『アウト・オブ・ディス・ワールド』(原案:ポール・カリー) 近代奇術の父、ダイ・ヴァーノンが絶賛した傑作中の傑作。観客が直感で、裏向きのままカードの赤と黒を選り分けていく。観客の手で行われたにもかかわらず、表を見てみると正確に赤と黒が選別されている。
奇跡には惜しみない拍手を
第4話
付属のトランプがついていたということは、これに仕掛けがあるとしか考えられない
仕掛けですか。でも私が触って確かめたところでは、普通のトランプでしたよ
うーん……。いや、今までにないトリックですから、何があってもおかしくはない
特殊な配列になっていたとか?
それもあり得ますね
でもある配列になっていたとして全てのケースに対応できるはずがない
カードの種類は52種類。枚数目の選択肢も52通り。成功する確率は52×52で……
2704分の1。大した確率じゃないですね
それはマジックに毒されすぎですよ。十分すごい確率だ
そうでしょうか。他のマジックの方が確立低いのありますよ。ポール・カリーの『アウト・オブ・ディス・ワールド』なんて、トリックなしで成功させるのは天文学的確率ですし。それに……
それに?
交通事故で死ぬ確率の方がもっと確率は低い
……彼はとことん悪運の強いやつだった
そうですね
悪運……。城二さん。先ほど博仁は嘘を吐いたとかどうとか……
ああ。そうなんです。父は死ぬ直前、一度だけ意識を取り戻したんです。その時『あいつには嘘を吐いた。ほんとは怒っちゃいなかったし、あいつと別れたくなんてなかった』と
そんなことを……
だから、あんまり気を負わないでください。レクチャーノートの解説だって、読んでいいんですよ
……わかったぞ
え?
あのとき、俺に博仁が見せた『とっておきのトリック』のタネが……
わかったんですね
あれは偶然だったんだ。奇跡と同価値の偶然。あいつは俺と別れる気はなかった。『とっておきのトリック』なんて存在しなかったんだ
それは一体、どういう……
あいつもカッとなって、ついあんなこと言ってしまったんだよ。『このトリックが成功したら金輪際、会わない』と。タネなんてなかったんだ。よもや成功するとはあいつも思ってなかったんだ。2704分の1の確率。そんなの成功するわけがなかった。でも成功しちまった。あいつはとことん悪運の強いやつだったから
なるほど。それが一番つじつまが合います。でもじゃあ、たった今見せてくれたトリックの説明はつかない。そうでしょう
それなんですよねえ
じゃあ不正解ですね
半分正解だから50点はくださいよ
そうですね。花丸じゃなく三角をあげます
まだ呪縛からは解放してもらえないようだ
マスター。チェイサー貰っていいですか。ちょっと飲みすぎました
はい。……どうぞ
どうも。さて、そろそろ帰りますか。チェックで
ありがとうございます。お支払いは現金ですか?
カードは使えます?
はい。勿論です
じゃあ、これで
はい。お預かりいたします
ちょっとお手洗い行ってきますんで
お手洗いは突き当りを右です
はいはい
あいつにちゃんと謝るべきだった……
こんなことになるなんてなあ
アメックスのゴールドカードかよ……。若いのにご立派なこって……
……
!?
ご署名:宗賀博仁
あいつの名前じゃないか!? 親父のカードってことか? いや……
いやあ、すっきりしました
おしぼりどうぞ……
あ、すみません
……あの
はい?
このカードなんですけど……
……やっと気づいた?
……は?
俺だよ俺、博仁。宗賀博仁
いや、あなたはその息子の城二じゃ……
結構ヒントはあったと思うんだけどな
ちょっと待て、どういうことなんだ。博仁は死んだ。そうだろ?
そこから説明しないといけないのか
なにがなんだか……
じゃあ種明かしと行きますか。宗賀博仁、本当の『とっておき』の
つづく