夜の空はいつもと変わらない。

 静寂を漂わせて、そこに在った。
 
 いつものように月が嗤う。

 無様に生きる者を嘲笑う。

 雲が月を覆い隠す。

 口元に笑みが浮かぶ。

 月は見ていない。

 誰も見ていない。

 だから…………

男優

何で、お前が!!
心臓を一突きにしたはず

女優

キャハハハハハハ
貴方が刺したのは人形だったの!!!!
気付かなかったのね。

男優

そんな、バカなことが

女優

死ぬのは貴方よ。
でも、安心して寂しくないから。
すぐに、ここの蝋人形たちの仲間にしてアゲル。

男優

ぐぁあああ

素晴らしい

最初は女優が演じているものと思ったのだが、まさか人形だったとは。

人間かと思ったら、人形だったのね。
騙されたわ。

デューク

俺の蝋人形が舞台上に立っている。
いや、倒れているか。

 客席の奥に立つ男が一人。

 表情もなく、気配もなく、彼は舞台を眺めていた。
 視線の先に映るのは、女。
 舞台上で鉈が頭に刺さったまま倒れている。

 蝋人形なのだと告げても信じられないだろう。

いやぁ、最高の舞台でした

デューク

………

貴方の蝋人形のお蔭です。
素晴らしい。

デューク

お役に立てて何よりです

次の作品もお願いできますかね?
貴方の蝋人形を舞台に並べるだけで華になりますから。

デューク

俺の本職は蝋細工職人です。
小物が専門なので、申し訳ありません

ああ、残念だ。
勿体ない才能だよ

デューク

そういえば……………あちらの蝋人形を作成した作家はどうされたのですか?

 奥の部屋、依頼主の執務室で微笑む女の姿があった。


 あれは蝋人形。

 ある作家が作った最高傑作。

 まるで、人間そのもの。。

ああ、才能はあったのだが性格に問題があってね。解雇したのさ。

デューク

ホンモノに見えます。
俺のなんて足元にも及ばないだろう。

貴方も彼に負けますまい。
参考にしたというだけで、あれ程の作品を仕上げたのですから。

デューク

ただの真似事です。
俺にはゼロから作品を作るなんて、そんなことは出来ませんよ。

 依頼主の執務室には他にも蝋人形が並べられている。

デューク

動物たちも美しい。幻獣や魔獣もいるとは、彼の才能には嫉妬します。
ですが、幻獣や魔獣なんてなかなか見れるものではないでしょう。
彼はどうやってコレを作成したのでしょうか。

魔獣を飼育している者たちが居るのですよ。
彼らから購入して美しさを保たせたまま剥製にしました。
それをモデルに作らせたのですよ。

デューク

………

どうされましたか?

デューク

いいえ、あまりの美しさに目を奪われただけですよ。

ハハハハ!
私の最高のコレクションですからね。
剥製も良いですが、蝋人形も素晴らしいでしょう。どうぞ、どうぞ、もっと見てください。










デューク

………疲れた

 息苦しさから解放されたような気がする。

 埃くさい空気でさえ、心地よいと思う。

 空を見上げる。

 月が嗤っていた。

 誰を笑っているのだろうか。

デューク

蝋人形なんて、もう作りたくない。
大きなものを作るのは疲れる、しんどい。

デューク

商売とはいえ、死ぬほど喋った気がするな。
面倒だ、しばらくは面倒な仕事はしたくない。

蝋細工職人のデュークさんですね

デューク

君は?

とある館の使用人です。

デューク

へー……

そういえば、この辺りで殺人事件があったみたいですね? 
自警団の方々が騒いでました。

デューク

そうか………
で、何のよう?

我が主が貴方に蝋細工の依頼をと

デューク

依頼?

お願いします

デューク

待て、俺はまだ引き受けるとは……

デューク

………消えた

デューク

依頼品は薔薇の蝋細工。
依頼主はベン・カサブランカ。
報酬は……………なかなか良いな。

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