――7月13日15時37分。
俺はそっとティンカーベルの手を握った。
彼女は何も言わない。
生きている。
誰も死ぬことはなかった。
それが、心から嬉しくて、俺は手を握っていた。
――7月13日15時37分。
俺はそっとティンカーベルの手を握った。
彼女は何も言わない。
生きている。
誰も死ぬことはなかった。
それが、心から嬉しくて、俺は手を握っていた。
ありがとう
ノルンが屋上の柵に座ってこちらを見ていた。
ティンカーベルはノルンに気づいていないようだ。
ノルン
葛城ゆきねにはあたしは見えないから、大丈夫。それより……ありがとう
ノルンは嬉しそうに笑って、手を振った。
また、別の形で会おうね
別の形って……
じゃあね、『おとうさん』
……!?
ノルンは少しだけティンカーベルに似た笑顔を浮かべると、すうっと夏の空に消えていった。
人生はそうそう劇的なもんじゃない。
心を病んで入院してしまった工藤先輩は、転校することになったという。
相馬先輩は嫌がらせこそしてこなくなったが、裏の顔は相変わらずのようだ。
ティンカーベルはなんとか学校を続けられることになり、お父様とも次第に友好な関係を築きはじめていると言う。
俺は俺で、友人からチャットアプリやスマホゲームに誘われる日々が戻ってきた。
一番変わったのは、俺とティンカーベルの関係だろう。
雄哉センパーイ
夏休みの繁華街。
今日はティンカーベル――ゆきねと二人で映画を見る約束になっていた。
遅い、遅い! 映画始まっちゃうよ
ゆきね、元気過ぎ。暑くないの?
暑いけど、デートだもん!
笑うゆきねの顔は、夏空よりも眩しい。
映画の後は、CDショップで新譜確認したいし
DLでいいじゃん
形に残ってるもののほうがいいときもあるでしょ
……確かに
あの三日間は俺の心にしか残っていない。
形に残ったといえば、こうしてゆきねの生きていることを感じる癖がついたことだろうか。
変なの、と笑われるが、彼女が生きているのが俺にはひとつの奇跡だ。
どうしても確かめずにいられない。
はい、手
ん
雄哉センパイ、手をつなぐの好きだもんね
俺は曖昧に笑う。
キミのぬくもり。
キミが生きている証。
キミの世界で、キミを守ろう。キミの味方であり続けよう。
たとえ、それがどれだけ苦しく、困難な道のりでも。
キミが、もう空なんか飛ばなくていいように。
ほら、雄哉センパイ、走って!
俺たちの夏は――時間は、まだまだ始まったばかりだ。