操業終了
神無〜。
神無〜。
終点です。
誰もいない駅。
人影のない列車。
扉の開閉音とアナウンス以外
音のない静寂な空間。
スッ。
誰もいない車内から
染み出すように現れた人影。
……。
ここで降りろということかの……。
終点のアナウンスを受け
老人は無人のホームへと降り立った。
すると、どこからとも無く
出迎えの声が響いた。
ようこそ、神無へ。
……む。
老人が声のする方に目をやると
そこにはいつの間にか
古風な出で立ちの中年が立っていた。
ずっと探しておりましたよ。
ほう、そうか。
まったく、迷惑な話じゃ。
大黒のところへ遊びに行く予定じゃったのに、結界を張りおってからに。
老人は、ため息混じりで
中年に不満をぶつける。
すいやせんねぇ……。
こちらとしてもこのチャンスを
逃したく無かったんでねぇ。
それにしても、何やら浮かぬ顔つきのようで……。
なぁに……。
先のある一人の若者を救えなくてな……。
寿命を司ると言われながら、
この体たらくじゃ……。
それはそれは……。
まあ、何事もうまくいかないのが
人の世の常と言うもの……。
こんな事、貴方様に言う事では
ありませんけどね。
かまわんかまわん。
ワシも元はと言えば人間じゃ。
肝に銘じんとな。
ええ、違いありやせん。
ホッホッホッ……。
ハッハッハ……
二人の乾いた笑い声が
無人の駅にこだまする。
さて……。
ひとしきり笑いあった後、
中年の男が声色を替えて切り出した。
与太話はこの辺にして、
そのお力、我らの為に頂きます。
はて。
お前さんに奪えるかのう?
ナメてもらっちゃ困りますぜ、寿老人。
ディザスターが
統領の力を。
中年が声を荒げると
にわかに無人の駅の空気が張り詰める。
まるで何かに掴まれるかのように。
……しかし。
そうかそうか……。
じゃが……
もう間もなくワシの寿命も尽きると
したらどうかのぅ。
な、なんだと!?
そう返した老人の姿が
次第に薄れゆく。
くっ……。
その前にその力、頂くぞ!
憤る中年は
その手に赤い紋様を浮かばせると
老人に襲いかかる。
しかし……。
さらばじゃ。
その手が触れるより早く
老人の姿は無に帰した。
くっ……。
逝きおったか。
寿命を操るその力を持ってしても
自らの寿命を操ることはできないという事か……。
苦悶の表情を浮かべる中年。
どこからともなく別の声が
落胆する中年に話しかける。
もしかしたら、自らの寿命を操って
終わらせたのかもしれませんよ?
なに?
中年は声の主に視線を向ける。
スッ
まったく、大掛かりな仕掛けの割には、お粗末なオチですねぇ。
それは少年とも少女とも区別がつかない
佇まいの若者。
白尽くめの若者は
嫌味混じりに中年の男を煽る。
てめぇ、シロッコ、いつからそこに?
いつだっていいじゃないですか。
その子を連れ帰りに来ただけですよ。
んだと?
………。
シロッコと呼ばれた若者が
中年の横を指をさすと
そこに蝿の王の姿が浮かび上がった。
ま……まて、こいつはまだ俺が使う!
慌てる中年。
しかし、
おいで、ベルゼビュート。
と若者が声をかけると
………。
………。
蝿の王は若者の傍らへと移動した。
ちっ……くそ。
あーあ、こんなに弱らせちゃって……。
ゴンゾウさんのやり方だと、消耗が激しいんですよね。
僅かな欠片から
使えるまでに修復するのが
どれだけ大変だか分かってます?
五月蝿い!
いいからさっさと修理行程に入れ!
回復したら俺が使う!
ストックのスペラリアは無限にあるわけじゃないんだから、少しは考えてくれないと。
やかましい!
今のディザスターの統領は俺だ!
俺に口出ししたければ、
この座を得てからにするんだな!
ゴンゾウと呼ばれた中年は
シロッコと呼ばれた若者を恫喝する。
若者は仕方なしに
はい、はいっと。
と気のない返事をし
蝿の王の手を取りその場を後にする。
行くよ、ベルゼビュート。
……。
降車拒否
〜Another Side〜
〜神無市怪奇譚〜
『消えた寿老人』
キーワード
『降4』