だ。
この夜を汚す者をボクは許さないだろう。
ただ、それだけのことだ……

なぜだろう?

ゼルはそっとケイの瞳を閉じてやった
そしてその瞳に映っていた月を見上げた

ゼル

待てよ……この景色……前に見たことがある……

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