木の扉を開くとどこか見覚えのある階段が目の前にあった

紅夜

ここは確か…寮の階段だ

銀執事

よかった…知ってる所に出られて

だが油断できねえぞ。
あの化け物はどこにいるかわからないからな

紅夜

しかし、こんな所に繋がる通路になってたなんて…気づかなかったな。

銀執事

確かに…
…ん?
何か物音が聞こえない?

物音…?

そっと耳を澄ますと、廊下をひたひた歩く音が聞こえた

その音は段々とこちらに近づいてくるように感じた

紅夜

まずい、あの化け物が近づいていてる。
一旦この木の扉しめてやり過ごすぞ

銀執事

ひぃひぃ

紅夜は目の前の木の扉に手をかけ、そっと閉めた後扉に耳を当てた

グチャッ…グチャッ…

…段々近づいてくるな…

銀執事

心なしか上の方から近づいてきてるような…

その音は徐々に大きくなり、木の扉のすぐ前にいることに気がづいた

グチャッ

紅夜

銀執事

ふぇっ…

紅夜

ま、まずい銀のくしゃみ…!!

銀執事

ふぇっk!!?

くしゃみをしようとしたその瞬間、紅夜は咄嗟に銀を目潰しした

銀執事

ぎゃあああああ!!!

何やってんだお前ら!?

紅夜

大丈夫か銀!?誰にやられたんだ!?

銀執事

お前だよ!!!

シーッ

紅夜

静かにしろ銀

銀執事

銀は両目を覆いながら出そうな声を死に物狂いで抑えた

グチャ… グチャ…

…よし、段々音が遠のいてったぞ

紅夜

よかったな…

銀執事

何もよくねえよ!!!

いやぁ…あの化け物が音を感知しない性質が不幸中の幸いだったというかなんというか…

銀執事

不幸中の不幸だ!!

紅夜

すまん、銀。
化け物が物音に反応しないことを忘れてつい…

容赦ねえな紅夜

銀執事

まだ殴るとかなら100歩譲ってよしとしても目潰しって!

紅夜

うるせえ次はくしゃみじゃなくて息の根止めるぞ

銀執事

すみませんでした!!!

こらこら、茶番は置いといて…
これからどうする?
化け物は今近くにはいないみたいだぞ

紅夜

そうだな…
物音からしてまずあの化け物は階段で2階から1階に降りているだろうから今俺らと同じ階にいるな

銀執事

寮の1階って何があったっけ?

まず階段の目の前にトイレ、その横に風呂場。
その他には管理人室と食堂がある

紅夜

さすが、詳しいな

銀執事

もしトイレの方に向かってたとすると穴が空いてたし外に行ってるかもしれないね

…となると探すのが困難になって仕留めるのも至難の技になるな

紅夜

どうする?

銀執事

何かいい案は…

そうだなぁ…

紅夜

そういえば、ここの寮の2階って4つ部屋があったよな?

銀執事

ああ、あったね。確かクローゼットに隠れた所だよね?

紅夜

そうそう。
またあのクローゼットを利用するのはどうだろう?

利用?

紅夜

兄さんに会う前に一度2階のクローゼットで銀とあの化け物から身を隠したことがあってな。
俺がまずクローゼットに身を潜め、誰かが囮となって俺のいる部屋にあの化け物を誘い込む。
そして化け物の背後から俺がこの刀で切り裂く、といった計画はどうだ?

銀執事

なるほど。

ふむ。
そうだな。1階だと身を隠すところがないしな。
紅夜の言うように2階のクローゼットなら最適なんじゃないか?

紅夜

まず囮になるやつが無事2階の部屋まであの化け物を連れてこられるかが問題だけどな

銀執事

ああ、気は乗らないけど囮なら自分が…
紅夜のお兄さんは手を負傷してるしね

そんなこと気にすんな。全く使えない訳じゃないし銀が一人で囮になって何かあったら元も子もないしな。
俺は銀のサポートするぜ

紅夜

二人とも大丈夫か?

