例えばなんだけど……

実験室の方から音が聞こえてきた。

「だいたいの場所はわかっているけれど、どこに出るかわからないからここにはいないように」

と柳之助には言われていたけれど、研究ついでに実験室で待っていた。

悠衣

どうにかならないのかしら

ウチの連中が喜びそうな形だ。
そんなことを思って近寄ると、UFOまがいの乗り物から、見慣れた方の柳之助が出てきた。

悠衣

お帰りなさい

柳之助

ただいま

そう言って、UFOまがいの乗り物から降りた柳之助は私を抱きしめた。

悠衣

もう帰ってこないかと
思ったわ。

柳之助

キミを置いて?
まさか。

悠衣

あなたが生まれた時空に
戻ってたんでしょ?

柳之助

そうだよ

悠衣

引き止められたりしなかったの?

柳之助

ん……、
まあ……。

悠衣

女の人に
止められた?

柳之助

それはないよ。

悠衣

じゃ、男の人?

柳之助

……。

柳之助は答えなかった。

悠衣

止められたんだ……。

悠衣

8歳の柳之助に会った。

柳之助

私も会ってみたかったよ。

悠衣

クソ生意気なガキだったわ。

柳之助

そう?

悠衣

言ってることはわりと同じだけど
ちまいガキが言うと、こんなに腹立たしいんだって思ったわ。

柳之助

ひどいな

悠衣

言っていることが
少し違っていたわ

柳之助

悠衣

10年前にあなたは、まだ人類が少し残っているような口ぶりだったれど、私が会った柳之助くんは「自分が最後の人間かもしれない」って言ってた……。

柳之助

たぶん、私はあの世界で、
最後の人間だよ。

悠衣

柳之助は、まだ自分の周りに人間がいるような口ぶりをしていたわ。

柳之助

私の周りにいたのは、
アンドロイドだよ。

柳之助

でも、ひとりだけ「もしかしたら人間かもしれない」って思っていたアンドロイドがいたんだ。

柳之助

それも、アンドロイドだった。
非常に人間によく似たね……。

悠衣

本当に?

柳之助

私は彼がアンドロイドであることを
確認してきた。

悠衣

そう……。

悠衣

あなたが、私のことを
好きになったのはいつから?

柳之助

どうしたんだ?

悠衣

教えて?

柳之助

はじめてキミをみた時からだよ。

悠衣

あのクソガキが?

柳之助

ははは

柳之助

……クソガキ?
私が?

あ、怒った?

悠衣

どうして過去に戻ったの?

柳之助

キミが「ガキは嫌い」って
言ったからだよ。

悠衣

言ったけど……。

ついさっき、言ったばかりだ……。

柳之助

何か不満でも?

そう言って、柳之助は私の手に触れる。
目の前に、彼の左手が来た。

悠衣

あれ?

悠衣

指輪の形が違う?

柳之助のリングには宝石はついていなかったのに、小さな青い石が付いていた。

私はそれに触れる。

悠衣

取れない。
しっかりとくっついてる……。

プラチナのリングに、青い石が埋め込まれていた。

柳之助

どうしたんだ?

悠衣

私のこと、好き?

柳之助

もちろんだよ。

悠衣

この指輪は……。

柳之助

キミが欲しいって言うから、
買ったんだよ。

悠衣

そう……だっけ?

柳之助が無理やり買って来たんじゃなかったかな?

この人は

本当に私が愛した

柳之助なの?

柳之助

私がブルーダイヤで、
キミがピンクダイヤ。

悠衣

え?

私は慌てて指輪を確認した。

悠衣

あ……
ピンクダイヤ、付いてる……。

シンプルなプラチナリングだったような?

柳之助

私はキミ以外、愛さないって言っただろ?何が心配なんだ?

悠衣

ごめんなさい。
勘違いしてたみたい……。

柳之助とお揃いの、プラチナに小さなダイヤが埋め込まれた指輪を、一緒に買いに行った……。

悠衣

私も、あなたのこと、
愛してるわ。

柳之助

うん……。

柳之助は、私を抱きしめた。

悠衣

そうだった……
ような気がするけど……

リングには小さなピンクのダイヤが光っている。

悠衣

私のこと、
嫌いって思ったことある?

柳之助

思うわけないだろ。

柳之助

どんなキミでも、
好きだから。

悠衣

ん……。

彼は、いつでも私に愛情を示してくれる。

もしも、この先

私のことが大嫌いだという

柳之助が現れたらどうしようなんて

そんなことを

ちょっとだけ考えてしまった

例えばなんだけど……

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