シーナが女王様として君臨してすぐの頃。世界情勢は悪く、彼女の思った通りに物事は運ばなかった。
シーナが女王様として君臨してすぐの頃。世界情勢は悪く、彼女の思った通りに物事は運ばなかった。
やはり、……自分がしたいことと言っても、……世界を救うのは綺麗事なのか
女王様として君臨したすぐは、多くの改革をして格差を無くそうと動いていた。しかしそれも束の間、身分としては上にいる貴族や住民が動いては上手く格差を埋めることが出来なかった。また、お父様が亡くなった今も近くでは戦争が繰り広げられている。そして、数ヶ月前に祭祀を行ったことによる周りの国からの圧力。全てを上手く動かすことはできなかった。
女王様、…その、…また貴族から不満の声が……
分かっている、……どうしたらいいものか…
毎日どうするべきか悩んで悩んで、そこでふとシーナが思い出したのは、「心の中で「鬼さんこちら」と呼んでくれ」というカンゲンの言葉だった。
ただシーナはきっと助けに来てくれる、そう強く信じて「鬼さんこちら」と心の中で何回も強く唱えていた。
呼んでくれてありがとう、…待っていたよ
僕たちまでここに呼ばれてどういう事かと思ったけど、……お嬢さんの一大事なら仕方ない
よう、……久しぶりだな、…シーナ
「鬼さんこちら」と唱えて眠りについた彼女を待っていたのは、カンゲンと出会った異世界だった。しかしそこにはイチやレイの姿もあって。
本当に助けに来てくれた。それだけでシーナにとっては嬉しかったが、それよりも彼らに久しぶりに出会えたことが何よりも嬉しかった。
……ありがとう、…本当にこうやって会えるとは思ってもみなかった
でもここは異世界、そして夢の世界、だろう。それなら時間はない。カンゲンに相談をしようと声をかけようとしたその時、すでにカンゲンが言葉を始めていた。全てを見透かしているかのように、いや、全てを見透かしていて。
そして、お嬢さんから何も聞かなくても分かる、……叶えたい事が上手く動かない、…それは戦争や地位や、想いのすれ違いによって起きている
でももうシーナにとってカンゲンの言葉は驚くものでも、疑うものでもなかった。彼らのことは世話役と同じぐらい、もしかしたらそれ以上に信頼している。ならば、時間のある限り、話を聞くのが得策だろう。
そう、……どうしたらいいものかしら…
それは僕たちの出番ということさ、……さて
もうどうしていいか分からないと言った風に心配そうにカンゲンを見つめると、カンゲンは楽しそうに彼女を見つめ返して、「言ったことを全て行動に移してごらん」と言葉を始めた。
この国には援助して、こう声をかけて、求められた物は拒否して、これには賛同して。色々とカンゲンから教えられたシーナは、全てを行動に移そうと思った。完璧に覚えることはきつかったが、メモを取る物も当然持っていないので、ただひたすら頭で動くことを唱えて。
主人は前からこうなることを知って、僕たちに全ての国、そして立場の高い者から低い者までの動向を調べさせた、…そして、魔術を使って答えを導き出した
でも僕が教えるのはここまでだ、…きっとここから先はお嬢さんが上手く動かしてくれるさ、そして……
そう言うと彼はレイをシーナの元へ差し出すと、「彼を連れて行って」と笑顔で言ってきた。
でも……、レイは…
これはどういうことか。死んだ人が蘇生されたとしても、きっと大きな行動はとれないだろう。だってこの世に存在しないのだから。
だからこそレイが私の元に来るのはしてはいけないこと。それは彼女でも分かることだった。
驚いているシーナを見たイチは一歩彼女に近づくと、「大丈夫だよ」と数ヶ月前と変わらない優しい声色で、ゆっくり何かを唱えて見せた。
僕に任せて、……相談して、ここに辿り着いたのさ
イチが何かを唱えて見せると、光に包まれて、目を開けた時にはお城の中に戻っていた。でも、そこには見覚えのない姿の、でも話し方や、言葉、全てがレイとそっくりの人が彼女を助けてくれた。
任せろ、……シーナは笑って着いてきてくれればいいんだよ
さて、……イチ、本当にこれで良かったんだね?
えぇ、……これがお嬢さんの、いえ、「天才」となる「救世主」の一番の救いとなりますから
彼女はもう「救世主」になる……、楽しみだな