神裂 優斗

 遅刻、遅刻だー!

 俺、神裂 優斗は通学路を全速力で走っている。

 いつもなら、目覚まし時計が鳴るのだが、目覚まし時計が鳴らず、盛大に遅刻をするという事態に陥っている。

神裂 希

 ちょっと、朝から走れないよー。

 俺の後ろから希がヨタヨタと追いかけてくる。

神裂 優斗

 今日の遅刻はお前のせいだからな!

 俺は、後ろを走る希に言う。

神裂 希

 だって、ユウの寝顔があまりにも気持ちよさそうでー。

 ウヘヘヘー。

  そう、希は俺の部屋に勝手に侵入し、目覚まし時計を勝手に止めた上に、俺のベッド上で二度寝をしたのだ。

神裂 優斗

 ウヘヘヘー。

 じゃねーよ! 今日の生徒指導は新道だぞ!

 俺が言った瞬間、希の顔が青ざめた。

神裂 希

 そ、それは不味い!

  そう言うと、希は足に桜色の魔方陣を展開し、飛行魔法で低空飛行をしながら、俺を一気に抜き去った。

神裂 優斗

 あ、あいつ。まて!

 俺も魔方陣を展開し、低空飛行で希の後を追う。

神裂 希

 あ、見えた!

 希が、学校の門が閉められる直前の正門を視界に捉える。

神裂 希

 加速!

 魔方陣を更に発動させ、希が速度を上げる。

神裂 優斗

 置いて行くなよ!

 俺は、希に肩を並べる。

 「キーンコーンカーンコーン……。」

 このチャイムに遅れれば遅刻だ。

 新道が担当の時は、遅刻をした生徒には、腹筋・腕立て・背筋を一万回、三セットという地獄のメニューが待っている。

 だから、新道の担当である曜日は誰一人遅刻者がいない。

神裂 優斗

 間に合えー!

神裂 希

 間に合えー!

 チャイムが鳴り終わるのと同時に、俺と希は正門を通過した。

 そして、この校門には、通過した人物の魔法を強制的に解除するというシステムがある。

 これは、生徒の安全を守るためにあるシステムなのだが、それは同時に、今の俺たちの状況でも働くということを意味している。

 つまりは……。

神裂 優斗

痛っ!!

神裂 希

 痛いっ!

 俺と希は校門の魔法解除システムのおかげで盛大に転んだ。

新道 進一

 よし。遅刻者ゼロっと。 

 新道は手に持つタブレットを操作し、全校生徒名簿データを閉じた。

 同時に正門が閉じられていく。

新道 進一

ついでに、お前ら、職員室に来い。

神裂 希

 え……、ち……、遅刻は……してないよ?

 息を切らしながら、希が言う。

新道 進一

依頼の件だ。来いよ?

 そう言って、新道は職員室の方へ歩いていった。 

神裂 希

 何だろうね?

 希が困った俺困った表情で俺に聞いてくる。

神裂 優斗

 さあな。ところで、どうして新道の生徒指導がキツいってことを知ってたんだ?

神裂 希

 ああ、私がアメリカにいた時に、直属の上司だったからね。

 アメリカでも、生徒から怖がられていたしね。

 希が笑って言う。

神裂 優斗

 直属の上司か。

 どこにいても新道はそんな感じか……。

 俺は、アメリカに居た頃の新道を想像して笑った。

新道 進一

 おい、おまえら。いつまでそこに居るつもりだ。そろそろ職員室に来い。

 職員室の窓から新道が叫んでいる。

 俺は、立ち上がり、希に手を差し伸ばす。

神裂 希

 ありがとう。

 希が俺の手を取って立ち上がり、俺たちは職員室へと向かった。

 職員室に着くと、新道が自分の机でゴソゴソと何かを探していた。

神裂 優斗

 新道、俺らに用って何?

 俺は、新道に聞く。

新道 進一

 だから、ここでは新道先生だろ?

 まあ、待て。確か、ここにあったはず……。 

 新道の机には、沢山のファイルが山積みになっており、新道が机を漁る度に、ファイルが職員室の床へと落ちていく。

新道 進一

 ああ、あった。

 これだ。

 そう言って、新道はプリントを二枚渡してきた。

神裂 希

 何ですか? これ?

 希には何の事かわからないプリントだが、日本に長く住んでいて、魔剣騎士(ブレイドナイト)を目指している奴ならば、誰もが喜ぶもの。

 つまり、魔剣騎士(ブレイド・ナイト)候補として、現役の魔剣騎士(ブレイド・ナイト)の任務に同行することができるという内容だった。

新道 進一

 お前らの噂、特に、希の噂がどういった理由で伝わったのかはわからんが、来たものは仕方がない。

 まだ期限に時間があるから、考えといてくれよ。

 あと、瑞希が遅いと言って怒っているから早く教室に行ったほうがいい。

 最後に言われた言葉で、今まで忘れていたことを思い出した。

 希が来た昨日に入っていたはずの依頼が、姉の暴挙のおかげで、予定が一日伸びたのだ。

神裂 優斗

 これは、瑞希に怒られるな……。

 俺が小さく呟くと、希が俺に聞いてきた。

神裂 希

 どうかしたの?

 もちろん希は瑞希の怖さを知らない。だからこの反応ができるのだが、依頼が入っている日は、早めに来なければならないことになっている。

 もちろん、その規定は無いのだが、このSクラスでは、計画の確認とそれぞれの状態確認のために、そういう約束をしているのだ。

神裂 優斗

 希は、たぶん大丈夫だから安心してくれ。

 問題なのは、俺だ。

 確実に一発は殴られる。

神裂 希

そ、それは、ご愁傷様です……。

 俺と希は、急いでSクラスへと向かった。

第四十話:《希と遅刻な話》

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