私は夢を見ていた。
見ているはずである。
周りを見渡しても広いだけの野原しかなく、見覚えのあるものはない。
しかし…
夕焼けの眩しさも生ぬるい風も生々しい。
―――・・・?
ふと気配を感じ振り返る。
金髪に黒いリボンを飾り、青いワンピースに白いエプロンドレス。
逆光にも関わらず強く光を持った碧眼・・・

・・・アリス?

思わず呟く。
そう少女はおとぎ話のアリスのような・・・
・・・いや、片目を瞑り片方しかない翼は違うような・・・
私がおとぎ話を思い出そうとしていると、少女は笑顔のまま、しかし不機嫌そうにはなしはじめたのだ。

あら?貴方もそう私を呼ぶのかしら?
失礼しちゃうわ、それにそんな呼び方退屈よ、きっとそう。お茶も冷めるくらいに。

退屈な呼び方?どういう意味だろうか・・・
疑問はくちに出さず、非礼を詫びる。
少女はクスクスと笑いながら

いいの。ここでは皆アリスって呼ぶもの。
ふふ・・・ちょっとからかっただけよ。
お客さんそれよりも・・・

少女は私の目を見据えて笑を深める。
・・・何故か心の底まで見通されている、そんな気がした。

あのね、私とっても退屈なの。
このままじゃ退屈で溺れてしまうわ!
だから、ね?
お茶会しましょう!時間もほら、ぴったりよ!

うさぎの形をした時計は・・・秒針ではなく時針が絶え間なく動いている。
ネジもバネも飛び出し、どう見てもポンコツだ。
だけど、これは夢だ。
予定も時間も関係ないし、ここで断っても夢が覚めるまで暇である。
なので私は頷く・・・前に少女が

まあ!よかった!決定ね!
このまま自己紹介もお話もせずサヨウナラ。
なんて、首がちょん切れるほど残念で退屈だもの。
ふふ、じゃあお茶会の始まりね

何だか物騒なことを言っていた。断っていたらどうなったのか。
ぞっとしている私を見ながら少女はまたクスクス笑い、そして私の背後を指さした。
振り返るとテーブル、椅子、ティーポットにティーカップ。
スコーン、マカロン、クッキー・・・いつの間にかお茶会のような風景が・・・
いや、お茶会が始まるのだから「ような風景」ではない。お茶会なのだろう。
少女は席に座るように促すと、私が口を挟めない勢いで話し始めた。

あぁ、良かったわ。自己紹介できるのね。
私はシアン。sianじゃないわ、cyanってちゃんと呼んで。
そう。そうね、お茶にお菓子ときたらお話しなくちゃ!
お茶好きな帽子屋は歌うけれど、あの人少しおかしいから。
謎かけも歌もいいけど、そう御伽噺なんてどう?
きっと素敵な暇つぶしになるわ!
だから、そうね・・・
まずは・・・

ふわりと風が頬を撫でる。
冷たくなった風は潮の香りがして、私は後ろを振り返る。
少女は シアンは話を続けていた。

まずは魔女に騙された人魚のお話よ。

振り返るとそこは崖。
私たちはいつの間にか海にいた。

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