緑の茂る田舎町を歩く少女は、その傍らに少年を連れながら、少女は出会う人々にこう尋ねる。

どなたか、彼より賢い人を交換して頂けませんか?

……

 目つきの鋭い金髪の少年は、じっと隣の少女を見つめる。彼の視線を知ってか知らずか、少女は変わらず明るい表情で会う人々にこう呼びかける。

すみません、少しでも良いんです。少しでも良いから、彼より賢そうな男の子を、彼と交換して頂けませんか?

え!? えっと~……

 支離滅裂な話に、尋ねられた健康肌の女性は、隣にいる彼をチラチラと見る。

 その彼は顔を俯かせ、小刻みに震え始めた。その一分後、溢れる怒りに身を任せて顔を上げる。

……何でだよ!!

 尤もである。

 怒り出した少年を見て、健康肌の女性は逃げ出した。女性の後姿を見つめながら、物惜しそうな顔をする少女。君のせいだと少年に言おうと顔を向けると、少年は言わせるものかと、素早く口を開く。

お前、急に呼び出したかと思えば、俺より賢そうな奴と俺を交換ってどういうことだよ!? それが幼馴染に対しての態度かよっ!!

 少女を指さし、ロックオンしてマシンガンの如く攻め入る。少女は少年の迫力に一度は圧倒されたものの、少年が話し終えると、あっけらかんと笑顔を見せた。

あのね。私、天才の男の人と結婚したいんだ

はぁ?

けど、私の中学って、地域から見てもすっごく頭悪いじゃない? アンタだって数学2点だったらしいじゃん?

あのなぁ。お前だって英語10点だったろうがよ

うん! だからこそ、頭の良い人と結婚して、私の馬鹿もカバーしてもらうんだよ!!

 それこそ馬鹿の発想じゃないか。

 呆れる少年であったが、少女をこれ以上怒鳴りつけることもままならなかった。少年は、少女に淡い恋心を抱いているからだ。

 少年は少女のことを好きだと言うのに、少女はその少年を彼より賢い男性と交換し、尚且つ結婚しようと目論んでいるのだ。皮肉にも程がある。

すみませ~ん! 誰か、彼より賢い男性と、彼を交換して頂けませんか~?

……チッ

あら。賢い男の人を探しているの?

 少女の下へ、四十代後半程の女性がやってきた。少女が頷くと、

丁度良かったわ!

と、少年の手を引いた。

え、マジ!?

うちの息子、今反抗期でね。頭はそれなりに良いんだけど、勉強をしなくなっちゃったんだ。あたしが、「飯作らないよ!」って叱ったら、「アンタの親なんてやめてやる!!」って言いだしてさぁ

フムフム。そりゃあ大変ですねぇ

本当に思ってるのかよ?

そんじゃ、今日一日交換ね

 彼にも一応家族がいるのだが。女性は少年の手を引いて去って行くと、少女は一人取り残された。

 少女が取り残されてから五分後、少女の下に、先程の少年とは別の少年がやってくる。

母ちゃんが言ってた変な人って君?

ですです! 私は今、如何にも賢そうな君を見て心が躍っているよ!! で、どこ中?

平元(ひらもと)第三中だけど

うーん。言っちゃ悪いが、平元第三中かぁ。出来れば白瓜(しらうり)特別中等学校が良かったなぁ

は? 意味分かんないんだけど

 怪訝そうな顔をする少年に、少女は経緯を説明した。それでも納得がいかなそうな少年だが、少女は気にせず彼の手を取る。

ねぇ、その学校では学力テスト何位なの?

大抵1位だけど

うっひょう! すっごい、天才じゃない!!

……そんなこと無いよ。俺なんて、凡人中の凡人だよ

あら、そうなの? ここにテストの平均点14点の人間がいるのに?

 さらっと言った少女だが、初めて彼女とあった彼からしたら、その発言の衝撃は大きい。彼女を凝視するその姿は、無言の、「まじでか」を表現している。

テストの点だって、高くたって何も良くない。友達なんて出来ないし、高得点取ったって親からも先生からも出来て当然って顔されるし、2位や3位の人からは睨まれるし。人としては、凡人以下だよ

そっか。だからお母さんに反発してるんだな?

まぁ、そうとも言えるね

 少女はうーむと考え込み、案が浮かぶと、少年の肩を叩いてウインクした。

 少年は気味が悪そうに少女を睨むと、少女はいつもの笑顔で、行きかう人々に言った。

すみませ~ん、どなたか、このかっこいくて賢い少年より、もっと賢い男の人を交換して頂けませんか~?

えっ!?

 今までの少年の言動のどこを見聞きすれば、そのような発言が出るのか。少年には衝撃が走った。

 とは言え、先程の金髪の少年とは違い、黒髪で大人しそうなその少年に、あながちでもなさそうな女性が寄ってくる。

あら、可愛らしくて賢そうな子ね。うちの息子で良ければ、一日交換しませんか?

本当ですか! 是非ぜひどうぞ!!

ええっ!!?

 少女は少年を簡単に手渡すと、女性は少年の手を引き、代わりに隣にいた幼い男の子を少女の下へやった。

今日は、このお姉ちゃんと遊んできなさい

はぁい! ママ!!

い、いや。俺は君の家に厄介になるはずじゃ……

ボク、行くわよ

 恨めしそうにブツブツと呟きながら、少年は女性に連れていかれた。少女は呑気に少年の手を振り終えると、次の少年へと声をかけるのであった。

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