エンディングが違っている
エンディングが違っている
ぴよ ぴよ ぴよ
ん?
鳥の鳴き声に顔を上げると、
ほらっ
戻ってきた悠真が、ボクにブルーレイのパッケージを渡した。
なんだ?
これは……。
あれ?
私が卓也を
助けるの!
あの映画?
ボクがここに来る前に観ていた映画のようだ。
ボクのお気に入りの映画だ。
タイムリープで思い出した。
わざわざ探してきたのか?
わざわざとか言うな。
実際に観た方が早いと思ったんだ。
お前の説明を聞くより
マシかもな。
なんてことを
言うんだ!
ボクはパッケージのあらすじを読んだ。
「不慮の事故で幼馴染の卓也を死なせてしまったミチルは、何度もタイムリープを繰り返し、いろいろな人間と関わるようになる。果たしてミチルは卓也を助けることができるのか?」
やっぱりボクが観ていた映画だ。
時間を戻しても助けられない
って話だったはずだ。
それで最後は主人公が泣き崩れて終わり。
お前、こんな話が好きなのか?
ハッピーエンドしか受け入れなさそうなのに。
「こんな」とか
言うなよ!
そりゃ、ハッピーエンドで、
お前みたいなヒネクレ坊主には不満かもしれないけど……。
ボクはこういう話が
好きなんだ!
ハッピーエンド?
ミチルが何度も
卓也の死を見続けるのに?
それにミチルが耐えられなくなって、タイムリープをやめてしまう話だった。
それは辛かったよ!
ホントにホントに辛かった。
観ているこっちまで辛くなるし!
でも、だからこそ!
卓也を助けられた感動もひとしおだったんじゃないか!
え?
ミチルも卓也もお互いのことを好きってことに気づく、ハッピーエンドなんだよ!
はい?
え? どういう終わり?
そんなだったか?
こいつの妄想か?
時を戻すことができても
彼を生き返らせることはできない。
って、言ってたぞ。
ボクの記憶違いか?
それともボクは最後まで観てなかったのか?
悠真、あなた
8歳の子供に
呆れられてるわよ……。
いや、そうじゃない。
ハッピーエンドなのか?
この話は。
そうだよ!
ものっすごく大大
ハッピーなエンドだよ!
あれ?
この話に
前後作はあるのか?
そんなに話題になってもないし
これ一本きりだと思うわ。
1巻2巻とかあるの?
悠衣が悠真に聞いた。
ないんだ!
これ一本きりなんだよ
即答した。
続編が出そうな気配は?
ないんじゃない?
この後に、あの不毛な終わりを作るっていうのも……。
制作は2024年……。
女優の年齢とかを考えても、
ボクが観たのはこれだ。
なかったら、
ボクが作るよ!
悠真は映画よりAIを作った方が
世のためになるわ。
お姉ちゃん……。
あんたはAIを作るの
わかったわね。
わかった……。
これが、弟は絶対に逆らえないという「姉貴命令」?
悠真にはそれしか
取り柄がないんだろうな……。
この内容を確認したい。
ボクがストーリーを教えるよ。
いや、自分で確かめる。
お前の説明はお前の解釈が
混じりそうでダメだ。
なんだよ!
それ!!
柳之助くんが観た方が
いいと思うわ。
お姉ちゃんまで!
早く観せろ
ボクはパッケージを悠真に渡した。
は~
ため息をついたが、悠真はすぐに映像を出した。
早送りでざっと観終えた。
良い話だっただろ?
…………。
面白かったよな?
うるさい、悠真……。
ストーリーが、
変わっていた……。
え?
ボクが観たのは、何度タイムリープしても卓也は生き返らず、ミチルが絶望して「やっぱり未来は変えられない」と言って終わる。
はぁ?!
なんだよ、それ!!
ボクが観た
この映画のエンディングだ。
最後に大どんでん返しがあって生き返るのか、とも思ったが、ミチルが嘆くシーン自体がなかった。
この映画は苦労の末に
幼馴染を取り戻し
恋を成就させるという
壮大なテーマなんだぞ。
どこが?
別に壮大でも
なんでもないだろ。
この話なら、お前
気に入るだろうな……。
そうだよ!
お気に入りだよ!
なんか文句
あるのか?!
悠真、8歳の子相手に
大人げないわよ……。
この映画を作っている途中までは柳之助くんの言うストーリーだったみたい。
直前でミチル役の子が「卓也を助けたい!」って言い張って、ハッピーエンドになったらしいわ。
そう言って、悠衣はタブレットの検索結果を見せてくれた。
ボクの知っている過去と違う……。
…………。
吉良ってヤツから
事情を聞く。
さんちゃん、吉良は今、
どこにいるんだ?
ぴぴ(はい)
ぴっぴぴぴー(さっきと変わらず、地下研究室……、柳之助くんがはじめに居たところです)
それを聞いて、ボクは悠真の背中に乗った。
よし、行け。
なんでボクが!
そう言いながらも、悠真が動き出した。
こいつ
使えるヤツだな……。
やっぱりこの子
柳之助くんにも使われるのね……。