銀執事

自分ひとりだけじゃなく紅夜のお兄さんも着いてきてくれるなら心強いかな…

よし、決まりだな。紅夜、その作戦で行くぞ

紅夜

わかった。
でも上手くいく保障はないからいざとなればあのトイレにあった穴から出て例の神社に向かって走るぞ

銀執事

また走らなきゃいけないと思うとツラいな…

この作戦が上手くいけばもう走らなくてもいいと思って頑張ろうぜ

紅夜

まぁ人生で最後の走ることになる可能性も無きにしも非ずだがな

銀執事

それだけは勘弁だ…

はは。
そうならないためにも、今回のこの計画を成功させて元の世界に帰ろうぜ

紅夜

じゃあ2階にまず行って準備しないとな

銀執事

一旦自分たちも2階に行って紅夜がクローゼットに入るところを確認してから化け物を誘き寄せるよ

だな。
化け物は外か1階にいるのは確実だし、今のうちにさっさと2階に移動するか

紅夜

ああ。

ギィ…

紅夜の兄は木の扉に手をかけ、そっと扉を開け、周りに何もいないことを確認した

…よし、何もいない。
行くぞ

紅夜の兄の後に続き、銀と紅夜は目の前にある2階に通じる階段を登った

紅夜

左奥の部屋に行こう

銀執事

わかった

元俺がいた寮の部屋だ…

紅夜

えっ、兄さんここでいたの?

そうだ。嫌な思い出しかないけどな

銀執事

いろいろ大変な思いをされたんでしょうね…

ま、ここであったことは元の世界に帰ってからゆっくり話してやるよ。
さて…紅夜、クローゼット準備大丈夫そうか?

紅夜

ん…なんとか。
真っ暗で何も見えないのがきついが、まあ物音とかでさすがに外の状況もある程度はわかるだろ

銀執事

じゃあ後は任せたよ

こういう時に携帯とか使えたらいいんだどな。
じゃあ俺らは行ってくるよ

紅夜

健闘を祈る

それじゃあ行こうか銀

銀執事

はい

紅夜の兄と銀は紅夜のいる部屋を出て、1階へと続く階段の方へと向かった

銀執事

一体どこにいるんでしょうね

うーん…あくまでも俺の予想なんだが、もし外に行っていないとすると、トイレか風呂場、食堂の厨房辺りにいるんじゃないかと思う

銀執事

え?どうして?

あの化け物ことキメラは水辺を好むんだ。

銀執事

そうなんですか!?
あ、でも言われてみれば…
最初も水槽にいましたし、2度目もトイレで再開しましたし…
でもどうして?

あのキメラはいろんな生物の遺伝子を組み入れすぎているからな…きっと水中生物の遺伝子でも含まれてたんだろ。

銀執事

水がないと死ぬってことですか?

どうだかね。
肺呼吸なのかエラ呼吸なのか…はたまた皮膚呼吸なのか。

銀執事

もしかすると全て兼ね備えているという可能性もあるわけですね

そういうこった。

銀執事

とりあえず…
今までの化け物の行動といい、紅夜のお兄さんの情報といい、水辺を好むようなので…
一応水辺に向かいましょうか

おう

二人はゆっくりと1階に降り、まず目の前のトイレに向かった

銀執事

あ、そういやほとんどのトイレの個室に鍵がかかってるんだった…

ほんとだ。
空いてるのは奥のあの外に通じる穴が空いている個室だけか…

銀執事

うっ…トラウマが…

銀は奥の個室に近寄り、ドアノブに手をかける

いいか、銀。
もしやつが出てきたとしても動揺するな。
ただ2階まで走るだけでいい。

銀執事

は、はい

二人は固唾を飲み、勢いよく目の前のドアを開けた

しかし、中には誰もおらず、ただ外に通じる大きな穴があった

銀執事

い、いない…

ここにはいないようだな。次を当たろう。

銀執事

そうですね…

銀は開けた扉をそっと元に戻し、二人はトイレの横にある風呂場へと向かった

ここにもいない…か

銀執事

確か隣の女風呂には浴槽に水を張っていませんでしたので、
残るは食堂の厨房くらいかと…

もし厨房にもいなけりゃ1階の部屋を全て探さないとな。
それでも見つからない場合は外に行ったということになる

銀執事

外に出られたら出られたで探すのが余計に困難になりますね

ある意味この寮内にいてくれればいいんだがな…
つかこの浴槽汚いな。
どれくらい放置されてたんだろう…

そう言いながら紅夜の兄は水を張った浴槽に近づく

銀執事

苔や血の汚れが酷くて底が見えないですよね

紅夜の兄が浴槽を見ている横で銀も覗き込む

銀執事

…ん?血?
あれ…紅夜と最初にここを探索した時あったっけ…?

