この街には
一つの噂がある。

真昼の都会のど真ん中。

そんな都会の
一角で、人知れず
女子高生の幽霊
が出る、という噂が。

 ——もう限界だった。

 最先端の技術が集う大都会。その華やかさは、人々を魅了し、惹きつける。

 ——だから、些細なことには人々は目を向けない。それも、他人の不幸なんて気に掛ける余裕もない。

 辺りを見渡せば、幸せが溢れているんだから。

 ——今日も、私はその眩しい栄光の陰に隠れて、独り路地裏に座り込んでいた。

もう、ダメなのかな・・・

 さっきまで、私は同じクラスの女の子と一緒にいた。こんな路地裏に?

 ——そんな質問は、この一言で説明が着く。

いじめ

 日曜日だと言うのに、私は彼女たちに呼び出され、そして財布ごと奪われて置き去りにされた。

 これで何度目だろう。いくら訴えても彼女たちは言うことを聞いてくれない。

 今日が潮時かもしれない。明日から修学旅行が始まってしまうと、絶対にまた格好の餌食にされる。

 きっとそれには耐えられないだろう。だから、今日で幕を下ろそう。

 ——ゆっくりと、重い腰を上げる。

 ふと目をやると、無人のマンションの扉が開いていた。これも運命だろうと、納得さえした。

 扉をくぐり、ゆっくりと階段を昇る。

 見上げて、改めてその高さを実感する。

 どれくらいの時間がかかっただろう。その間は、まるで階段を上る死刑囚の気持ちを想像させた。

 屋上の扉を開くと、青い青い空が広がっていた。

 辺り一面転落防止のフェンスが設置されていたが、一ヵ所だけ、フェンスが破れている場所を見つける。

 そこに向って、私はゆっくりと歩みを進めた。

 フェンスに足をかける。自然と体は軽くなった。私は今、誰よりも高い場所にいる。

 死ぬときには走馬燈を見ると言うけれど、私の場合はいい思い出がないんだから、できれば見たくない。

 一つだけ心残りがあるとすれば、死んだ両親の代わりに今まで育ててくれたお義母さんに、最後のお別れが言えなかったことだ。

 ——二年前に死んじゃったんだもん。仕方がないよね。

 私は目をつぶり、フェンスを掴む手に力を込める。

 ふわりと、身体が重力の制約から一瞬解放される。

 どこまでも青い空だった。

 私は心地よい浮遊感に全てを預ける。

 そして——

さよなら

私の体は、急速に
落下を始める。

この街には一つの
噂がある。

真昼の都会のど真ん中。

そんな都会の
一角で、人知れず
女子高生の幽霊
が出る、という噂が。

 私は目をつぶり、フェンスを掴む手に力を込める。

 ふわりと、身体が重力の制約から一瞬解放される。

 どこまでも青い空だった。

 私は心地よい浮遊感に全てを預ける。

 そして——

さよなら

私の体は、急速に
落下を始める。

 ——その途中で。

おっとと。大丈夫ですか?

 立派な胸を持った、赤い瞳の、長く薄い青色の髪の、着物をはだけた、一人の少女が。

 落下する私の体を受け止めた。

あなたは?

話は後よ。このままじゃ二人ともお陀仏だし・・・飛ぶわね

 まるでこの世界の住人ではないように。彼女の周りだけ、白く世界が切り取られている。

 その少女が言った後。私たちの体は虚空へ消えた。

ふうー。危なかった。もう少しで死ぬところだったわ

おお、おかえり看取(みどり)くん。どうだ? 保護は出来たんかの?

あら博士。一応できたけど、彼女もろとも私まで地面に激突するところだったわ

まあいいじゃないか。どうやら彼女の住む街から、『女子高生の幽霊が出る』という噂も消えたようじゃよ

それにしても、死んだことに気付かず、人生最後の瞬間を延々と繰り返すなんて。そんなループ地獄辛すぎるわよ

じゃから儂等がおるんじゃろ? 一人でも多くのループに囚われた者たちを救うためにな

「脱ループ同盟」なんて安直な組織だけどね。それにメンバーは私と博士の二人だけ。それで? 次はどこの誰を救いに行くのかしら?

そこは素直に迷惑をかけてすまないと思っているよ・・・それで次の目標じゃが、まだまだ続くぞ。取り敢えずは、『死んだことに気付かない彼女に取りつかれている少年』

また自分が死んだことに気付かない幽霊なの?

救う対象は男の方じゃがな。その次は『自ら作った装置で夢の世界に依存する女性』

そんなの自業自得じゃない!

まあな。じゃからこの特別製のハンマーで、多少乱暴にやっても構わんぞ。それから『”仲間外れ”として同じ毎日を繰り返す女子高生』

仲間外れって?

どうやらその世界では、住人がどんどんロボットとすり替わっておるようじゃな。彼女はその生き残りじゃ。それと『自分がギャルゲーの中の主人公だと気付けず悩み続ける男子高校生』

そんな奴どうやって救うのよ?

儂も謎じゃ。取り敢えず事実を教えてくれればいい。最後に『時計としての自分に疲れた針』

甘えた奴ね。ぶっ壊していいのかしら?

まあまあ。電池を抜くくらいで済ましてやってくれ。さしあたってはそのくらいじゃ。よろしく頼むよ

まあいいわ。ご褒美はイチゴたっぷりのクレープを用意しておいてね。それじゃ、行って来ます!

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