不思議に思っていたその時

ザパァッ

うわあああっ

銀執事

わあああああ!!!

突如浴槽の中から出てきた化け物はこちらの存在に気づくと、勢いよく飛び掛ってきた

銀!!2階まで走るぞ!!

銀執事

はい!!!


紅夜

自分で計画立てといてなんだけど、大丈夫かな…

クローゼットに身を潜めていた紅夜は、室内の様子が気になり、扉を少し開いた

紅夜

暗いしこれくらいなら大丈夫だろ…
しかし、本当にこの刀であの化け物をどうにかできるんだろうか

紅夜は手に持っていた刀を少し抜く

紅夜

鞘とか見た目は古そうなのに…刃は立派なもんだな。
きちんと手入れされていたのか、それとも使われずにずつとあの神社に祀っていたものなのか…

「………」

紅夜が刀をまじまじと見ていると、ふと女性の声が聞こえたような気がした

紅夜

ん…?声…?

「 たすけて 」

紅夜

誰だ?
誰かそこにいるのか…?

クローゼットの扉の隙間からは、何か白い影のよなものが見えたが、その影はすぐに姿を消した

その影が消えるとともに女性の声も消えていき、辺りはまた暗く戻った

紅夜

な、なんだったんだ…!?

扉の隙間から周囲を確認するが、先ほどの影は見当たらなかった

紅夜

空耳…?いや、影も見えたしな…
助けを求めてた…?
どういうことなんだ…

銀執事

うううううう

頑張れ!!2階まであと少しだ!

一方二人はキメラから追われていた

銀執事

ついた!2階だ!

紅夜のいる部屋に向かうぞ!

紅夜

二人の声と走る足音が近づいてきた…化け物を連れてきた様子だな

銀執事

よし着いた…ってうわっ!!!

ズサッ

走って紅夜の待つ部屋にたどり着いたが、不覚にも銀は椅子に躓いてしまった

紅夜

えっ

ぎ、銀!!

追いかけてきたキメラは目の前で倒れた銀に向かい飛びかかってこようとしたが、紅夜の兄が銀の腕を咄嗟に掴み、運よく避けられることができた

紅夜!!!今だ!!

紅夜

おう!!

紅夜は刀を抜き、クローゼットから出てキメラの背後に向かって勢いよく刀を振り下ろした

パリンッ!!!

紅夜

何っ!?

しかし、その振り下ろした刀はキメラには当たらず、キメラは目の前にあった窓ガラスを割り、外へと逃げていった

紅夜

ま、待て!!!

くそ、逃げられたか

銀執事

ごめん自分が躓いたせいで…

紅夜

いや、銀は悪くない。
どの道その窓ガラスをぶち破って逃げてただろうしな

あいつ…また帰ってくるんじゃないだろうな…

そう言いながらキメラが割った窓から顔を出し、下を確認する

銀執事

地面に血の跡が…
森の中に行ったみたいだね

紅夜

このまままっすぐ向かったとすると…?

このまま森を抜けて先に行くと駅がある。

銀執事

もしかしてその駅って自分たちがここに来るきっかけとなったあの…?

そうだ。斯く言う俺もその駅からこの世界に来た

紅夜

じゃあもしあの化け物がいるとしたら森の中か駅…ということか

銀執事

森の中だと気が遠くなる…

駅に向かったと信じて、俺らも行くか

紅夜

おう。
ここでグダグダしてるうちに遠くに行かれたりすると困るしな

銀執事

また走らないといけないのか…

三人は部屋を後にし、1階から外に通じる穴のあるトイレの方へと向かった

「 たすけて 」

紅夜

…?

銀執事

どうしたの紅夜?

紅夜

声が…

声?何も聞こえないぞ?

紅夜

あ…いや、なんでもない。
先を急ぐぞ

銀執事

う、うん…?

9話
=終了=

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